コラム:ニューヨークEXPRESS - 第51回

2025年8月5日更新

ニューヨークEXPRESS

ニューヨークで注目されている映画とは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。


河合優実、ニューヨークの映画祭へ! 現地で語った映画への思い、大学時代&家族との思い出

河合優実
河合優実

毎年、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催されている北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ」。7月12日には「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」、13日には「あんのこと」が上映され、観客からは拍手と歓声がおくられ、アメリカの媒体で高い評価を受けている。

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映画祭には、両作で主演を務めた河合優実が参加を果たした。20代の女優のなかでも圧倒的な存在感、陰と陽を兼ね備えた演技、心に突き刺さるような鋭い目線で人々を魅了している河合。「由宇子の天秤」「サマーフィルムにのって」などで数々の新人賞を受賞し、ドラマ「不適切にもほどがある」の純子役でも話題を呼んだ。その後「あんのこと」で第48回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝き、名実共に今“最も日本で注目されている若手女優”といっても過言ではないだろう。

今回は「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」についての単独インタビューを敢行。映画の内容について、大学時代の思い出、映画に対する想い、ニューヨークへの印象などを聞いてみた。

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――「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」は、お笑い芸人の福徳秀介さんが書かれた小説がベースになっています。物語のどのような部分が心に刺さり、出演を引き受けたのでしょうか?

最初に脚本を読んでみると、もともと福徳さんに抱いていたイメージとはかけ離れていて、とても純粋だったのが意外でした。あとは“暇を持て余している”大学生という役の印象が面白いと思いました。

――河合さんは、日本大学に通われていた時期があったそうが、桜田花という役柄との共通点を見出すことはできましたか? もしくはかけ離れた部分があったりもしましたか?

“群れるのが嫌い”というか――そこに疑問を持っているところはすごく理解できましたね。 桜田は「だったら1人でいいや」とつるむ事はしないし、むしろ自分から“1人でいること”を選びに行くタイプ。私も1人の時がありましたし、みんなとずっと一緒にいることもなかったので、その感覚は理解できました。

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――当時は、女優の見上愛さんも同じ大学に通われていたそうですね。そういった女優仲間が周りにいることで安心した部分はありますか?

そうですね。私が通っていたのが演劇学科だったので、みんなそれぞれに“何か”を目指しているという環境でした。切磋琢磨して、みんなで楽しんでいましたね。

――劇中では、「スピッツ」の楽曲「初恋クレイジー」が重要な展開で使用されていますね。河合さん自身は心に残っている音楽はありますか?

高校の修学旅行の時、みんなでキャンプファイヤーをしながら歌った曲が「We Are Young」(FUN./feat. ジャネール・モネイ)。あの曲を聞くと高校の頃を思い出します。

――桜田のセリフに「傘を差していると、人の目を気にしない」というものがあります。雨が降ると、普通は憂鬱になったりしますが、どこか風情もあったり、雨だからこその“良い部分”があったりと、雨の日に対して独特な価値観を持ってる人もいると思うんです。“雨の日”に良かった思い出はありますか?

もともと晴れの方が好きなんですが、この作品のプレミア、初日舞台挨拶、あとそれ以前の東京国際映画祭も、みんなで集まるたびに“雨の日”。それは“良い記憶”として残っています。「また、今日も雨だ!」みたいな感じです。

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――学生時代、グループで動いている人たちを見て「友達がいなくても、自分は平気」「たったひとり自分を理解してくれる人がいればいい」と感じてしまうことが、人によってはあると思います。大人になる上では、その“孤独”というものは重要だと思っているんですが、そのように感じる時期はありましたか?

中学や高校にはクラスという単位があることで、狭いコミュニティでぎゅっと団結するみたいな機会が自然とあったと思うんですが、大学に入って広いキャンパスになった途端に「友達ってどうやって作ってたんだっけ」「友達のグループって、どうやってできていったけ?」と“わからなくなった”こともありました。そこにコロナ禍も重なって――平たく言うと、友達同士の絆みたいなことだったり、愛校心みたいなものが薄れちゃって。それは独特だったなと思いました。それまでは疑問を持たずに、みんなでなにかに向かって頑張っていましたし、精神的にも“距離が変わったりする”ことはあったと思います。

――抗議デモが描かれているシーンが数カ所ありますね。小西(萩原利久)が参加することになるのは、結構あとの方になってから。最初の方は気付いていない。でも、急にそういったことを意識し始める時期ってあると思うんです。大学に通われていた頃、それまでは気付かなかったけど、見え方が急に変わったこと、価値観が変化したことはありましたか?

大学でいえば、将来に向けての選択ですよね。演劇学部では夢を持ってる人が多かったので、演劇を続けるのか、それを諦めるのか――みたいな現実的な問題がグッと近寄ってきたことがありました。私は高校の時、むしろ映画内の小西でいう抗議デモみたいな、いろんな考えに触れることが多くて。そこから大学で演劇という世界に行ったから、学部にいる人たちの常識だったり、「これが良いよね」と思っていることのギャップが、すごく大きかったんです。 コミュニティによって良いとされること、 善の価値観が、人によってすごく違うんだなというのは、大学に行った時に感じました。

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――「さくら」という名前の犬が登場します。とても利口そうな犬に見えますが、実際共演されていかがでしたか?

原作者の福徳さんがモデルにして書かれたお店にも、本当にワンちゃんがいるんです。映画内ではそのワンちゃんに似ている子を選んだみたいで、ちゃんと言うことを聞かない瞬間もありましたが、すごくかわいくて。演技ができたらみんなで褒めてあげるし、顔をなめなきゃいけないシーンとかも、小西の顔にエサを塗って、それを食べてもらって…と、結構いろんな手を使っていましたね。

――桜田と小西が歩きながら会話をするシーンがわりとありますね。イーサン・ホークジュリー・デルピーが出演した映画「恋人までの距離」「ビフォア・サンセット」」「ビフォア・ミッドナイト」の“自然な会話”と似ている気がしましたが、大九明子監督はどういった形で演出されていましたか?

そもそも脚本がすごく巧みなんですよ。自然な会話になるように書かれていました。それは原作者の福徳さんから受け継がれてきたものだと思います。福徳さんも、大九さんも、日常的な空気を切り取るのが上手ですし、私たちはそれをちゃんと受け取ってやっていました。あとは萩原利久さんもすごくリラックスしているように見えました。どのぐらいナチュラルにするかとか、そういうことは大九さんからは言われていなくて、むしろその自然さを壊してでも、大胆な面白い動きや面白い顔をしたりなど、ちょっとしたスパイスを加えてくれることが多かったです。

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――ラストの方では、とても長いセリフがありました。どういった形で長回しのシーンの準備をしていったんでしょうか?

こんなに喋ったことないっていうぐらい長くて難しかったのですが、喋っていることは全部理解できますし、「どういう気持ちで言っているんだろう?」みたいに考えてしまうようなセリフはなかったです。(このシーンを通して)小西にさらけ出せてしまったんだろうなって思いましたし、あとはどうやって見る人に届けるか、ただの言葉ではなくて、面白いモノローグになれば良いなと思って演じていました。

――河合さんは、大九明子監督とは今回が2度目のタッグ。だからこそやりやすい環境ではあったと思いますが、以前と比べてアプローチの仕方が変わった部分はありましたか?

前回は演じたキャラクターの性質もあって、もうちょっと自分が仕掛ける側というか……いろんなことを試し続けて、監督が笑ってくれたり、反応してくれたものを毎日探してる感覚がありました。今回はもうちょっとフラットな感じがしていて。でも、監督は私の表現の幅みたいなことをわかってくれている感じがしたので、調整はとてもしやすかったです。

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――以前に「PLAN 75」「ルノワール」で早川千絵監督とタッグを組まれています。早川さんは海外のプロデューサーとも仕事をされていますが、河合さんご自身は海外作品のオファーがあったら関わっていきたいと思われていますか?そして英語を勉強したいといった思いはあったりしますか?

それは思いますね。拠点を移したいとかそういうことではなくて、どの国の作品でも選べるような人に自分がなっていたら、すごく良いなと思います。可能性がどんどん増えるだけなので、いろんなものに出てみたいです。

――実は僕と早川さんはかつて同僚だったんです。彼女がニューヨークにいたときに、テレビ東京の番組「モーニング・サテライト」のスタッフとして一緒に働いていました。

えっ、そうなんですね。WOWOWの前はニューヨークにいらしたということは聞いてました。本当にいろいろなキャリアを積まれてる方ですよね。

――彼女が「PLAN 75」の宣伝でいらしたときに、河合さんのことをすごく褒めていました。そこから僕も河合さんがどういう女優なのか気になっていたので、今回インタビューさせていただいて光栄です。

ありがとうございます。

――話を映画に戻しましょう。小西と桜田は祖母や父親から“重要な言葉”をもらっていますよね。それは「今日の空が一番好きだと思いたい」ととても心に残るものです。河合さん自身は家族からもらった言葉で大切にしているものはありますか?

母はいつも長文でメールをくれる人なんですが、いっぱい言葉をかけられすぎていて――これという言葉が思い浮かばないんですが、しっかりと言葉で思いを伝え合う家族だと思っています。

それとこういう仕事をしていると、母に対して「河合優実のお母さんだから」という物言いをする人が多いらしくて。それはそれで誇らしくて、私の活躍自体はとても喜んでくれています。でも「なんでこんな急に(娘が)有名になったの?」と思った時に、「あなたの娘だから当然だよ」って言ってくれる人がいたらしくて。それが「とても嬉しかった」って言っていて、すごくグッときちゃったんですよね。

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――今回「ジャパン・カッツ」という北米最大の日本映画祭のイベントに参加されましたが、河合さんにとって、ニューヨークはどのような印象ですか?

ニューヨークは個人的に1度来たことがあって、去年、テレビ番組「アナザースカイ」で来たので、今回で3度目になります。自分が東京出身なので、都会的な部分の嫌な感じもそんなにしていなくて、むしろ東京よりも自由な感じがします。冷たいけど温かい、周りを見ていないようで、実は優しいみたいなところがあって、自分は過ごしやすいです。

――最後に「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」を通して、どういった部分をアメリカ人や海外の人に感じて欲しいですか?

今回は大阪という場所の力を借りた作品になっているので、そのローカル感が東京の人よりもっとわからないと思いますが、その空気感をそのまま閉じ込めて、ニューヨークまで持ってこれたっていうのが、すごく面白いなと感じています。日本の大学という場所の雰囲気を感じていただきつつ、恋や、恋になる前の心の通わせ合い、長いセリフの取り方、演じ方――そういうところを普遍的に感じてもらえるのかなと思います。

筆者紹介

細木信宏のコラム

細木信宏(ほそき・のぶひろ)。アメリカで映画を学ぶことを決意し渡米。フィルムスクールを卒業した後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニングサテライト」のアシスタントとして働く。だが映画への想いが諦めきれず、アメリカ国内のプレス枠で現地の人々と共に15年間取材をしながら、日本の映画サイトに記事を寄稿している。またアメリカの友人とともに、英語の映画サイト「Cinema Daily US」を立ち上げた。

Website:https://ameblo.jp/nobuhosoki/

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