コラム:シネマ映画.comコラム - 第11回

2022年7月8日更新

シネマ映画.comコラム

ボイリング・ポイント 沸騰」の全編90分ワンショットを体験しよう!

第11回目となる本コラムでは、7月15日の劇場公開前に、7月8日から10日までの3日間、先着100名様限定で“公開直前プレミア上映(配信)”する「ボイリング・ポイント 沸騰」をピックアップして、見どころや、あわせて見て欲しい作品を紹介します。

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【作品概要】

2021年製作/95分/PG12/イギリス

ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフのスリリングなある一夜を、全編90分ワンショットで捉えた人間ドラマ。カメラが縦横無尽に店内を動き回り、正真正銘のノーCG&ノー編集で、慌ただしいレストランの表と裏、緊張感と臨場感を同時に味わえます。この破格の映画を是非体験してみてください。

【物語】

一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日の一夜が舞台。英国ロンドンにある人気高級レストランのオーナーシェフのアンディは、妻子との別居や、衛生管理検査で評価を突然下げられるなど、トラブルに見舞われて疲れ切っていました。そんな中、アンディは気を取り直して店をオープンさせますが、あまりの予約の多さにスタッフたちは一触即発状態で、さらにアンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れて突然来店し、脅迫まがいの取引を持ちかけてくるのです……。


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【主な見どころポイント】

・全編90分驚異のワンショット(ノーCG&ノー編集)
・一夜に巻き起こる予測不能で濃密なドラマ
・俳優たちの迫真の演技と見事なアンサンブル
・食欲そそる料理と覗き見るようなレストランの内幕
・鋭い社会性もはらんだサスペンスフルな人間模様

脚本と演出がしっかりと練られているので、物語の展開だけでも見応えがありますが、冒頭からすぐに、本当にワンショットなのか、どうやって撮影しているのかも気になってくると、見ている緊張感は倍増することでしょう。そして物語に没入するあまり、人によってはワンショット撮影であることを忘れてしまうかもしれません。また、衝撃の結末は賛否わかれるところです。

主演はマーティン・スコセッシ監督「アイリッシュマン」(2019)や、「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」(21)でも強烈な印象を残したスティーブン・グレアム。いろいろな問題を抱える人気レストランのオーナーシェフ、アンディをただならぬ気迫と悲哀で演じ切っています。そんなアンディや混乱に陥った厨房を支える副料理長カーリーを演じたのは、テレビシリーズ「SHERLOCK シャーロック」のビネット・ロビンソンで、グレアムに負けない存在感を示しています。さらに、ガイ・リッチー監督「スナッチ」(00)でグレアムと共演したジェイソン・フレミングらが脇を固めているのも見どころと言えるでしょう。

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【全編ワンショット、ワンシーン・ワンカット、長回し】

映画が誕生して約127年(1895年を誕生の年とした場合)。これまで数多くの映画が全編(もしくは作品の大部分)ワンショット(ワンカット)で撮影、製作されています。厳密には全編ワンショット(長回し)ではない作品も含まれますが、近年ではサム・メンデス監督「1917 命をかけた伝令」(19)、エリック・ポッペ監督「ウトヤ島、7月22日」(18)、上田慎一郎監督「カメラを止めるな!」(17)、イリヤ・ナイシュラー監督「ハードコア」(16)、セバスチャン・シッパー監督「ヴィクトリア(2015)」(15)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14)、白石晃士監督「ある優しき殺人者の記録」(14)など、作品として高い評価を得ているものも多くあります。

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映画の誕生まで遡れば、トーマス・エジソンと並び称せられるフランスの映画発明者で、「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟が撮影した世界最初の実写映画「工場の出口」や、「ラ・シオタ駅への列車の到着」はワンショットでした。それから星の数ほどの映画の先人たちが、映画撮影や表現の限界に挑み、その可能性を押し広げてきたわけです。

全編ワンショットではなくても長回しと言えば、アルフレッド・ヒッチコック監督の「ロープ」(1948)が有名。物語の全編をワンシーンでつなげ、映画内の時間と現実の時間が同時進行するという実験的な手法で描きました。アメリカ映画では、オーソン・ウェルズ監督「黒い罠」(1958)のオープニングの長回し、ジム・ジャームッシュ監督「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)のワンシーン・ワンカットも語り継がれており、最近の作品ではデイミアン・チャゼル監督「ラ・ラ・ランド」のオープニングやパーティシーンなどの長回しも記憶に新しいところです。

「ラ・ラ・ランド」
「ラ・ラ・ランド」

日本映画では、溝口健二監督「雨月物語」(1953)の中のワンシーン・ワンカットはあまりにも有名ですし、相米慎二監督「ションベン・ライダー」(1983)の冒頭からの長回しも語り継がれています。台湾の巨匠、ホウ・シャオシェン監督もワンシーン・ワンカット(長回し)で著名な監督の一人ですが、ロシアを代表するアレクサンドル・ソクーロフ監督「エルミタージュ幻想」(02)も90分ワンカット。アンドレイ・タルコフスキー監督や、ギリシャのテオ・アンゲロプロス監督、イタリアのミケランジェロ・アントニオーニ監督作品の長回しも映画史に残る名シーン、傑作となってます。


このようにざっと振り返って挙げただけでも数多くの作品があるわけですが、あなたのお気に入り作品はありましたか? 全編ワンショット、ワンシーン・ワンカット、長回しの手法が、その物語を表現する最良のものかどうか、監督の意図とアイデアが融合したものかどうかで、名作と普通の作品に分かれてくると思います。そういった映画史的な系譜の中で、「ボイリング・ポイント 沸騰」は、レストランの内幕を覗き見しているような映画体験のアイデアと、全編ワンショットの技術が見事に融合し、映画の新たな表現の可能性を更新した作品と言えるでしょう。

ボイリング・ポイント 沸騰」の配信は7月8日から10日までの3日間、先着100名様限定ですので、このスリリングな作品を是非いち早くご覧ください。(執筆&編集者/和田隆)

>>【全編90分ワンショットを体験しよう!】

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