コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第110回
2009年2月10日更新
第110回:下落するアカデミー賞授賞式の視聴率。今年はどうなる?
いま、NFLスーパーボウル中継を見ながらこの原稿を書いている。アメフト好きではないので試合自体にはまるで興味がないのだけれど、テレビモニターから伝わる熱気を体で感じ、隣人宅から聞こえる歓声やら怒号やらを聞きながら、ジャンクフードを摘むのは悪くない。なにしろ、アメリカでは実に1億人もの人々がこの試合を観戦しているわけで、こっちで生活する一人の外国人として、国民的イベントを体験しておいても損はない。
アメリカの国民的番組といえば、かつてはアカデミー賞授賞式もスーパーボウル中継と同様に注目されていたものだが、いまではずいぶん差をつけられてしまっている。年々、視聴率が下がり、昨年は史上最低の3200万人まで落ち込んでしまった(アメリカは視聴率ではなく視聴者数を発表)。デジタルビデオレコーダーの普及にともなう視聴習慣の変化などが要因のひとつに数えられているが、アカデミー賞におけるインディペンデント系作品の台頭が最大の原因だ。その証拠に「タイタニック」が圧勝した97年には史上最高の5525万人、「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」のときも近年では最高の4353万人を記録している。一方、最低を記録した昨年は、「ノーカントリー」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」といった小規模映画が大半を占め、俳優部門の受賞者はそろって非アメリカ人という結果だった。
つまるところ、一般視聴者は自分が知っている作品や俳優が出ていなければアカデミー賞に興味を示さないのだ。これは、日本のメディアが、日本人や邦画がノミネートされたときに限って、アカデミー賞を大きく取り上げるのと似ている。
では、今年のアカデミー賞はどうだろうか? 最多13部門でノミネートされた「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」は、ビッグスターが出演する大作映画である。もし、この作品が全米で大ヒットを飛ばしていれば、間違いなく授賞式の視聴率がアップするだろう。しかし、製作費に1億5000万ドルも投じた超大作は、まだ1億ドルの壁を越えたばかりである。また、「スラムドッグ$ミリオネア」が賞レースを独走しているため、「有名俳優が一人も出演していない字幕だらけの映画」が有力候補だと知って、今年の授賞式に関心を失う一般観客も多いと思う。もし、全米で5億3190万ドルという大記録を達成した「ダークナイト」が作品賞にノミネートされていれば、今年の授賞式中継は確実に盛り上がっていたはずなのだが、「ダークナイト」は8部門でノミネートされているにも関わらず、作品賞・監督賞では選ばれていない。
と、つらつら書いてみたものの、個人的にはアカデミー賞の視聴率が下がっても構わないと思っている。放送権を持つテレビ局やCM枠を購入したスポンサーなど関係各社にとっては一大事だろうが、ひとりの映画ファンとしては、映画に関心のない視聴者を無理して惹きつける必要なんてないと思うのだ。それに、もし授賞式中継が盛り上がれば、きっとチャンネルを合わせる人も出てくるはず。たとえば、いまスーパーボウル中継を見ているぼくのように。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi