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「旅と日々」あらすじ・概要・評論まとめ ~三宅作品に息づく、つげ義春の精神~【おすすめの注目映画】

2025年11月6日 07:30

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「旅と日々」
「旅と日々」
(C)2025「旅と日々」製作委員会

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!

本記事では、「旅と日々」(2025年11月7日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。


画像2(C)2025「旅と日々」製作委員会
【「旅と日々」あらすじ・概要】

夜明けのすべて」「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱が監督・脚本を手がけ、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に撮りあげたドラマ。「怪しい彼女」「新聞記者」のシム・ウンギョンを主演に迎え、行き詰まった脚本家が旅先での出会いをきっかけに人生と向き合っていく様子を、三宅監督ならではの繊細なストーリーテリングと独特の空気感で描き出す。

強い日差しが降り注ぐ夏の海。浜辺にひとりたたずんでいた夏男は、影のある女・渚と出会い、ふたりは何を語るでもなく散策する。翌日、再び浜辺で会った夏男と渚は、台風が接近し大雨が降りしきるなか、海で泳ぐのだった……。とある大学の授業で、つげ義春の漫画を原作に李が脚本を書いた映画を上映している。上映後、質疑応答で学生から映画の感想を問われた李は、自分には才能がないと思ったと答える。冬になり、李はひょんなことから雪に覆われた山奥を訪れ、おんぼろ宿にたどり着く。宿の主人・べん造はやる気がなく、暖房もまともな食事もない。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出す。

脚本家の李をシム・ウンギョン、宿の主人・べん造を堤真一が演じ、河合優実髙田万作佐野史郎が共演。スイス・ロカルノで開催された第78回ロカルノ国際映画祭のインターナショナルコンペティション部門に出品され、日本映画としては18年ぶりとなる最高賞の金豹賞を受賞した。


【「旅と日々」評論】
●三宅作品に息づく、つげ義春の精神(執筆:尾﨑一男)
画像3(C)2025「旅と日々」製作委員会

評論家とオーディエンスの双方から高い評価を得た「ケイコ 目を澄ませて」(2022)と「夜明けのすべて」(2024)を経て、三宅唱監督はいよいよキャリアの円熟期に差しかかってきた印象を受ける。そんな彼がここへきて、コミック原作の実写化に挑むというのだから静観していられない。しかもその原作者が、日本マンガ史を象徴するつげ義春ときた。これだけで、監督名よりも「つげ義春作品の映画化」という看板が先立つのは否めない。なにより、対象となるのが古典として評価の定まった名編だけに、「成功して当然、失敗すれば監督の責任」というリスキーな賭けに、今の三宅が本当に乗るのかどうか……。

そんな懸念は、先例のない原作調理術によって打ち消された。脚本も自ら手がけた三宅は、原作を忠実に再現するのではなく、「つげ義春を映画化した脚本家」が、つげマンガ的なドラマの韻を踏んでいくという、きわめて実験的でハイコンセプトな構成を打ち出している。

画像4(C)2025「旅と日々」製作委員会

自身が脚本を手がけた映画「海辺の叙景」のティーチインで、創作の壁に直面する脚本家・李(シム・ウンギョン)。彼女はある日、世話になった大学教授(佐野史郎)の勧めで旅に出るが、飛び込みでホテルに泊まれず、やむなく偏屈な主人・べんさん(堤真一)が営む宿に身を寄せることになる。

このように、女性が自己を見つめ直し再生する物語は、先に挙げた三宅の二作の系譜に連なる「女性映画」としても位置づけられるだろう。いっぽうで本作は、つげ義春作品に特徴的な浮遊感や旅情性をしっかりと継承し、原作ものとしての均衡を保っている。とりわけ、李が答えを求めて異郷をさまよい、奇妙な人々との出会いを経て何かを掴んでいく展開は、「ほんやら洞のべんさん」を下敷きにしつつも、つげが同時期に手がけたシュールな異色作「ねじ式」の変奏ともいえる。主人公の名「李」は「李さん一家」からの引用と思われるなど、随所につげマンガへの目配せを覚える。

画像5(C)2025「旅と日々」製作委員会

また、入れ子として機能する劇中作「海辺の叙景」そのものが、つげ義春原作の実写化としてきわめて理想的な完成度に達している。とりわけヒロインを演じた河合優実の存在感――主人公の内面を静かに映し出す鏡のような佇まいは、つげマンガの本質を見事に体現しており、じつに興味深い。彼女を通して「紅い花」の少女や「ゲンセンカン主人」の女中にも通じる気配が浮かぶのだから、その演技はただものではない。劇中で佐野史郎演じる教授も指摘していたが、河合の所作には、つげ作品に通底する官能と寂寞が静かににじむ。

執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)

X(Twitter)

映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter:@dolly_ozaki


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