コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第172回
2012年3月5日更新
第172回:今年の注目作は、リドリー・スコット監督最新作「プロメテウス」
米映画界最大の祭典であるアカデミー賞授賞式が終わった。結果は下馬評通りの展開で、久々に司会に復帰したビリー・クリスタルはさすがに安定感たっぷりだったものの、一連のジョークやコントは既視感のあるものばかりで、米マスコミの評価はかなり辛口だ。僕も彼らの意見に賛成だが、アカデミー賞が抱える最大の問題は、司会や演出以前に、ノミネート作品が一般の映画ファンの好みと離れすぎてしまっていることだと思う。かつては「スター・ウォーズ」や「E.T.」、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のような娯楽作品が作品賞にノミネートされることが当たり前だったのに、近年はめっきり減ってしまっている。今年なら、全8作の壮大なサーガの完結編として「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」に作品賞をあげてもよかったのに、ノミネートすらしていないありさまだ。アカデミー会員の高齢化とともに通好みの佳作ばかりが受賞するようになっており、恥ずかしながら僕自身の好みも彼らと似通っているけれど、アカデミー賞が今後も映画ファンにとって重要な映画賞として存続したければ、この傾向に歯止めをかけるべきだと思う。人気コメディアンでありアカデミー会員のセス・ゴードンが、作品賞のノミネートで「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」に投票したと告白していたから、彼のような若い会員が増えれば、状況は改善されるかもしれない。
そんなわけでアカデミー賞授賞式には少なからず失望したのだが、落ち込んでいても仕方がないので、今後に目を向けることにする。
今夏も公開を控えている大作映画のなかで、今僕がもっとも期待しているのは「プロメテウス」だ。「エイリアン」の前章としてスタートした映画企画で、リドリー・スコット監督が久々に手がけるSF映画ということで注目されているけれど、僕が期待を寄せているのはデイモン・リンデロフが脚本を手がけているからだ。リンデロフはJ・J・エイブラムスと共同で「LOST」を企画した人で、その後、6年間にわたり脚本家チームを率いてきた。そして、島の謎を舞台にしたミステリードラマの「LOST」と、「プロメテウス」のあいだには大きな共通点があるようなのだ。
放送時の「LOST」と同様、「プロメテウス」も徹底した秘密主義が貫かれているけれど、公開が近づくにつれて全貌が見えてきた。近未来を舞台に、生命の起源を探るために地球を出発した宇宙船プロメテウスの乗組員のサバイバルドラマで、彼らを待ち受けるものが大きなミステリーとなっているようだ。
「LOST」が終了してからそろそろ2年が経とうとしている。「プロメテウス」が同様の知的興奮を与えてくれることを、ひそかに期待している。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi