コラム:細野真宏の試写室日記 - 第68回

2020年4月27日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第68回 試写室日記 【新型コロナ番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第2回

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日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。

その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。

昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?

ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!

そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。

そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。

その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。

【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】

≫第1回(第21位~第25位)はこちら

●第20位

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「ベスト20位」にランクインした作品は、「The Addams Family(原題)」となっています。

アダムスファミリー」といえば、1991年に実写映画が公開され、その2年後には続編である「アダムスファミリー2」が公開されるなど日本でも話題となりました。

本作は、アメリカで2019年10月4日から公開された「3DCGアニメーション映画」なのです。

声優もオスカー・アイザックシャーリーズ・セロンクロエ・グレース・モレッツと豪華キャスト共演となっています。

ただ、現時点では日本での公開があるかは未定となっています。

制作費は4000万ドル(40億円規模)と、ハリウッドの3DCGアニメーション映画としては、比較的安く済んでいます。

そして、世界興行収入は2億0300万ドル(203億円規模)を記録しています。

その後に配信やDVDなどでの利益も加わり、最終的に残った映画会社の利益は7600万ドル(76億円規模)という結果に終わりました。

これらの結果を受けて、すでに続編を決定し、その公開日も現時点では2021年10月22日と決まっています。

知名度のある作品ではあるので、日本でもそれなりには期待できそうですが、果たして日本での公開はどうなるのか注目ですね。

●第19位

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「ベスト19位」にランクインした作品は、アカデミー賞で「作品賞」「監督賞」などの大本命だった「1917 命をかけた伝令」です。

これは、大作映画なので制作費は1億ドル(100億円規模)で、世界興行収入は3億7500万ドル(375億円規模)を稼ぎ出しています。

なお、報酬は通常、役者の配分が多いことが少なくないのですが、本作の場合は主に無名俳優で作られた作品だったので多くはサム・メンデス監督に行ったようです。

そして、出費などを差し引いて、最終的に映画会社は7700万ドル(77億円規模)の利益を稼ぐことができています。

勿論、これは成功例であることは間違いありません。

ただ、アカデミー賞の大本命だった作品が「第19位」というのは、少し寂しい気がしますよね。

でも、実は、まだ本作は儲けが大きく増える見込みがあるのです!

それは、いち早く新型コロナウイルスの影響で映画館を閉じてしまった中国市場で上映されることが決まっているので、新型コロナウイルス後に巨大市場の中国でまだまだ大きく稼ぎそうだからです。

また新型コロナウイルスの影響で劇場公開が止まったままの日本では、そろそろ先行して配信の日程が決まりそうな雰囲気なので、果たしてそこでどのくらい利益を出せるのか、ですね。

●第18位

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「ベスト18位」にランクインした作品は、こちらもアカデミー賞で話題となった「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館」です。

この作品は、ライオンズゲートという独立系の映画会社の製作だったので、未知数な要素が多かった分それほど制作費はかけられず、制作費は4000万ドル(40億円規模)と、やや割安となっています。

そして、出来上がった作品の完成度は非常に高かったので、世界興行収入は3億1290万ドル(313億円規模)を記録し、最終的な利益は8200万ドル(82億円規模)となっています。

ただ、日本などではまだDVD等も出ていないため、儲けはまだ増えそうですが、世界興行収入が「1917 命をかけた伝令」に負けていても、制作費が安かったりするため、最終的な利益はこちらが大きくなっているのは興味深いところですね。

本作は、「“アガサ・クリスティーの現代版”の最新作」といったような出来になっているので、ミステリーファンの人たちには、もし新型コロナウイルスの影響が続く中で配信等が始まったら、真っ先におススメしたい作品です。

ちなみに、脚本も務めるライアン・ジョンソン監督が続編に向けて動きだしているので、公開日はまだ未定ですが「007」シリーズのダニエル・クレイグの新たな代表作になりそうな雰囲気で、新型コロナウイルス後の世界で期待が高まります。

●第17位

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「ベスト17位」にランクインした作品は、「ワイルド・スピード」シリーズの初のスピンオフ作品である「ワイルド・スピード スーパーコンボ」です。

正直、私はこのヒットには驚きました。

そもそも本作は「ワイルド・スピード ICE BREAK」の撮影中に主役のヴィン・ディーゼルと、アメリカ外交保安部の捜査官役のドウェイン・ジョンソンがケンカをし、ドウェイン・ジョンソンが「次作以降はヴィン・ディーゼルと共演しない」とした流れから出来たスピンオフだったのです。

そのため本体の「ワイルド・スピード」シリーズよりは遥かに落ちるだろうと私は思っていたのですが、意外と健闘したからです。

制作費は大作映画なので1億ドル(100億円規模)で、世界興行収入は7億5905万ドル(759億円規模)を稼ぎ出しています。

特に注目すべき点は、実は、本作はアメリカの興行収入1億7395万ドル(174億円規模)に対して、中国の興行収入が2億0100万ドル(201億円規模)と、中国の方が稼いでいるのです!

これは、アメリカ同様に中国も“車社会”で、車への関心も比較的高いので根強い人気になっているようです。

ちなみに、「ワイルド・スピード」シリーズの日本での特徴としても、通常の映画が都市型であるのに対して、車社会の地方の興行収入が高くなっている傾向もあるのです。

本作「ワイルド・スピード スーパーコンボ」は、最終的な利益は8400万ドル(84億円規模)も稼いだので、続編の制作まで決まっています。

なお、第9弾「ワイルド・スピード ジェットブレイク」の公開日は、新型コロナウイルスの影響で 2020年5月29日から来年2021年の公開延期になってしまいましたが、これもクライマックスに向けて、新型コロナウイルス騒動が落ち着いた後の世界で盛り上がりそうな予感がします。

ドウェイン・ジョンソンは第9弾「ワイルド・スピード ジェットブレイク」には出ないようですが、「ワイルド・スピード スーパーコンボ」の成功に気を良くして、どうも主役のヴィン・ディーゼルと仲直りをしたようで、「ワイルド・スピード」シリーズ本体の「最終章」とされている第10弾(2部作との情報も)には出演するらしいと報じられています。

●第16位

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「ベスト16位」にランクインした作品は、意外にも、日本では2020年1月10日に公開された低予算映画の「ダウントン・アビー」でした。

制作費は2000万ドル(20億円規模)で、世界興行収入は1億9400万ドル(194億円規模)を稼ぎ出しました。

そして、最終的に映画会社は8800万ドル(88億円規模)の利益を稼ぐことができています!

これは、やはり日本での現象と同様に「ドラマの映画版」の強さでしょう。

日本ではそれほど馴染みのない人が多いようですが、この「ダウントン・アビー」という作品はイギリスのドラマで、2010年からシーズン1(6話)の放送が開始され「2011年の最も高い評価を受けたイギリスのテレビシリーズ」とギネスブックで認められるほどの評価を受け社会現象化し、2015年のシーズン6まで続きました。(シーズン2以降は各7話に加えて、クリスマススペシャル付きとなっています)

ドラマの舞台は1912年から1925年のイギリスのヨークシャーにある“架空のカントリー・ハウス(貴族らの住居として農村に建設された大邸宅)”「ダウントン・アビー」で、実際の史実をベースに、登場人物らの物語が続きます。

例えば、シーズン1では1912年からなので、冒頭では「タイタニックの沈没事故」が起きています。

また、シーズン2では1916年からなので、第一次世界大戦や、まさに今の世界的な新型コロナウイルス流行の状況と非常に良く似ていて最も注目されている、いわゆる「スペインかぜ」の流行なども描かれているのです!

実際に起こった事柄を基に物語が構築されているので、リアリティーも含めてイギリスを中心に世界的に人気のあるドラマとなり、日本でも最初にスターチャンネルで2016年10月まで全シーズンが放送されました。それ以降もNHKで放送されたり、Netflixなどで配信もされています。

そして、2015年にドラマ「ダウントン・アビー」シリーズが終了した直後に映画化の構想が始まり、本作の映画「ダウントン・アビー」は、ドラマシリーズの終了時点から1年半後の1927年を舞台に描かれています。

今回の大ヒットを受け、すでに次の映画の制作にも動き出しているようです。

なお、本作は日本では6月3日にBlu- rayとDVDがリリースされるので、興味のある方は是非見てみてください。


今回のランキングで見えてきたのは、「世界興行収入だけでは映画の利益は分からない」というポイントですね。やはり制作費がどのくらいなのかによって、大きく利益は変わるので、今回のようにトータルで考えることも重要なのです。次回は、第11位から第15位までを紹介します。

≫第3回(第11位~第15位)はこちら
≫第4回(第6位~第10位)はこちら
≫第5回(第5位)はこちら
≫第6回(第4位)はこちら
≫第7回(第3位)はこちら
≫第8回(第2位)はこちら
≫第9回(第1位)はこちら

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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