コラム:ニューヨークEXPRESS - 第41回

2024年10月4日更新

ニューヨークEXPRESS

ニューヨークで注目されている映画とは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。


パラマウント・アニメーションの強みとは? ラムジー・アン・ナイトー社長が語る経営秘話&「トランスフォーマー ONE」裏話

ラムジー・アン・ナイトー
ラムジー・アン・ナイトー

今回フォーカスするのは、大ヒット映画「トランスフォーマー」シリーズの始まりの物語を3DCGで描く「トランスフォーマー ONE」(公開中)。同作を世に送り出したパラマウント・アニメーションの社長を務める日系アメリカ人、ラムジー・アン・ナイトー氏の単独インタビューが実現した。新作の制作経緯、声優のキャスティング、会社経営、そして彼女の夫である俳優・監督のアレックス・ウィンターについて語ってもらった。

まずは、ナイトー氏のバックグラウンドから話題を展開していく。

「父親は日本人で、母親がニューオーリンズ出身のアメリカ人。私はニューヨークとボルチモアで育ちました。今でも、父とはとても仲が良く、10歳のときから夏休みには日本に行っていたので、日本の文化はとても身近なものでした」

芸術家や芸術作品を愛する家庭で育ったそう。映画界に入ったきっかけについては、このように語った。

「私の父は彫刻家、母は画家――芸術的な家庭で育ったんです。実は、ずっと美術学校に通っていて、最初にボルチモア・スクール・フォー・ジ・アーツに通い、次にメリーランド・インスティテュート・カレッジ・オブ・アートを卒業しました。その後、カルフォルニア芸術大学に進んでいます。当時は、サウンド・スカルプチャー(金属棒などで制作する音の出る彫刻)やガラスに描いたキネティック・ペインティングを制作していました。そこから日本に行ってアニメに出合いました。『銀河鉄道999』や『ドラえもん』といった日本のアニメが大好きで、そこで初めてアニメーターとも出会ったんです。当時は自分がのちにアニメーションの仕事をするとは思ってもいませんでした」

ところが、運命が変わる出来事が起きた。

「カリフォルニア芸術大学のみんなが卒業し、就職先が決まっていた際に、アニメーターの友人からはTVシリーズ『ダックマン』(原題『Duckman』)というテレビ番組の制作アシスタントの仕事に応募してみないか?と言われたんです。そして私はその仕事に就いたのですが、それがアニメ界に入るきっかけ。そこからアニメーションが、より大好きになっていきました」

アニメ業界に入り、まず驚かされたことがあったらしい。

「当時、50人から400人のアーティストと一緒に仕事をするオフィスワークがあるなんて知らなかったんです。だから、オフィスに行ってアーティストと一緒に仕事ができるというのは、私のような人間にとっては、素晴らしい仕事環境でした。そこから映画『ラグラッツ・ムービー』やニコロデオンの番組に携わり、アートサイドとストーリーサイドの両方から仕事をするようになりました。その後も、映画『サウスパーク』や『スポンジ・ボブ』『ジミー・ニュートロン 僕は天才発明家!』などに携わったことで、今の私があると思っています」

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ナイトー氏は、ニコロデオン・アニメーション、カートゥーンネットワーク、ブルースカイ・スタジオにて、社長やプロデューサーとして働いた。これらの会社で学んだことで、パラマウント・アニメーションにいかせるエッセンスはあったのだろうか。

「アーティストの経歴を持つ自分の強みについて学んだことのひとつは、テレビアニメや映画を制作する際のアーティストのやり方や実践にとても“共感”ができたということです。アニメ映画の制作は、通常3~6年ぐらいかかるために、物語がどうデザインに反映されるのかが重要になります。脚本やストーリーのアイデアから、制作の過程でそれを進化させるという、非常に反復的なプロセスです。そして、それは共同作業であり、多くの集中力、多くのサポート、(アーティストがクリエイティブさを発揮できる)安全な空間が必要なプロセスでもありました」

「私はこれを実践することを見極め、安全な場所を提供し、作る手助けをすることができたと思っています。それは、監督が持つビジョンを維持し、進化させるためのものでもあります。私の強みは、クリエイティブな面を管理しながら、予算やスケジュールを守り、それを簡潔に調整することができること。一定の期間内に映画を作らなければならず、そのためにはクリエイティブなプロセスを管理する必要があります」

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現在、ディズニー、ピクサー、ソニー・アニメーション、LAIKA、GKIDSなど多くのアニメスタジオやプロダクションがある。それぞれのスタジオがストップモーション・アニメーションや他国のアニメを配給するなど、ユニークなアプローチを持っているが、パラマウント・アニメーションのセールスポイントは?

「パラマウント・アニメーションの魅力は、ハウススタイル(独自のスタイル)がないことです。私たちは、監督とその主要なリーダーシップ・チームを中心に、4つのプロダクションと組んでいます。『トランスフォーマー ONE』では、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)と仕事をしました。『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』ではミクロス・アニメーション(ミクロス・イマージュ)と仕事をしました。どのプロダクションにも異なるアニメーション・スタジオがあり、私たちはそのクリエイティブの卓越性や適合性に基づいて、これらのアニメーション・スタジオと提携しています」

「私たちのアプローチは、創造性を持って進展していくということです。それぞれの映画は根本的に異なるため、非常に高額な映画を製作することもあれば、1200万ドルや1500万ドルの低予算の映画を製作することもあります。私たちのプロダクションは広範囲にわたり、どのようにその規模を拡大できるかということも含めて、エキサイティングなものになっていきます。ですから、決して独創性に欠けたものではありません」

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ここからは「トランスフォーマー ONE」の話題へ。同作は世界的に大ヒットを遂げたSFアクション映画「トランスフォーマー」シリーズの3DCGアニメーション版で、司令官オプティマス・プライムと宿敵メガトロンの若き日の友情秘話、トランスフォーム能力の起源を捉えた作品。映画「トイ・ストーリー4」などのジョシュ・クーリーがメガホンをとっている。

若きオプティマス・プライム(オライオンパックス)を中心としたストーリーが展開。この設定にするきっかけは何だったのか。

「20年近く映画『トランスフォーマー』シリーズに携わってきたプロデューサーのロレンツォ・ディ・ボナベンチュラには、オリジナル・ストーリーを作り、サイバトロン(『トランスフォーマー』シリーズに登場する架空の組織。英語版ではほとんどの作品で『オートボット』と呼ぶ)を舞台にした作品を手がける願望がありました。実は、サイバトロンは、常に語られてきた場所であるものの、誰もその全貌を見たことがありませんでした。だから、オリジナル・ストーリーは、常に彼らのバックポケット(英語では、簡単にアクセスできる場所に便利なものを置いておくことを指す。今回の場合は、身近にそのオリジナルストーリーがあったという意味)にあったんだと思います。ジョシュ・クーリーを監督に迎えて、壮大で大胆な映画を完成させることができて本当に幸運でした」

「この物語のエモーショナルな核はとても重要です。実写版『トランスフォーマー』では、オプティマス・プライムとメガトロンという象徴的なキャラクターが登場し、お互いを憎み合っていました。今作は、そんな愛と憎しみの間にある微妙な境界線を受け入れ、彼らの友情の物語を語っています。何が彼らを敵に回すことになったのか――それは信じられないほど理にかなったもので、とても共感を抱かせてくれると思っています。このオリジナル・ストーリーを知ることで、観客の体験はまた異なったものになると信じています」

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ジョシュ・クーリー監督の演出の魅力についても尋ねてみた。

「ひとつの例を挙げましょう。ジョシュは、このストーリーがキャラクターたちの旅路のデザインにどのように反映されるかということに非常に注力していました。オプティマス・プライムらが初めて会った時、彼らは鉱員でした。彼らには番号が与えられていて、まだ変身はできません。ただ、小さくても心があり、彼らには夢があり、希望を持っています。少なくとも主人公のオライオンパックスにはそれがあります。そしてアルファートリン(『トランスフォーマー』シリーズに登場するサイバトロンの長老にして歴代リーダーのひとり)から歯車を与えられたとき、彼らは変身します。彼らは大きくなり、よりパワフルになる。彼らは『この偉大なパワーは何なんだ?』と。最終的にもう1つのデザインの選択があります。彼らはメガトロンとオプティマス・プライムになるんです。映画の最後では、私たちはこの驚くべきキャラクターたちを、今日私たちが知っているヒーローと悪役に変身させます。彼らは成長し、文字どおり、立派な自分になる。ストーリーとデザインが非常に綿密で、創造性に触発されていて、これらのキャラクターがどこへ行き、自分自身になっていくのかという過程でもあるんです」

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本国版のボイスキャストには、クリス・ヘムズワースブライアン・タイリー・ヘンリースカーレット・ヨハンソンらが集っている。ナイトー氏は、キャスティング経緯についても語ってくれた。

「私はアニメ映画のキャスティングが大好きなんです。まず、彼らが出演する他の映画から声を引っ張ってきて、静止画の後ろに合わせて想像してみるんです(笑)。クリス・ヘムズワースブライアン・タイリー・ヘンリーの声をそれぞれ聞いて、これはマジックだと思ったのを覚えています。まさに、これだとね。2人の声の質に耳を傾けました。彼らの声には、信じられないほど高いレベルの技巧があり、それをスクリーンで、しかも互いにダイナミックに伝えることができていると思いました。今作は、コロナ禍で制作されました。だから、いつものように同じブースに声優を集めることができませんでした。しかし、彼らはプロで、継ぎ目の無いような方法でお互いを演じ分けることができていました。そして、スクリーンの中では、彼らの声の使い分けを感じることができるはずです。クリス・ヘムズワースブライアン・タイリー・ヘンリー、彼らの声もとてもわかりやすく、ある意味、壮大な形で物語に付加価値を与えてくれました」

「そして、スカーレット・ヨハンソンの演技も大好きだと言わざるを得ないくらい。彼女は今作で最も面白いセリフを発しています。それに彼女の演じたキャラクター・エリータ-1は、とてもタフで、私にもインスピレーションを与えてくれました。彼女のおかげで私もピンクのTシャツ(エリータ-1のキャラクターカラー)を何枚か買ってしまったほどです(笑)」

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最後に聞いたのは、ナイトー氏のパートナーであり、映画「ビルとテッド」シリーズへの出演、映画監督としても知られるアレックス・ウィンターについて。ともに業界で働く2人にとっての“クリエイティブであるためのモチベーション”を保つ秘訣とは?

「私はアニメーションの仕事をしていますが、彼はそうではありません。ですから、私たちの役割も媒体も大きく異なりますが、お互いをサポートし合うことで、毎日の仕事に力をもらい、刺激を受けています。最高の物語を伝えるという仕事の難しさを理解している監督と結婚ができて、私はとても幸運だと感じているんです。人々はアニメ映画から学び、子どもたちに対しては、受容や包容にまつわる物語が語られています。私とアレックスの間には3人の男の子がいますが、子どもたちが我々の世界について学び、成長し、最高の自分になれるようにしています。さらに他の子どもたちにも、それが波及するようなものを作る上では、アレックスのサポートはとても大切な存在になっています」

筆者紹介

細木信宏のコラム

細木信宏(ほそき・のぶひろ)。アメリカで映画を学ぶことを決意し渡米。フィルムスクールを卒業した後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニングサテライト」のアシスタントとして働く。だが映画への想いが諦めきれず、アメリカ国内のプレス枠で現地の人々と共に15年間取材をしながら、日本の映画サイトに記事を寄稿している。またアメリカの友人とともに、英語の映画サイト「Cinema Daily US」を立ち上げた。

Website:https://ameblo.jp/nobuhosoki/

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