コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第230回
2013年7月4日更新
第230回:日本人俳優がハリウッドで活躍するためには?
先日、ギレルモ・デル・トロ監督の「パシフィック・リム」をついに鑑賞した。デル・トロ監督が子どものときに大好きだったという日本のアニメや特撮モノを最新のVFXで蘇らせた力作で、もともとこのジャンルにあまり興味がない僕でも、そのあまりのこだわりように胸が熱くなってしまった。この夏、日本を舞台にした「ウルヴァリン:SAMURAI」も公開されるから、ちょっとしたジャパンブームといえるかもしれない。
でも、ハリウッドの日本に対する興味は、実はもっと大きいかもしれないのだ。先日、ニューヨークで行われた「RED2(原題)」の取材のあいまに、プロデューサーのロレンツォ・ディ・ボナベンチュラ氏と雑談をかわす機会があった。「RED2(原題)」には、ブルース・ウィリスやヘレン・ミレン、ジョン・マルコビッチといった前作のキャストに加えて、凄腕の殺し屋としてイ・ビョンホンが参加している。ディ・ボナベンチュラ氏は「G.I.ジョー バック2リベンジ」でもイ・ビョンホンを起用していて、さらに「ラストスタンド」では韓国人のキム・ジウン監督を起用している。それで、「どうして日本人を起用しないんですか?」と意地悪な質問をしてみた。
すると、いかにも心外であるように、「『ラストサムライ』を忘れてもらっては困るよ」と反論した。たしかに、彼はかつてワーナーの重役として、「ハリー・ポッター」や「マトリックス」などとともに「ラストサムライ」にゴーサインを出していた。現在も日本を舞台にした「The Sword」というアクション映画を企画開発中であり、決して日本が嫌いなわけではないという。
それでも、韓国のタレントを重用するのは、韓国映画がハリウッド映画的で分かりやすいことに加えて、「韓国側から積極的にアプローチしてくれるからだ」と、ディ・ボナベンチュラ氏は説明する。それと引き替え、日本からハリウッドに対する働きかけは一切なく、こちらに興味があっても誰に連絡を取ればいいか分からない。今の日本でどんな俳優が人気なのか調査することはできても、なぜ人気があるのか、どこが魅力なのか見当もつかないと言うのだ。
最近のほとんどのハリウッド大作には、いわゆる「外国人枠」がある。アメリカ国外での興行収益をアップさせるために、外国で人気のある俳優を起用するのだ。しかし、大半の日本映画はハリウッドの映画人にとってその面白さが分からないし、人気俳優に関する情報も少ない。だからこそ、きちんと売り込みをしている韓国や、巨大市場を持つ中国の俳優が抜擢されるのだ。「パシフィック・リム」や「ウルヴァリン:SAMURAI」に日本人が起用されたのは、製作者側に強烈なこだわりがあったり、設定上、日本人である必然性あったからに過ぎない。実は、知らないうちにたくさんの出演機会を失っていたのだ。
そこでひとつ提案なのだけれど、ロサンゼルスに日本映画の窓口を作ってみてはどうだろうか? 模範とするのは、英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)だ。BAFTAは1980年代にロサンゼルスにオフィスを開設して以来、イギリスの若手俳優や映画作家を紹介したり、イギリスでの映画撮影を誘致している。もし、このオフィスが存在しなければ、現在のアメリカの映画やドラマにこれほどたくさんのイギリス人俳優が出演することはなかったはずだ。
ロサンゼルスに日本映画の窓口を立ち上げ、日本人の俳優に関する問い合わせの対応はもちろん、ハリウッドで開発中の脚本に関する質問から、日本でのロケ撮影に関するノウハウまで、情報を提供したり、しかるべき人物に取り次いだりする。また、ハリウッド進出を目指す日本のタレントや芸能事務所のために、こちらのプロデューサーやエージェントを招いたイベントを実施する。独自の映画賞をやるのも面白いと思う。クールジャパンとして日本のコンテンツの海外への売り込みが注目されているなか、この試みはやる価値が十分あると思う。どなたか、やってみませんか?
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi