コラム:細野真宏の試写室日記 - 第64回

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第64回 試写室日記 「Fukushima50」。早くも“来年度”日本アカデミー賞最有力作品の登場! 一方、新型コロナウイルスの影響は?【前編】

2019年11月20日@新宿ピカデリー(完成披露試写会)  配給元:松竹、KADOKAWA

いよいよ大作映画「Fukushima50」が今週末の3月6日(金)から公開されますが、本作「Fukushima50」の製作が決まった段階で私の中では2つの心配がありました。

1つ目は、「3.11」に端を発した原子力発電所の事故を描くという、非常にセンシティブな内容なため、作品のバランスはどのように仕上がっているのか。

2つ目は、作品の出来はどうなるのだろうか、ということでした。

まず、人間の脳というのは、突き詰めると「論理」と「アート」の2つの要素に分けられると思います。

これまで多くの映画関係者と接してきて感じるのは、映画は「感性(アート)の世界」とも言われることが多いように、かなりの割合で「アート」的なタイプの人が多いという印象です。

そのため、実際に「3.11」を題材にした作品は、作り手の「思想」が強く入っているものが多かったと思います。

そんな傾向があったため、本作を見る際には「アート」面の強さを心配していましたが、正直、驚きました。

まさに「論理」と「アート」のバランスが、ほぼ中間になっていたのです!

これは、制作陣が相当に緻密なリサーチを重ねて作ったものだと思われます。

そして、作品の出来ですが、これは「若松節朗監督作」ということで、心配と安心の両方がありました。

心配の方は、私の目からは、若松節朗監督作は出来が安定していなく、「夜明けの街で」「柘榴坂の仇討」「空母いぶき」など必ずしも出来が良いとは思えなかった作品があったからです。

その一方で安心もあって、それは、日本アカデミー賞で「最優秀作品賞」を受賞した名作「沈まぬ太陽」の監督でもあったことでした。

この「沈まぬ太陽」については個人的な思い入れのある作品で、そもそもの製作の段階で航空会社からの強い反対もあり、宣伝等が非常にやりにくい状況にあったようでした。

そこで、試写を見終わった後に、配給元の東宝の宣伝プロデューサーにコメント依頼をされた際には、素直に引き受け、「自信を持って薦められる本年度№1の作品!」と、思ったことを素直に書かせてもらいました。

そして、3時間22分という長時間で、上映の合間に10分間の「インターミッション」(休憩)が入るという異例な作品でしたが、興行収入は28億円を記録し、その後、日本アカデミー賞で「最優秀作品賞」を受賞しました。

しかも、本作「Fukushima50」は、「沈まぬ太陽」で日本アカデミー賞の「最優秀主演男優賞」を受賞した渡辺謙との再タッグでもあったので、「これは期待できる作品の方では?」と予想しましたが、やはり「非常に出来の良い作品」でした!

まだ“本年度”の日本アカデミー賞も決まっていない段階ですが、早くも“来年度”の日本アカデミー賞「最優秀作品賞」の最有力作品が登場です。

まず、本作「Fukushima50」は、東日本大震災で事故を起こした福島第一原子力発電所(通称「イチエフ」)で陣頭指揮を執った吉田昌郎所長(渡辺謙)を軸に、同期の伊崎利夫(佐藤浩市)が、原子炉が入っている建屋内にある「中央制御室」のトップとして「イチエフ」の暴走を食い止めようと決死の覚悟で挑んでいきます。

そもそも本作「Fukushima50」は「実話」なので、映画では専門用語も当然、リアルに飛び交います。

そこで、知識ゼロでも「これだけ知っておけば安心して映画を見られる用語と仕組み」を最初に解説しておきましょう。

そもそも原子力発電は、「止める、冷やす、閉じ込める」というのが大原則としてあるのです。

2011年の「3.11」では、マグニチュード9.0で、最大震度7という巨大地震が起こり、まずは「原子力発電を止める」ことには成功しました。

しかし、想定外の高さの津波が起こり、「全電源喪失」が起こってしまい、「原子炉を冷やす」という作業が上手くいかなくなってしまったのです。

例えば2018年の北海道では、9月6日に最大震度7の地震が襲い、火力発電に頼り過ぎていたため、電力のバランスを崩し、国内初の「ブラックアウト」(全域停電)が起こってしまいました。

ただ、「原子力発電所」というのは、こういう想定外に備えるために、独自の「自家発電の仕組み」を用意しているのです。

ところが、「イチエフ」では想定外をさらに上回るような高さの津波によって、それらの「自家発電の仕組み」が使えなくなってしまったのです。

(いま言えるのは、その「自家発電の仕組み」が分散配置されていなかったりと、リスク評価が甘かった面がありました)

そのため、本来は絶対にあってはならない「SBO(ステーション・ブラックアウト)」という原子力発電所での「全交流電源喪失」が起こり、そのあとバッテリー(直流電源)も停止し、「全電源喪失」の状態が起こってしまったわけです。

原子炉は冷やし続けないと、放射性物質が外部に飛び出してしまうリスクがあります。

最悪な事態としては、1986 年の旧ソ連のウクライナ共和国で起こった「チェルノブイリ原子力発電所」の事故まで想定をしないといけないもので、当然、吉田所長はその最悪な想定も視野に入れながら陣頭指揮を執っていました。

そこで、必要になるのが「ベント」という作業なのです。

この「ベント」とは、原子炉が入っている「格納容器」が破損しないように、弁を開け、内部の気体の一部を外に逃がすことです。

もちろん、この「ベント」をすれば、放射性物質の一部が大気中に漏れ出すことになります。

ただ、少しの漏れであれば人体への影響は抑えられるので、そうせざるを得ない面がありました。

とは言え、みなさんもニュースなどで見たことがあるように、格納容器が入っている原子炉建屋はボンと爆発してしまいます。

では、「イチエフ」も結局は「チェルノブイリ原子力発電所」と同じような悲惨な状況にまでいったのか、というと、実は、ここには大きな誤解もあるのです。

まず、そもそも「チェルノブイリ原子力発電所」の事故というのは、“試運転中”に発生した事故で、原子炉のコントロールが効かず、水蒸気爆発が起きて原子炉の燃料が環境中にどんどん放出してしまったのです。

しかも、この「チェルノブイリ原子力発電所」では、「黒鉛」を使った珍しいタイプ(世界の原子炉は基本的には「水」)の原子炉で、この黒鉛に火がつき、大規模な火災が発生しました。

さらには、その火災によって、より多くの放射性物質が外部にまき散らされる大事故にまで発展してしまったわけです。

残念なことに、当時の1986 年の住民らは「知識」もなかったので、逃げるどころか「火事だ、火事だ」と見物人が集まる事態も起こり、こういう負の連鎖が歴史的に残念な結果を生んでしまいました…。

日本の原子力発電所とチェルノブイリ原子力発電所との違いは、日本の原子力発電所の場合は、原子炉を守る「格納容器」もあれば、それを守る頑丈な「原子炉建屋」も作っているのです。

そのため、原子炉の燃料が漏れ出しにくくなっているわけです。

こういう話を子供にも分かるようにと、震災直後に「おならとウンチ」でたとえられたりしましたが、あれは正しくはありますね。

つまり「イチエフ」の場合は、確かに水素爆発が起こり原子炉建屋の一部が壊れましたが「おなら」で済み、「チェルノブイリ原子力発電所」の場合は、我慢できずに「ウンチ」を出してしまった、というわけですね。

もう少しちゃんとした説明をすると、「イチエフ」の場合は、主な放射性物質の漏れは「核燃料の燃えカス」のようなもので、チェルノブイリでは、飛び散ったのは「核燃料自体」で、さらには火災で周辺へまき散らしたわけです。

ちなみに「イチエフ」の場合は、 被ばくによる死者は出ず(一般では10mSv以下、作業従事者では250mSv以下という)厳しい基準をクリアできました。

ただ、私たちが忘れてはならないのは、(日本の原子力発電所はチェルノブイリのような事故にまではなりにくい面はあったものの) こうした結果をもたらしたのは、まさに吉田所長を始めとした「Fukushima50」と呼ばれるようになった現場の作業員の人たちのおかげでもあるわけです!

本作「Fukushima50」には、本当に非常に多くのメッセージが含まれています。

まず、本作に関連して、上で説明したようなことをしっかりと私たち日本人が知っておかないといけない、ということがあります。

そうしないと、国内にとどまらず、「外交問題」でさえも「全くのデタラメな話をして非難してくる大統領まで出てくる」ことになるからです。

日本では、何かと悪い意味で話題となる韓国の文在寅大統領が2017年6月にカメラの前で「イチエフ」の事故で、日本では1368人が死亡という話をし出しています…。

それらについては、映画の見どころと共に、具体的に【後編】で解説します。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
 10年連続完売を記録し続けている『家計ノート2020』が遂に完成し、「老後に2000万円が必要って本当?」も詳しく解説!
Twitter:@hosono_masa