コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第173回
2012年3月12日更新
第173回:童話が脚光を浴びるハリウッド、次なるターゲットは「白雪姫」
ハリウッドではときどき似たような映画企画が同時につくられることがある。97年には「ボルケーノ」と「ダンテズ・ピーク」という火山爆発パニック映画、98年には「アルマゲドン」と「ディープ・インパクト」という隕石墜落パニック映画、さらにはアリを主人公にした「アンツ」と「バグズ・ライフ」というふたつのCGアニメがバッティングした。
そして、2012年は、「Mirror Mirror」と「Snow White and the Huntsman」というふたつの白雪姫映画が対決することになる。
「白雪姫」がいまになって競合することになったのは、童話が映画原作として注目されるようになった背景がある。
洋画、邦画を問わず、原作がある映画にゴーサインが下りやすいのは、極論してしまえば、観客動員を見込めるからだ。有名コミックが原作ならファンが足を運ぶだろうし、ファン以外にもそれがどういう映画か容易に伝わる(「米人気アメコミの待望の映画化!」とか)。でも、オリジナルの映画企画だと、潜在的なファンなど存在しないから、映画館に足を運んでもらうためには、まずはどういう映画かを知ってもらわなくてはならない。大作映画となると、スタジオはそれだけ大きなリスクを背負うことになるから、すでに知名度が高くて、大量動員を見込める作品を選択するのは、ビジネス的には正解なのだ。
ただし、売れそうな小説やコミック、ゲームは競争が激しいから獲得が難しい。そこで、玩具(「トランスフォーマー」)、アトラクション(「パイレーツ・オブ・カリビアン」)までが映画のもとになってきた。そしていま、童話が脚光を浴びているのだ。
きっかけはもちろん、「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」を原作にした「アリス・イン・ワンダーランド」の大ヒットで、その後も、「赤ずきん」や「オズの魔法使い」の前章などが相次いでつくられている。有名童話の場合、パブリックドメインだから映画化権の獲得に資金は不要だし、世界中の人々が慣れ親しんでいるから、潜在的なヒットの可能性がものすごく高い。かくして複数の制作会社が「白雪姫」に着目し、映画化をスタートしたため、このような事態となったのだ。
先に全米公開に漕ぎ着けたのは、ジュリア・ロバーツが王妃を演じる「Mirror Mirror」という作品。誰もが知っているストーリーに多少のツイストを加えながら、VFXを駆使してユーモラスに語っていくというアプローチは、ティム・バートン監督の「アリス・イン・ワンダーランド」と似ている。映像派のターセム・シン監督はストーリーをなおざりにする傾向があるけれど、この映画はしっかりまとめているし、故・石岡瑛子さんが手がけたゴージャスな衣装も楽しい。白雪姫役に抜てきされたリリー・コリンズ--なんと、歌手フィル・コリンズの娘だ――の、クラシカルな魅力もいい。ファミリーで楽しめるファンタジー映画だと思う。
さて、今年6月にはライバル作品「Snow White and the Huntsman」の全米公開が控えている。こちらはどんなアレンジを加えてくるのか、楽しみだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi