コラム:シネマ映画.comコラム - 第21回

2022年11月17日更新

シネマ映画.comコラム

闇にも温かさがある――深遠なテーマを描く癒しの対話劇 韓国版「ジョゼ虎」監督の新作「夜明けの詩」

第21回目となる本コラムでは、11月25日からの劇場公開を前に、11月18日から11月20日までの3日間、先着200名様限定で“公開直前プレミア上映(配信)”する「夜明けの詩」をピックアップして、見どころなどを紹介します。

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【作品概要】

第20回全州国際映画祭の全州シネマプロジェクトに選定された作品。Netflixの人気ドラマ「39歳」(ソン・イェジンの恋人ソヌ役)でも知られ、“ロマンス職人”の異名を持つヨン・ウジンが主人公の小説家を演じ、監督・脚本は「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)」のキム・ジョングァンが担当。冬のソウルを舞台に「生と死」「時間」「記憶」という深遠なテーマを、観る者たちの心に寄り添う癒しの物語に昇華させています。

2021年製作/82分/G/韓国
英題:Shades of the Heart

【物語】

まだ冬が残るソウル。7年ぶりにイギリスからソウルに帰ってきた小説家のチャンソク(ヨン・ウジン)は、コーヒーショップで時間をなくした女性と出会う。さらに、思い出を燃やす編集者、希望を探す写真家、記憶を買うバーテンダーといった、心に深い葛藤を抱えながらも人生を歩み続ける4人との出会いから、自身が心に閉ざしてきた記憶と向き合っていく。


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●物語のほぼ全てを“2人の対話”で描く 監督が挑んだ新スタイル

監督を務めたキム・ジョングァンは、短編映画「ポラロイドカメラの使い方」が数々の映画祭で賞を受賞し、観客や評論家から注目を浴びたクリエイターです。「最悪の一日」「窓辺のテーブル 彼女たちの選択」、オムニバス「ペルソナ 仮面の下の素顔」の1編「夜の散歩」、「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)」など、繊細な演出と映像美で人々を魅了してきました。

これまで「2人の会話を中心として成り立つ映画」を撮ってきていますが、本作では「何か実験的なことをしてみたいと思い、一人の人物が様々な人に出会って気持ちが変化し、成長していく姿を描いたのです。その為、2人の会話というよりは、チャンソクという主人公が人々の胸の内や事情を聞くという私にとって新しいスタイルで描いています」と明かしています。

監督の発言通り、本作は結構チャレンジングな作りをしているんです。それは……主人公のチャンソク、そして、彼が出会うキャラクターたちとの“対話”で、物語のほぼ全てを描き切っているということ。そして“対話”でありつつも、チャンソクが主に聞き役となっているという点も特徴的です。

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ちなみに、チャンソクが出会い、寄り添っていくのは、こんな人物たち。

・“時間を失くした女”ミヨン

・“想い出を燃やす編集者”ユジン

・“希望を探す写真家”ソンハ

・“記憶を買うバーテンダー”チュウン

各キャラクターにつけられたキャッチコピー、気になるものばかりですよね? 一見すると「どういうことだ?」と感じてしまうと思いますが、ご安心ください。チャンソクとのひとときを経てみると、納得のコピーであることがわかるはずです。

そして、ほぼ聞き役に徹していた小説家・チャンソクが、4人との時間を経て、新しい物語を紡ぎ出していきます。それは見知らぬ誰か、周囲の他人の話ではなく「自分自身の物語」。そのストーリーに触れた瞬間、チャンソクのイメージがガラッと変わる。そんな驚きが封じ込められた作品でもあるんです。

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●老い、死、悲しみ、喪失……思わず息をのむような瞬間が訪れる

キム・ジョングァン監督は、本作の製作にあたり、こんな思いを抱いていました。

「英題(SHADES OF THE HEART)でも表現していますが、光と闇があるとすれば、闇の中にある影の部分を綿密に観察して物語を作りたいと思いました」

「この映画には、街に誰もいないですし、コロナ禍の現状と同様に徹底的に距離感を保つ作品です。実際に、撮影監督や照明監督と話をするときにも、影について描いてみようと話しました」

本作では「老い」「死」「悲しみ」「喪失」といった題材が描かれていきます。何気ない対話のなかに、そのテーマがふと立ち上がり、心に深く突き刺さる――。例えば、駅構内の古い喫茶店の窓際に座るミヨンは、チャンソクに会う約束をすっかり忘れてしまっています。一体、なぜ……? そこに意外な答えが待ち受けています。その意外性というのは、ユジン、ソンハ、チュウンとのエピソードも同様。心地良い対話劇に耳を傾けていると、思わず息をのむような瞬間が訪れるんです。

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キャラクターたちの“暗い影”の部分。しかし、キム・ジョングァン監督は「観客たちが悲しみだけを感じることはないだろうという確信がありました」と明かしています。

「『死』であれ『老い』であれ、どんな暗い領域であっても時にはそれを偽らずに正面から見つめることが、今の時代にとても大切だと思います。なので、『死』を見つめながら『生』について話すこともできるし、ここでは老いることに対する悲しみも出てきますが、誰かと一緒に老いていくことへの憧れや希望だって描かれている。その部分を観た観客が、少しでも希望や安らぎを感じ、この作品の中で何かの価値を得られることができればいいな、という想いでこの映画を撮りました」

本作の魅力は「“闇にも温かさがある”と気づくことができる点」というキム・ジョングァン監督。キャラクターたちだけでなく、彼らの人生を垣間見る観客にも寄り添いながら、オリジナリティあふれる「癒しの物語」を生み出しています。

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●“ロマンス職人”ヨン・ウジンד韓国国民の妹”イ・ジウン

ヨン・ウジンは、キム・ジョングァン監督と2度目のタッグとなりました。「窓辺のテーブル 彼女たちの選択」の撮影中には、「生きる姿勢、作品に対する真摯な姿勢、そして役者としての心構えを監督から学んだ」と語るほど、熱い信頼を寄せています。そして、念願の再タッグとなった「夜明けの詩」では「大きなプレゼントをもらった気がしている」と話しているんです。

「役作りをする中で、実は僕の心の中を無にしようと努力しました。忙しく走ってきた僕の時間の中で、僕も知らないうちに作り出した自分自身の姿が多かったのですが、そんな姿を消し去り空っぽにしながら、役作りをしました。そうした過程を経て、いつの間にか皆さんが話す物語に夢中になり、僕自身の気持ちにも変化が起こる、そんな不思議な経験をした撮影だったと思います」

ソンハ役は数々のテレビドラマや映画に出演してきた名バイプレイヤーのキム・サンホ、ユジン役は「賢い医師生活」や「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)」に出演したユン・ヘリ、チュウンを「毒戦 BELIEVER」で存在感を示したイ・ジュヨンが演じています。

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注目は、喫茶店でチャンソクと出会うミヨンをイ・ジウン(=IU)が演じていること。「マイ・ディア・ミスター 私のおじさん」で主演を務め、その演技に惚れ込んだ是枝裕和監督が「ベイビー・ブローカー」への出演を熱望した“韓国国民の妹”として知られています。

Netflixのオリジナル群像劇シリーズ「ペルソナ 仮面の下の素顔」の1編「夜の散歩」でも、イ・ジウンとタッグを組んでいたキム・ジョングァン監督。「夜明けの詩」が「『夜の散歩』で語られたどの話とも繋がっていると思う」と話しつつ、イ・ジウンのキャスティングについても言及しています。

「同じ時期に書いて悩みながらできた姉妹のような作品ということもあり、イ・ジウンさんに相談しました。それから、キャラクター的にも少し繋がっている感じがするので、映画として面白いものになるのではないかと思い、彼女にオファーしました。結果として良い価値を加えてくれたと感じています。とにかく、同じ世界観での話だと思っています」

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●「深い霧の中にいるような寂しさを体現している」 韓国の著名人は何を感じた?

韓国国内でも絶賛の声が相次いでいた「夜明けの詩」。

本記事のラストでは、同作に惚れ込んでしまったトップスターたちのコメントを紹介しておきましょう。

ムン・ソリ/女優 「オアシス」
すべての登場人物の表情・声は、私の記憶にずっと残ると思います。
深い霧の中にいるような寂しさを、キム・ジョングァン監督は見事に体現しています。

ハン・ジミン/女優「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)
どんな人でも寂しさや孤独を抱えているけれど、チャンソクと出会う人々の対話から、癒しを感じて欲しい。
それはまるで、一人旅をしているような時間になるはずです。

☆チャンソン/2PM
最初から最後まで、とても不思議な魅力のある映画で、いつの間にか作品に入り込んでしまいました。

ユン・ジョンシン/歌手
慌ただしい日々を送っている私たちを、一瞬立ち止まらせてくれる、そんな作品です。
映画館で観ると100%、いや200%満足することができます。

キム・ムヨル/俳優 「声 姿なき犯罪者
鑑賞後、しばらく席から立ち上がることが出来なくなったのは久々でした。
静かな水面に、一滴のしずくを落とした時のような波動を感じ、ずっと心に残ります。

チン・ギジュ/女優「殺人鬼から逃げる夜
役者の方々の演技が素晴らしく、感動しました。
ここまで登場人物に集中できる映画を撮れるのは、キム・ジョングァン監督しかいません。

(執筆/編集部 岡田寛司)

>>【観る者たちの心に寄り添う癒しの物語「夜明けの詩」】

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