コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第210回
2012年12月27日更新
第210回:メッセージ性&商業性を備えた良作を生みだすパーティシパント・メディア
マット・デイモン主演の最新作「Promised Land」(ガス・バン・サント監督)を見た。デイモンが俳優のジョン・クラシンスキーと共同で脚本執筆した作品で、ガス会社のやり手のセールスマン(デイモン)が採掘権の獲得のために小さな街を訪問した際に経験する人生観が変わる出来事を描いた佳作だ。とくに感心したのは、シェールガス採掘のために用いられる、フラッキングと呼ばれる水圧破砕の問題点を描いていることだ。いま話題となっているタイムリーな環境問題を、商業映画のなかでしっかり紹介しているのである。こんな野心作にいったい誰がゴーサインを出したのだろうと思ってクレジットを確認したら、予想通り、パーティシパント・メディアが制作に名を連ねていた。
パーティシパント・メディアは2004年に設立された比較的新しい会社で、ジョージ・クルーニー監督の「グッドナイト&グッドラック」やスティーブン・ソダーバーグ監督の「コンテイジョン」「ヘルプ 心がつなぐストーリー」などを手がけている。これらの作品を見た人ならば、すぐに共通点に気づくだろう。パーティシパント・メディアは、社会的意義のある作品を手がけることを使命にしている稀有な会社なのだ。
ハリウッドにとって映画づくりはビジネスだから、ヒットを生み出すことが最優先される。多くの観客が映画に求めているのは現実逃避だから、映画企画を立てる際に社会性やメッセージ性といった要素が検討されることはほぼない。パーティシパント・メディアは、アウトサイダーであるからこそ、こうしたテーマに果敢に取り組んでいるのだ。
創始者は、米オークションサイト最大手eBayの初代社長ジェフリー・スコール氏で、株式公開で得た巨額の富を映画制作につぎ込んでいる。裕福になった人が慈善活動に励むことは珍しくないが、スコール氏は映画という影響力のある媒体を利用して社会貢献する道を選んだのである。
メッセージ性のある映画というと、得てして説教臭くなってしまうものだが、パーティシパント・メディアの作品は、商業性を兼ね備えているのが見事だ。実は、「Promised Land」以外にも、今年は「リンカーン」と「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」の制作に関わっている。面白くてためになる映画を、今後も作り続けていってほしいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi