おらおらでひとりいぐも

劇場公開日:

おらおらでひとりいぐも

解説

第158回芥川賞と第54回文藝賞をダブル受賞した若竹千佐子のベストセラー小説を「横道世之介」「モリのいる場所」の沖田修一監督が映画化し、昭和・平成・令和を生きるひとりの女性を田中裕子と蒼井優が2人1役で演じた人間ドラマ。75歳の桃子さんは、突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。しかし、毎日本を読みあさり46億年の歴史に関するノートを作るうちに、万事に対してその意味を探求するようになる。すると、彼女の“心の声=寂しさたち”が音楽に乗せて内から外へと沸き上がり、桃子さんの孤独な生活は賑やかな毎日へと変わっていく。75歳現在の桃子さんを田中、若き日の桃子さんを蒼井、夫の周造を東出昌大が演じるほか、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎という個性的なキャストが桃子さんの“心の声”たちに扮する。

2020年製作/137分/G/日本
配給:アスミック・エース
劇場公開日:2020年11月6日

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(C)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

映画レビュー

4.0日常に魔法をかける、稀有な映画

2020年11月9日
iPhoneアプリから投稿

 日常のもやもやを忘れさせてくれる映画があふれる中、日常に魔法をかけてくれる稀有な映画を、またしても沖田修一監督が世に送り出してくれた。
 雨の降りしきる夜更け。古ぼけた暗い部屋で、一人お茶をすする桃子さんの周りに、突如、背格好も顔つきもばらばらの「寂しさ1・2・3」が登場する。桃子さんの生み出したイメージだという彼らは、若き日の桃子さん(の声)と掛け合い漫才のようなやり取りをし、もっさりした現在の桃子さんに何かと茶々を入れる。初めは彼らを無視・黙認、時には「のせられていた」桃子さんだが、四季がめぐるにつれ、少しずつ彼らと付き合うようになり、豆まきを経て、春には皆で楽しげに踊る。
 判で押したようなおきまりの生活を繰り返しながら「イメージ」と会話し、過去と現実を行き来する桃子さん。「孤独な老人」などと言うと、リア王並みの悲壮感が漂う。けれども、桃子さんは決して哀れな存在ではない。桃子さんは、案外しっかり者だ。かかりつけ医、図書館員、車のディーラー、息子の幼なじみだった警官、そして近くに住む娘や孫…の誰とも付かず離れず、ほどほどの距離を保っている。特定の誰かにおもねり頼らない桃子さんは、やっぱり「新しい女」なのだと思った。
 予告やちらしに繰り返しふれ、小3の子と公開を心待ちにしていたこともあり、「1・2・3」が登場すると「出たー!」と共に手を叩いて喜んだ。その後も、3人の茶目っ気やノートから飛び出してくる太古の生き物の伸びやかさにわくわくし、毎朝登場する「どうせ」のねちっこさににやにやした。途中でふと、桃子さんと母が同年代だと思い至り、若き日の母や今の姿、将来の自分についてもふわふわと考えた。
 桃子さんのような生活は、けっこう悪くない。というか、案外楽しそうだ。ひと様・世間様にとらわれないどころか、「今」にもとらわれていない。人間関係とも時間軸とも「ほどほど」の距離を保ち、今と過去を自在に行き来する生活。そんな楽しみを手に入れるきっかけは、実はどこにでも転がっているのかもしれない。見慣れた風景や聞き慣れた言葉を目に・耳にしたとき、かつての出来事がふっと心に浮かぶ。一見味気ない日々を繰り返しているのは、繰り返す中で、いつまでも色あせない思い出が形づくられていくからではないか。母、自分、そして隣にいる子が、それぞれに重ねてきた・重ねていく時間を思い、少しほろ苦いけれど、あたたかい気持ちになった。
… と、小難しいことはさておき。この映画に出会って以来、「おらだばおめだ、おらだばおめだ」というフレーズが何かにつけて頭をめぐり、リズムにのってる自分に気付く。子も、時々楽しげに口ずさんでいる。目の前の生活が味気なくなったら、好きなようにイメージを放ってみる。それだけで、日常はとても楽しい。一人でいることは、寂しいどころか、豊かさそのものだ。そう、気負わず素直に感じられるようになった。
 そういえば、昨日のこと。行きつけのスーパーで、開店前から居座っているおばあさんに、またしても出くわした。「待ってても開かないよ」、「開いたって欲しいものなんてないよ」、「何もないんだから」と果てしなく繰り返す彼女が、これまでどうにも苦手だった。けれども昨日は、「どうせ」が取り付いているイメージが見えた。そのうち、「1・2・3」が彼女を取り囲んでくれるかもしれない。もしやの再会も、そう悪くないと思えた。

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cma

3.5“孤独”へのユーモア溢れる眼差しが優しく響く

2020年11月2日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

冒頭からユーモアが溢れている。なんと46億年前の地球史のはじまりから映画はスタートし、そこから一気に現代の街の夜景にジャンプ。そして、薄暗い部屋でひとりお茶を飲む老婦人が映し出される。こんなぶっ飛んだ展開から始まる沖田修一監督の最新作「おらおらでひとりいぐも」は、ひとりの女性を通して“孤独”とは何かをじっくりと、やさしい眼差しで見つめた人間賛歌の物語だ。「おらおらでひとりいぐも」とは、「私は私らしく一人で生きていく」という意味。

主演の田中裕子さんの存在感、佇まいがこの映画を唯一無二にものにしている。「いつか読書する日」「火火」以来15年ぶりの主演となるが、昭和、平成、令和を駆け抜けてきた75歳の主人公・桃子さんの“孤独”をしっとりと時に愛嬌たっぷりに、そして強さを持って好演。孤独な寂しい日々を紛らわすための独り言、心の声なのか、それとも痴ほう症の前兆なのか、そんな危ういバランスを絶妙に演じている。

部屋の襖を開けると別の世界が現れたり、マンモスが登場したりと突飛な展開もあるが、沖田監督は現実と桃子さんの頭の中(心の中)を軽やかに行き来してみせる。“孤独”の先で見つけた新しい世界とは何か、不安や寂しさを受け入れて新たな一歩を踏み出していく姿は感動的だ。

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和田隆

4.5突き詰めれば“ひとり”。ひとりとひとりの連なりが生命の歴史

2020年10月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

楽しい

知的

幸せ

原作者・若竹千佐子が桃子さんという主人公の思索を通じて伝えるそうした哲学的なメッセージを、脚本を兼ねた沖田修一監督はアニメーションやCGも駆使し、視覚的に直観しやすいユーモラスなビジュアルで表現した。コメディやドラマを比較的オーソドックスな話法で作ってきた沖田監督だが、今作ではストーリーを映像で語る「映画」のフォーマットでどこまで遊べるか、正統な映像表現手法をシュールレアルな描写や唐突なギャグで脱構築できるかに挑戦してもいる。

地球46億年の歴史と桃子さんの人生は、一見遠いようで、俯瞰すれば脈々と続く命のバトンで繋がっている。人間は生まれる時もひとり、死ぬ時もひとりだが、家族や出会った人々など、有限の時間を一緒に過ごした人と、過去の自分自身の記憶は共にある。単に独居老人のありようにとどまらない、人生への向き合い方についての含蓄に富む豊穣な映画体験だ。

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高森 郁哉

4.0陽だまりのように優しく、温かく、ちょっとだけ奇想天外

2020年10月29日
PCから投稿

沖田作品はいつも陽だまりのようだ。たとえ主人公の心に生きる上での悩みや悲しみ、孤独がのしかかろうとも、決して吹きっさらしのままにはせず、いつしかなんとも言えない温もりがその身をそっと包み込む。樹木希林を演出した「モリのいる場所」の自由さにも驚かされるばかりだったが、今回、田中裕子演じる「桃子さん」の中でゆっくりと移ろいゆく記憶や想いに寄り添う過程にも、確かな優しさと温もりがにじんでいた。一人きりになると決まって現れる「心の声」の表現も毎度おかしくてたまらないが、そこから奇想天外なマジックリアリズムへと突入したり、上京直後の夢と希望、家族みんなが居た頃の懐かしい記憶が急に沸き起こったり、はたまた彼女の人類史への興味関心もダイナミックに映画を息づかせる。140分近い作品だが、もっと寄り添って見つめていたいとも感じる。またも人間のこと、歳を重ねることを好きになれる名作を、沖田監督は届けてくれた。

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牛津厚信