コラム:細野真宏の試写室日記 - 第65回

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第65回 試写室日記 「Fukushima50」。早くも“来年度”日本アカデミー賞最有力作品の登場! 一方、新型コロナウイルスの影響は?【後編】

2019年11月20日@新宿ピカデリー(完成披露試写会)  配給元:松竹、KADOKAWA

本作「Fukushima50」は【前編】で書いたように出来は非常に良いですし、「映画史に遺る作品」だと思いますし、遺さないといけない作品でもあります。

それは、「映画」というのは、風化させずに後世に事実を伝える、という大事な役割もあるためです。

例えば、世界中で毎年のように戦争映画が作られますが、これは「戦争をしようよ」と言っているのではなく、戦争の意味を考えるために作られているわけです。

そういうことも含めて、今回の「Fukushima50」では、本当に改めて考えさせられることが多いと思います。

例えば、「政治の在り方」について。

まず、そもそも私は「〇〇政党の支持」というのを決めていません。

その政党が、様々な政策を正しく理解できていて、キチンと実行する意思があるかを冷静に見極め続けるだけです。

その意味では、この「Fukushima50」という作品は、「政治家とは?」を知るには良い作品になっていると思います。

「3.11」による福島第一原子力発電所(通称「イチエフ」)の事故は「自然災害」であるのは間違いないのですが、実は、「人災」でもあるわけです。

もちろん、東京電力のリスク評価の甘さによる「人災」でもあるのですが、実は、政治による「人災」でもあったのです。

なかなか断片的なニュースでは理解しえないような構図を、本作「Fukushima50」ではキチンと見せてくれています。

吉田所長(渡辺謙)を筆頭に「現場」は、本当に物凄い緊張感の極限状態で神経を張り詰めさせて対応に当たっているのです。

そんな中、「リーダーシップ」という名のもとに現場を知らない政治家が介入するとどうなるか。

ちなみに、映画では詳細なやり取りまではカットされていますが、ヘリコプターで「イチエフ」まで行って、すぐに全員が降りるのか、というとそうではなく、まずは総理大臣が降りる姿を撮影したりするわけです。

もちろん、官邸が主導して。

ただでさえ1分1秒を争う場面であるのに、これらは「ブラックジョーク」の領域ですが、これが現実の「政治の姿」だったりもするのです。

また、自衛隊も登場しますが、この作品で、自衛隊とはどういう人たちなのか、もよく分かると思います。

私の総理大臣の理想像として、「いかに自衛隊という組織を知り尽くしているのか」ということがあります。

さらには、正しく専門家を見定めて、いかに「現場を信じられるか」ということも重要だと思っています。

例えば、私の体験で言うと、震災後の平時の時に火力発電所を視察した際に、入社したてのような若い女性が重要な現場で作業を行っているのを見かけ、急きょ彼女と話をできるようにしてもらいました。

私の大きな関心は2つで、1つ目は、どうして世間の風当たりの強い電力業界にわざわざ就職したのか。

もう1つが、どれだけ熱意があるのか、でした。

最初の返答は、「理系出身で興味があったから」といった想定内のものでした。

ただ、次の返答には驚きました。

私の後ろには彼女の上司や、会社の偉い人たちがいたので、「ここは誰もいない2人だけの話だという設定で聞きたいんだけど、会社や仕事に不満はない?」と素直に疑問を投げかけてみました。

すると、「あります! それこそ、ネジ1本から」という超ストレートな答えが返ってきたのです。

これこそが「プロフェッショナルな現場」なのです。

「専門的な現場」というのは、それこそネジ1本にすらこだわるんですよね。

第57回の「試写室日記」で映画「前田建設ファンタジー営業部」を紹介した際にも伝えたように、「前田建設ファンタジー営業部」という作品の良いところの1つは、「影のヒーロー(ヒロイン)たちは本来あまり表には出てこないため、このような形でプロフェッショナルの存在をしっかりと認知できるようにしたのは素晴らしい試みだ」ということがありましたが、まさに「Fukushima50」も「前田建設ファンタジー営業部」も(パッと見は違いますが)本質的には同じ作品だったりするのです!

これは私にも言える話なのでしょうが、私たちは、あまりに現場を知りません。

だからこそ、本作「Fukushima50」は、ニュートラルな立場で「プロフェッショナルの仕事」として見る必要があるのです。

さて、本作「Fukushima50」の完成披露試写会には、上映終了後に“Fukushima50”のキャスト(ただし、渡辺謙佐藤浩市などの主要なキャストはいなく、あくまで「現場の人たち」)が登壇して挨拶をしていました。

その中で驚いたのが、スラスラと「吉田調書」の言葉を引用しながら話していたキャストがいたのです。

この「吉田調書」というのは、政府の「事故調査・検証委員会」が吉田所長に聞き取りをし、調査してまとめた「聴取結果書」のことで、“Fukushima50”のキャストは「吉田調書」まで読んで現場に臨んでいたんだな、と関心しました。

ただ、この「吉田調書」で残念なのが、朝日新聞が2014年5月20日に、調書を非公式に入手しスクープとして「所長命令に違反 原発撤退」という見出しで「平成23年3月15日朝に福島第1原発にいた所員の9割に当たる約650人が吉田昌郎所長の待機命令に違反し、第2原発へ撤退した」などと大々的に報じたのです…。

これは、その騒動後に「吉田調書」が全文公開されたので、(朝日新聞の上層部も含め)誰の目からも事実と全く異なる報道だったと理解でき「朝日新聞の謝罪会見」が開かれたのですが、未だにそのような「正反対の報道」が頭に残っている人もいるのかもしれません。

日本では減ってはきましたが、「風評被害」というのも大きな問題としてあるのです。

しかも、外国の大統領などが、とりあえず日本を敵視し“悪く言うと支持率を上げられる”といった安易な考えで「風評被害」を作り出す動きは、私には全く良いことだとは思えません。

例えば、韓国の文在寅大統領が2017年6月19日にカメラの前で「イチエフ」の事故で日本では1368人が死亡した、といった話をして「風評被害」を煽る非難の道具に使っています。

もちろん、これには日本政府も大使館を通じて抗議していますし、韓国の学者でさえも「福島の原子力発電の事故現場において、放射線被ばくによって死亡した人は一人もいない」(ソウル大学・朱漢奎教授)と語っています(2017年6月20日「朝鮮日報日本語版」)。

このように、なかなか「論理」と「アート」のバランスを保つのは難しいようです。

その意味では、若松節朗監督は、「沈まぬ太陽」に続き「Fukushima50」と、本当に見事な作品を作り上げたと思います。

最後に私たちがここで立ち止まって考えたいことがあります。

それは、「沈まぬ太陽」の教訓が、風化してしまっている現実です。

日本では、1985年8月12日にジャンボジェット機が墜落して、乗客乗員524名のうち520名が亡くなるという事故が起きました。これは、単独機としては未だに「世界史上最悪の死者数を出した航空機墜落事故」なわけです。

毎年「8.12」には墜落現場となった御巣鷹山に日本航空の社長が出向くのですが、信じがたいことに2018年くらいから「自動車の飲酒運転」ではなく、「飛行機の飲酒運転」がニュースで報じられるようになってきています…。そこで日本航空の社長は、その飲酒運転のことを尋ねられ、「痛恨の不祥事だった。(亡くなった520名の方から)本当に何をやっているんだと、事故のことを忘れたのかと、おそらく皆さんおっしゃるんじゃないか。何としても今の問題を克服しないといけない。御巣鷹山というのが安全の原点ですから、どんな時も原点に返るということなんだなと私は感じました」と答えていました。

ところが、その翌日の2019年8月13日には、ニュースで「8月10日の日本航空の鹿児島発、羽田行きの便に乗務予定だった男性の副操縦士がアルコールチェックに引っかかったと判明した」と報じられるという「ブラックジョーク」状態になっているのです…。

航空会社には、いつも飛行機で短時間で快適に遠くまで運んでもらって感謝していますが、もうあのような大惨事は勘弁してほしいのです。

電力会社には、いつも猛暑の時のエアコンなど電気を使わせてもらって感謝していますが、もうあのような大惨事は勘弁してほしいのです。

やはり「沈まぬ太陽」に続き「Fukushima50」も大ヒットしてもらい、世の中のリスク管理の関係者が常に見返すことで「風化」させないようにすることが映画の役割なのではないか、と思っています。

折しも「新型コロナウイルス」の発生という、誰もが“想定外”であった事態が起こっていることからも分かるように、「想定外」は常に起こるものなのです。

つまり、想定外のことが起こることを前提に、それをどう乗り越えていくのか、は私たちにも仕事や生活の中で常に求められ続けているのです。

そういった意味でも「私たちは、どのくらいの覚悟を持って生きているのだろうか」と、このタイミングで、本作「Fukushima50」を見ながら考えてみるのも意義深いのではと思います。

本来的には、「Fukushima50」の興行収入は、「沈まぬ太陽」よりは上映時間も短く見やすいため、興行収入30億円は視野に入っていたはずです。

ただ、「新型コロナウイルス」という見えない敵にどう立ち向かえるものなのか興味深いところです。

ちなみに、当時はあれほど恐れられていたはずの「放射性物質」ですが、東日本大震災の翌日の2011年3月12日(土)に公開された「SP 革命篇」は興行収入33.3億円を記録しているのです。

果たして「新型コロナウイルス」vs「放射性物質」と捉えるべきか、「Fukushima50」vs「新型コロナウイルス」と捉えるべきか難しいですが、まずは全国の映画館のためにも興行収入10億円は突破してほしいところです。

ひょっとしたら、本作の最大の注目点は、1年後の日本アカデミー賞なのかもしれないですね。興行収入的にも「想定」をどんどん上回ってくれたら本当にうれしいですが、果たしてどうなるのか大いに注目したいと思います!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
 10年連続完売を記録し続けている『家計ノート2020』が遂に完成し、「老後に2000万円が必要って本当?」も詳しく解説!
Twitter:@hosono_masa