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倍賞千恵子×木村拓哉に問いかける、齢を重ねるということ【「TOKYOタクシー」インタビュー】

2025年11月17日 19:00

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取材に応じた倍賞千恵子と木村拓哉
取材に応じた倍賞千恵子と木村拓哉

日本でもヒットしたフランス映画「パリタクシー」を原作に、山田洋次監督がメガホンを取る「TOKYOタクシー」。毎日休みなく働いているタクシー運転手と、偶然、彼が乗せることになる人生の終活に向かうマダムとの、運命的な出会いと奇跡を描くヒューマンドラマだ。

波乱万丈な人生の末に終活に向かう高野すみれを、「男はつらいよ」シリーズなど山田洋次作品でも多くの名作を演じてきた倍賞千恵子が、すみれを施設まで送ることになるタクシー運転手・宇佐美浩二を、「武士の一分」以来 19 年ぶりに山田作品に出演する木村拓哉が演じる。

実写では初共演となる倍賞千恵子木村拓哉に、いまこの映画を、役を演じることについて聞いた。(取材・文/関口裕子、編集/大塚史貴、写真/間庭裕基

画像8(C)2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
――今回、タクシー車内での二人きりのお芝居がメインでしたが、それぞれ、木村拓哉さん、倍賞千恵子さんとの共演はいかがでしたか?
木村拓哉(以後、木村) 声の演技では、宮崎駿監督のアニメーション「ハウルの動く城」でご一緒させていただきましたが、目を合わせてセッションするのは初めて。でもハウルとソフィーを演じたことで、なんとなく倍賞さんと間合いは縮められていたように思います。そのうえでのセッションだったので、ド緊張することもなく入ることかできましたが、不思議な感じでした。
倍賞千恵子(以後、倍賞) 私もそう。
木村 えっ(爆笑)。それで終わり?
倍賞 ごめん、ごめん(笑)。じゃ、私は緊張しました。
木村 嘘だ。
倍賞 いや、緊張したのよ。
木村 それは山田(洋次)監督にじゃないですか。
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倍賞 うん。もちろん監督にも緊張しました。でもすごく楽しみだったのと同じくらい緊張もした。撮影は、ほとんどがスタジオで、中に入ると、丸いステージの真ん中にタクシーが置いてあって、ちょうど舞台みたいな感じでもあったわよね。
木村 タクシーの中のシーンは、ロケじゃなくて、270度LEDウォールで囲われたスタジオの中で撮影したんです。ウォールに映し出された外の風景に合わせて、照明さんたちが太陽光を作り出す。要するに、ビルの陰に車が入れば直射日光が遮られ、通り過ぎれば光が当たる。その瞬間を照明部がライトで作り出すわけです。
倍賞 待っている間、ステージの脇にあった、俳優さんたちが待機するテーブルで、いろいろおしゃべりしたよね。「ハウル」のときは、あまり私語しなかったけれど。
木村 なかったですね。
倍賞 いろいろな話をしては、タクシーに乗って撮影し、また戻っていろいろ話し、タクシーの中に入る。他の人とのお芝居がほとんどなかったのもあるけれど、すみれ(倍賞)は毎日、浩二(木村)さんに会うのが楽しみだったの。山田さんの作品の中では、今まで演じたことのない役だったけど、すっと入っていけたのは、あそこでいろいろ話せたからかもしれない。
木村 うれしいですね。
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倍賞 その前に横浜アリーナでやった木村さんのコンサートも拝見して。イェーイなんて言って、こういうの……。
木村 ペンライト?
倍賞 そう、ペンライト、振ったのよ。
木村 いや、知っていますよ。あの時、俺、一番緊張しましたもん(笑)。
倍賞 そう? そうは思えなかったけど。
木村 緊張するに決まってるじゃないですか。自分のライブの客席に、山田監督と倍賞さんがいるんですから!
倍賞 ワーっと走ったり、歌ったりしていて、ものすごい力を感じたのね。でも木村さんが演じた、家庭を持つタクシー運転手の浩二さんはそういうのとは無縁な人。だから、どんなふうに演じるのかなとワクワクしていました。木村さんは撮影に入ってから、毎日どんどん変わっていくので、私も変わらなきゃって頑張った!
11月21日公開
11月21日公開
(C)2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
――人と関わったことで、人生が変わる。この映画のテーマでもありますね。
倍賞 キャメラがあるところで、木村さんとお芝居できて、本当に楽しかった。私、「男はつらいよ」では、ずっと渥美清さんとお芝居をしてきましたけど、渥美さんて目が細いの。その細い目が悲しいときに、奥のほうでうるうるっとするのが、とても素敵だったんです。今回は、木村さんが運転していて、私は後ろの席。だから心を読んだり、心が触れ合ったり、気持ちのキャッチボールをするのも、全部、バックミラーやキャメラ越し。木村さんの目は逆にすごく力があったので、それでよかったのかも(笑)。とても面白かったし、人の心とか、気持ちとか、そういうものをいっぱいいただきました。
木村 乗せた人が、すみれさんだから成り立った関係性ですよね。浩二は当初、単純に割のいい仕事として、すみれさんを乗せた。言い方はなんですが、確実に高収入を望めるお客さんとしてね。でもその相手が、浩二という存在に何かを感じ、自分の人生を語ろうと思ったから、戦争の空気なんて感じたこともない浩二が、戦禍の恐ろしさや切なさ、苦しさの片鱗まで知ることになる。人との出会いによってケミストリーが生まれると思いますが、台本を読んでストーリーを知っていたにも関わらず、こんなにも気持ちのアップダウンがあると思いませんでした。蒼井優ちゃんや迫田孝也さんが演じたパートもひっくるめて出会いは不思議なものであり、たった一日の出会いが人の人生に大きな影響を及ぼし、命のビートが止まった後にすら何かを残すことがある。浩二にとってすみれさんは、それまで会ったことのない存在だったんだと思います。
画像5(C)2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
――さくらさんからすみれさんへ。山田監督は、戦後の厳しい時代を、恋をし、子どもを育て、波乱万丈に生きてきたマダムのすみれという役を、倍賞さんに託されたわけですが、受け取っていかがでしたか?
倍賞 すみれさんのキャラクターについて、一番言われたのは「挑戦的」ということ。衣装合わせやメイクなんかも「挑戦的」にと。だから「よし、挑戦するぞ!」と思うんだけど、どうすれば挑戦的に見えるのか誰も分からないの(笑)。ある日、関係者の方がしていたネイルを見たときに「あれ」と思って、「山田さん、これじゃないかしら」と言ったら、「いいじゃない」となって、そのデザインを使わせていただきました。考えてみたら、私が山田さんの作品で演じたのは、さくらさん以外は、牛小屋で作業したり、石船の機関士をしていたりで、ネイルやおしゃれとは無縁(笑)。マニキュアをすること自体が私にとっては挑戦だったんです。だから最初は「挑戦的、挑戦的」と思いながらやっていましたけれど、いつの間にか忘れていました。
画像6(C)2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
――すみれさんの人生は、倍賞さんにとってどういうふうに思えましたか?
倍賞 寂しい人だと思う。山田さんも言っていたけれど、施設は、景色が良くて、豪華で、素敵だけど、人と触れ合えない生活はかわいそうだし、私は嫌。まだ私のどこかにいる、すみれさんは「こんなところ嫌。浩二さん、さっき言ったホテルに泊まりたい」と言っていると思います。あんな波乱万丈な人生を過ごしてきた後に、あそこで人と会わない暮らしをするなんて、お金は持っていてもとても寂しい。浩二さんと会って、自分のことを話し、それを理解して受け止めてもらった彼女は、とても救われたと思います。ナレーション録りのとき、なんかものすごく悲しくなっちゃって、そんな人たちが幸せになってくれればいいなという思いでやりました。人のために尽くせて、お金もあって、1人で身軽だけど、なんて寂しい話だろうとも思う。私は84で、すみれさんとあまり変わらない年代だからこそ、とてもいろいろ考えました。浩二さんという素敵な人に出会えてよかったなと思います。
――山田監督の演出は、具体的にどんな感じだったんですか?
倍賞 2人が車の中でお芝居しているときは、基本的に山田さんはカメラの隣にいて、私たちの声が聞こえるように、インカムをつけて見ていらしたんです。でもまどろっこしくなるみたいで、みんなに「危ないから」と言われながらも、暗闇の中、タクシーに近づいてきて、「窓開けて、窓開けて」って言って、直接、演出してくださる。
木村 サイドミラーやバックミラーで来るのが見えるから、監督が到着したタイミングで、俺がすみれさんの乗っている側の窓を開けるとディレクションが始まって、終わったのが分かると、また俺が勝手に閉めて(笑)。そんなタクシードライバーごっこをよくやっていました。
倍賞 やってた、やってた!
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――木村さんも今回、うまくいかない人生をいなしながら、どうにか家族の生活を支えるタクシー運転手・宇佐美浩二という新しい顔を見せたわけですが、山田監督から19年ぶりに託されたこの役はいかがでしたか?
木村 山田監督が自分を必要としてくれたこと自体で、現場に赴く理由は十分あったというか。どんな役であれ、どんな衣装であれ、どんなストーリーであれ、監督が1本撮るからと呼んでいただけるのであれば、それははせ参じるに足ること。今回、「パリタクシー」という原作を監督がご覧になって、東京でリメイクしたいという流れをうかがっていましたので、監督が惹かれたポイントはどこだと考えながら拝見しました。

セッティングの間、倍賞さんと僕は車内で、宇佐美でもなく、すみれでもなく、木村と倍賞さんとしてたわいもない話をしながらスタンバイしているわけです。「この作品が終わったら何するの?」とか。「俺、警察学校の教官になる予定です」みたいな(笑)。それを山田監督が見ていて、「それだよ。今の、今のいいね」と。いや、「今のいいね」って全然、素なんですけど(爆笑)。山田監督は、そういうのをすごくよく観察されている。携帯の電波でいえば5Gくらい感度がいいんです。観察の範囲でいうと、役者だけじゃなく、登場人物の斜め後ろにかかっている台ふきの色まで見ている。僕らにそういうのを伝えに来るときの山田監督は、ふだんステッキを使われているのに突いてないんです(爆笑)。

倍賞 そうそう、思い出した。持ってるけど、突かないから静かなの(笑)。
木村 そういう前のめりな姿勢と5G並みの感度で、作品への愛を感じさせてくださる。山田組は、監督だけでなくスタッフの方たちからも映画を作ることへの愛を感じます。“お仕事”ではなく、愛をもってやっている。現場にいるのはそういう方たちだと、ひしひしと感じる中で演技させてもらえて、めっちゃ光栄でした。
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――この作品は、タクシーで物理的な移動をしながら心を通わす旅を描く一方、遡った時間から二人が生きてきた人生を語る作品でもあると思います。お二人にとっての、齢を取ること、重ねていくことについての見解を教えてください。
倍賞 私のほうが齢を重ねているから、私が先(笑)? うまく言えないけど、私は齢を重ねることより、今をどう生きるかが大切かな。インタビューを受けているこの時間もそうだけど、今を大切にしていくことが、齢を重ねていくことに繋がるわけだから。前ね、「死」とはどういうことなのか分からなくなって、よくお蕎麦屋さんで会う住職さんに聞いたんです。そうしたら「生きることですね」と言われて、「そうか」と。なんだか肩の荷が下りた気がしたのと同時に、今の時間を大事にしなきゃいけないと思ったんです。木村さんが言うように、今、あちこちで戦争が起きてしまっている。人が人を殺すって、おかしくない? それに対して何ができるか分からないけど、自分の考えとして整理しておかなければと思うんです。そんな戦後80年の年に、私はこの作品に出演させていただき、木村さんと会い、スタッフの方々とまた1つ新しい山を登れたのは齢を重ねてきたから。自分と気持ちが通じ合う人たちと仕事をしていくことは、齢を重ねるうえで大切にしたいことだと思っています。
木村 齢を重ねるとは……、難しいですね。問われないと考えてないというか。でも先日、全くそんなことを考えてなさそうな同世代のやつから「俺たち海に入れる夏は、たぶんあと20回だぜ」と言われて、そんな冷静な見方があるのかと思ったことを思い出しました。そんなことを言う彼のギャップに惹かれたし、彼の中にあるセンシティブな部分を垣間見ることができてよかったんだけど、普段自分がそういう目線を持てているかといえば微妙ですね。

でも仕事でいろいろなジェネレーションの方とご一緒する機会があり、その方たちが重ねてきた時間にフォーカスすると、時間が作り上げた重要なことやルールの本質が見えてくるわけですよ。でも今は、本質や前提抜きで、「これは言わないで」「連絡先の交換はダメ」「人の名前はちゃん付けで呼ばないで」なんて、結論だけが共有される。それを聞いた山田監督は「映画って、そういうもんじゃないんだよ」と怒ったらしいですけどね。「新しいルールなのでこれでよろしく」と通達されるのは、僕らの過ごしてきた時間がなかったことにされたようで理解に苦しむところです。自分が齢を重ねたことによって感じるズレかもしれませんが。映画作りという山に登るとき、俺は持っている荷物が重そうであれば「いくらでも手伝うぜ」と思うけど、「いや、これは僕の仕事なので」と言われてしまう。もっと楽しいし、熱くなれるし、踏ん張るときは一緒に踏ん張りたい。でも「それ、ハラスメントかも」となる。ジレンマを感じます。

倍賞 「TOKYOタクシー」は、いろいろなことを考えさせてくれる映画。「これだけは映画館で見て」と言いたい作品があるけど、特にこれはそうだと思う。私たちの若い頃は、働き方改革なんてなかったから深夜まで撮影していることもあったけど、もしかすると、ものづくりって時間では区切れないものなのかも。いい意味でも、悪い意味でもね。映画は特にそう。なぜなら太陽と勝負しているわけだから(笑)。「TOKYOタクシー」は、ルールを守って撮っているけど、心意気は昔ながらの熱さを失っていないように思います。

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