コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第62回
2023年12月28日更新
2023年も残りわずか。1年をふり返ってみれば、今年は久しぶりに海外の映画祭にもいくつか参加できました。コロナ禍も一段落し、いよいよ映画業界も完全復活かと思いきや、ハリウッドのストライキという新たな障害に直面したのも事実です。そんな紆余曲折の1年、ギリギリのタイミングではありますが、あくまで個人的な、今年見て心に残った10本をご紹介したいと思います。
当初、完全なノーマーク作品で鑑賞予定はなかったのですが、監督が「第9地区」のニール・ブロムカンプだと聞いて急遽試写に参戦。ブロムカンプ監督お得意のSF案件ではまったくなく、事実をもとにしたカーアクションなのですが、「どうやって撮ったんだ? まさかCGか?」というシークエンスの連続に衝撃を受けました。YouTubeでメイキング映像を探しまくった結果、かなりイノベーティブな撮影方法を駆使していたことが分かって大興奮。ゲームおたくが、リアルな世界で成功をつかむというストーリーラインも胸熱でしたよね。
●「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」
そもそも、1作目の構成が秀逸でした。この「琵琶湖より愛をこめて」でも、その構成がテンプレとなって大活躍。実際に物語を進行させるドラマ班と、軽自動車でFMを聞きながら共感しまくる家族班に加え、綱引きなどを行うイベント班も追加されて、映画が立体的に立ち上がっていきます。極め付けは、ロケット発射のシークエンス。しかも2発打ち上がりました。爆笑するのを忘れ、ただただ感動です。続編、あと2〜3本作って欲しいです。
●「ゴジラ−1.0」
山崎貴監督と白組が作る「ゴジラ」。これは見ないわけには行かないと映画館に出かけてみたら、もう圧倒的でした。特に、海上におけるシークエンスの数々は眩暈がするほどのクオリティ。そして映画の終盤には、「ゴジラ」と「ALWAYS 三丁目の夕日」と「永遠の0」を3本同時に見ているような気分になりました。全米でも大ヒットしましたね。嬉しい限りです。オスカーにも絡めたら最高ですね。
●「バービー」
これはグレタ・ガーウィグ監督と脚本家チームの大勝利です。単なる子ども用の玩具から、あれだけのストーリーをでっち上げるなんて素敵すぎます。世界中の働く女子たちが大喜びするストーリーを。あと、色彩感覚が派手だったのも印象的ですね。バービーランドの入り口はベニスビーチだし、西海岸の若者たちには一種のドラッグムービーとしても受け入れられたんじゃないかと勘ぐっています。
●「バビロン」
2022年末に完成披露試写で鑑賞したときに、「次のオスカーはこれで決まりじゃん!」って確信したのですが、オスカーレースでは早々に圏外に放り出され、興行でもまったく振るいませんでした。しかし、個人的には監督賞はデイミアン・チャゼルだし、主演女優賞はマーゴット・ロビーだし、助演男優賞はトビー・マグワイアだし、美術賞はフローレンシア・マーティンです。賞レースに残るためには、何が足りなかったんでしょうね。
●「ドミノ」
ロバート・ロドリゲス監督は、ローバジェットの映画でも、知恵と工夫を駆使して観客を楽しませる、言わば「永遠のインディーズ監督の鑑」です。そのロドリゲス監督が、元気に活躍していることを確認できたのが、この「ドミノ」。見終わって嬉しくなりました。別の原稿でも書きましたが、「ちゃぶ台を2回ひっくり返すような大技」を堪能できます。そして、ベン・アフレックの「死んだ目」演技(笑)がまたハマっていましたよね。
●「AIR エア」
ベン・アフレック出演作、もう1本ありました。「AIR エア」です。盟友マット・デイモンと組んだ案件で、ベン・アフレックは監督も務めています。こちらも、「ドミノ」同様なかなかのローバジェット映画だと思われますが、ナイキの大ヒットシューズ「エアジョーダンの誕生秘話」ってだけで、もう勝利が約束されているような案件でした。マイケル・ジョーダン役の出演シーンはなかなか微妙でしたけど。
●「プレジデント」
次はドキュメンタリーです。アフリカのジンバブエにおける大統領選挙を扱った「プレジデント」はかなり胸熱ながら、複雑な後味を残す1本でした。腐敗した現政権を打倒すべく立ち上がり、奮闘を繰り広げる野党の若手候補者に密着した案件です。昨年「チーム・ジンバブエのソムリエたち」というドキュメンタリーを紹介しましたが、それと併せて見ると、ジンバブエの国情が否応なしに迫ってくる。この映画で描かれた大統領選の、次の選挙は今年(2023年)でした。その結果もまた複雑な後味を残しています。
●「ブリング・ミンヨー・バック」
日本のドキュメンタリーも1本。この映画で描かれる「民謡クルセイダーズ」の存在は初めて知りましたが、相当ハイコンセプトなバンドであるなあと。日本の民謡をベースに、ラテンやアフロのリズムをかけ合わせて「世界で通用するミンヨー・エンターテインメント」を構築しています。映画は、この民謡クルセイダーズのワールドツアーに密着していますが、そのクライマックス、ソーラン節でヨーロッパのオーディエンスが縦ノリしている映像に大興奮。「こんな世界があったのか!」ってグッと来ました。このバンド、私もヨーロッパで生鑑賞してみたい。
●「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」(AI案件)
2022年の「トップガン マーヴェリック」ほどの大ヒットとはなりませんでしたが、トム・クルーズは今年も元気な姿を見せてくれました。今年はChatGPTの登場もあって、「AIイヤー」とも言うべき年でもありましたが、その「AIが支配する世界」というテーマを映画にいち早く取り入れているところに、トム・クルーズのアーリーアダプター精神を感じます。トム・クルーズ、次は宇宙で撮影ですよね。イーロン・マスクと一緒にいる姿を、スクリーンで見てみたいと切に思います。
以上、あくまで個人的なセレクションです。我ながら、かなり偏った10本だと思います。映画館で見逃した作品は、配信などで見られる物も多いので、是非ご覧になってみてください。
2024年も、たくさんの素晴らしい映画に出合えることを期待しています。まずはヨルゴス・ランティモス監督の「哀れなるものたち」、そしてクリストファー・ノーラン監督「オッペンハイマー」あたりですかね。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi