「スパイダーマン スパイダーバース」。もしもこの作品がアカデミー賞を受賞したらアニメーション映画の歴史が変わるのかも? : 細野真宏の試写室日記

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コラム:細野真宏の試写室日記 - 第20回

2019年2月19日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第20回 「スパイダーマン スパイダーバース」。もしもこの作品がアカデミー賞を受賞したらアニメーション映画の歴史が変わるのかも?

2019年1月31日(字幕版)、2月13日(吹替版)@ソニー試写室

いよいよアカデミー賞の発表が今月25日(日本時間)と近づいてきました。今年のアカデミー賞は例年になく読みづらい展開になってきていますが、私が中でも注目している部門に「長編アニメーション賞」があります。

昨年の夏くらいまでは「何も考える必要もなく、当然インクレディブル・ファミリーの1択でしょう」と思っていました。

ところが、アカデミー賞の前哨戦の結果を見ていると、意外なことに「スパイダーマン スパイダーバース」という作品が結構、有力になっているのです。

この“意外なことに”というのは2つの背景があります。

1つ目は、これまで「スパイダーマン」という作品がアカデミー賞に絡むのは、(技術関連部門以外では1度もなく)本作は「作品」全体として評価を受けているからです。

2つ目は、この「スパイダーマン スパイダーバース」の映像は「ヴェノム」のエンディングで「予告」的に長めに流されていたので、ある程度のクオリティーは把握しているつもりだったからです。

ヴェノム」のエンディングで見た時には、正直に言うと「スパイダーマン スパイダーバース」のイメージは良くはなく、(白黒のスパイダーマンも出ていたので)「どうしてこんな作りかけの映像を長々と流すのだろう?」と意図を図りかねていたのです。

そんな不安と、前哨戦での結果の期待が入り混じる中「スパイダーマン スパイダーバース」を見てみましたが、いろんな意味で裏切られました。

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まず白黒のスパイダーマンは決して未完成の映像ではなく、完成された映像でした。しかも意外にも、むしろあれが「クール」なのです!

さらに「ヴェノム」のエンディングで見た時は、慣れない映像なのか違和感ばかりを覚えていましたが、この「スパイダーマン スパイダーバース」は全編通して見てみると「新時代のアニメーション映画」とも言えるくらい非常に出来が良かったのです!

どのくらい出来が良いのかと言うと、もしも私がアカデミー賞の「長編アニメーション賞」で票を持っていたら、今回は本作に投票してしまいますね。そのくらい、映像、脚本、テンポなど、どれをとっても「さすが」としか言いようがありませんでした。

では、これまでのアニメーション映画とは何が違うのか。「アニメーション映画」は大別すると、日本が得意とする「2D型アニメーション映画」と、ハリウッドが得意とする「3DCG型アニメーション映画」に分けられます。

本作はハリウッド作品なので基本は「3DCG型アニメーション映画」なのですが、「2D型アニメーション映画」の要素もあるのです。さらには、2D(2次元)でも3D(3次元)でもない「1次元のコミックス」の要素も併せ持っているという、文字通り「新時代のアニメーション映画」になっているのです!

実際の制作においても、CGに対して手描きの要素を一つ一つ入れていくため、通常では1人のアニメーターが約1週間の作業で「4秒」分の映像を作るところ、本作では「2秒」分と倍近くの手の込みようだったそうです。

もしこの「スパイダーマン スパイダーバース」がアカデミー賞で「長編アニメーション賞」を受賞すれば、この作品が今後のスタンダードにもなり得て、世界のアニメーション映画は新しい時代に入ったとも言えると思います。

そのくらいの潜在能力がこの作品にはあります。

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そして、本作には「吹替版」と「字幕版」がありますが、この作品では私は「吹替版」を強く推したいと思います。

理由は「吹替版」の方が画面に集中できるから、といった普通の理由だけでなく、この作品ならではの理由もあるのです。

本作では「1次元のコミックス」の要素も併せ持っているため、画面にコミックスのような吹出しも出てきます。そのため、ローカライズ(その国に合わせた提供の仕方)が本作では重要になりますが、この「スパイダーマン スパイダーバース」の「吹替版」では、セリフを英語のままにすべきところは英語のままであったり、日本語にしたほうが圧倒的に見やすくて良いところは日本語にしていたりと、近年では珍しいほどローカライズのセンスも素晴らしい出来栄えとなっています。

そのため、日本人には圧倒的に「吹替版」の方が、この新しいアニメーション映画の世界に入りやすくなっているのです!

とは言え、そもそも作品の出来が良いので、元々の「字幕版」(一か所だけ日本語が出ます!)も良いです。可能なら見比べてみてほしいくらいで、それぞれの良さがあります。

画像3

では肝心の興行収入ですが、約200館という公開規模を考えると配給元のソニーの期待値は、まだそんなに高くはないのかもしれません。ただ私は、ポテンシャルとしての興行収入は「ヴェノム」の20億円規模はあると思います。

そもそも「ヴェノム」というスパイダーマンの敵キャラ映画の興行収入が22.5億円という大ヒットになったのは驚きましたが、日本でも「ヴェノム」のエンディングで「スパイダーマン スパイダーバース」の映像を見せ、大掛かりなプロモーションをやったわけですから。

いま思うと、これは「配給元のソニーの本作に対する自信」だったわけですね。

アメリカの辛口サイトであるRotten Tomatoesにおいても「スパイダーマン スパイダーバース」は、批評家の評価は97%で、一般層の評価は94%(2月17日時点)となっていて、どの層でも満足度が非常に高いことがうかがえます。

実際に「ヴェノム」に続き世界中で大ヒットをしていて、最後の公開国となる日本において「カギ」となるのは、「口コミ」と、日本でサム・ライミ監督時代の「スパイダーマン」を見ていた人たちがどこまで戻ってきてくれるのか、ではないでしょうか。

本作は、まさにサム・ライミ監督の「スパイダーマン」(興行収入75億円)、「スパイダーマン2」(興行収入67億円)、「スパイダーマン3」(興行収入71.2億円)シリーズに近いため、その親和性は非常に高い気がします。

「あの層は一体どこに行ってしまったのか」というのは、以前から私の大きな疑問ですが、ひょっとしたら「ヴェノム」の想定を超える動員から、徐々に戻ってきているとしたらうれしい話ですね。

ハリウッド・メジャースタジオ映画のリクープラインは独特ですが、公開規模が大きくないとは言え、作品の出来を考えれば、邦画大作と同様に最低でも興行収入10億円を突破するくらいのヒットはしてほしいところです。

なお、ハリウッド映画でよくあるラストのおまけ映像も珍しくコケていなく、本作についてはエンドロールが全部終わるまで席は立たないようにしましょう。「スパイダーマン」映画史上、最も楽しい作品であることも最後まで実感できると思います。

[筆者紹介]

細野真宏

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 発売以来9年連続完売となっている2019年版の「家計ノート 2019」(小学館)が発売中!

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

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