コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第16回
2019年6月25日更新
「スター・ウォーズ」新作の邦題決定に思う、中黒「・」表記の未来
「スター・ウォーズ」の第9作目にして完結編の邦題が、「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」に決まったそうです。ちなみに原題は「Star Wars: The Rise of Skywalker」。
今回、スカイウォーカー周りにはふれるつもりはありません。代わりに、よく映画の邦題に使われている「・」こと、中黒(ナカグロ)あるいは中点(ナカテン)問題について、日頃思っていることを述べてみようかと。
そもそも日本では、「スター・ウォーズ(=Star Wars)」に限らず「トイ・ストーリー(=Toy Story)」とか「メン・イン・ブラック(=Men in Black)」のように、英語の題名からカタカナの邦題を作る際、単語と単語の間に「・」を入れる習慣があります。これは映画の題名に限った話ではなく、私たち映画.comでも、「アクション・コメディ」とか「ボーイ・ミーツ・ガール」みたいに普通に使っています。
ところが最近、これが普通じゃなくなってきているんですね。明らかに、そして急速に「・」は廃れています。もしかしたら、近い将来「・」は絶滅するんじゃないかと思っちゃうレベル。
原因は明白です。スマートフォンの普及です。より詳しく言えば、フリック入力とツイッターが直接的な要因です。
例えば、iPhoneのフリック入力で「・」を打つとすると、12個あるキーの右下にある「、。?!」キーを一度タップして、その後変換候補に並んだ「、」「・」「,」の3つから「・」を選ぶというアクションになります。つまり2タップ必要。アンドロイドでも同様です。もっともこれは、「・」を打つ手順を知っている人に限った話。多くの人は、そもそも「・」をどうやって打つのか手順すら知らない。
もう一つがツイッターの問題。普通にツイートする分には「スター・ウォーズ」で問題ない。だけど、ハッシュタグで「#スター・ウォーズ」ってやろうとするとうまくいかない。ハッシュタグは、記号が使えない仕様なので「#スター」で切れちゃう。もっとも、この問題については最近ツイッター側の対応によって、「・」が使えるようになりました。しかし、インスタグラムでは今も「・」は使えません。だからツイッターでもインスタでも「#スターウォーズ」の方が主流。
こんな具合に、「・」が用いられた邦題は、今やスマートフォンに最適化されていない邦題になってしまいました。
かつて「ラ・ラ・ランド」がヒットした時は、みなSNSで「ララランド」って打っていたし、「ボヘミアン・ラプソディ」なんかは「ボヘミアン」と省略するのが当たり前で、さらに短く「ボヘラプ」とか「ボラプ」でしたからね。とにかく長い文字列は打ちたくない。記号なんて手間が増えるだけで、打つ意味が分からない(もちろん、絵文字は別です)。
メディアよりSNSの時代です。一般のスマホユーザーにとっては、昔の人たちが決めたプロトコルなんて知ったこっちゃない。映画のタイトルなんか、他の映画と間違われないよう伝わりさえすればOKでしょ。
ここ最近は、外国映画、日本映画ともに「・」なしの題名がだいぶ増えてきたと感じます。「ウィーアーリトルゾンビーズ」なんかは、「ウィー・アー・リトル・ゾンビーズ」ってやっちゃったら超ダサくなるし、「グリーンブック」は、5年前だったら「グリーン・ブック」ってなっていたはず。
実はこの、英語をカタカナにする際に「・」を使わない傾向は、Webの世界ではスマホ登場の前からありました。「シリコン・バレーのテック・カンパニー」って書いちゃうと、表記は長くなるし読む際にもかったるい。「シリコンバレーのテックカンパニー」の方がスッキリしますよね。この傾向がスマホ時代になってより顕著になってきた。この流れは間違いなく続きます。スマホとSNSこそが、言語体系をアップデートする強力なエンジンだから。
とはいえ、すべての映画の邦題を「・」ナシにしてもいいかというと、そこは微妙です。例えば「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を「ワンスアポンアタイムインハリウッド」って表記しちゃったら、どこで区切っていいか分からず、多少イラっとする人も出てくるでしょう。そして偉大なる「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(84)へのリスペクトも希薄になってしまいます。
「・」アリかナシか。映画会社にとっては、頭を悩ませる問題ですよね。繰り返しますが、これは見栄えの問題ではなくて、ユーザビリティの問題なんですから。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi