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【第50回トロント国際映画祭】スタンディングオベーションの「国宝」など北米プレミア作に熱視線 ますます高まる日本映画の存在感

2025年9月15日 08:00

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「国宝」上映後Q&Aに応じた李相日監督
「国宝」上映後Q&Aに応じた李相日監督
(トロント国際映画祭 公式上映)

第50回トロント国際映画祭では、前年比の2倍以上となる計12本の日本映画及び日本関連作品が上映され、改めて本映画祭が日本映画の存在感を世界に示す重要な場であることが浮き彫りとなった。本記事では、そうした作品の北米プレミアの模様を厳選してレポートする。

■「国宝
熱気あふれる会場
熱気あふれる会場

李相日監督「国宝」の北米プレミアは、9月11日(現地時間)よりRoyal Alexandra Theatreで開催され、多くの観客が詰めかけた。上映開始前には李監督が登壇し、観客に向けて挨拶を行った。李監督は、2023年冬に「Pachinko パチンコ」シーズン2(李は14話から16話を監督)の撮影のためトロントに長期滞在した経験について、また現地クルーとの協働作業が「国宝」の撮影にも生かされていると述べ、その経験を反映させた作品がトロント国際映画祭に招待されたことに喜びを表した。

今回の上映では、国際セールスを担当するフランスのピラミッド・インターナショナルが制作した国際版DCPが用いられ、英語字幕に加え、演目紹介の場面では海外の観客向けに簡潔な概要が挿入される仕様となっていた。上映中には随所で笑いが起こり、観客が物語世界を積極的に享受している様子がうかがえた。

観客がスタンディングオベーションで上映を祝福した後、李監督が再び登壇し、Q&Aが行われた。まず制作のコンセプトについて問われた李監督は、女形の伝記に触発され、「悪人」でもタッグを組んだ吉田修一との対話を通じて、吉田が歌舞伎を題材とした小説執筆に取り組んだ経緯が企画の原点になったと説明した。続いて制作における困難と発見については、歌舞伎俳優ではない役者が歌舞伎を演じることの難しさを挙げつつ、その一方で、俳優たちがドラマを演じる中で歌舞伎と物語がシームレスに結びついていくことが大きな収穫であったと述べた。

キャスティングについては、吉沢亮が持つ「目」の存在感が唯一無二であり、対照的に横浜流星の持つエネルギーに満ちた姿が相互に響き合い、強い化学反応を生み出したと語った。また、溝口健二の「残菊物語」(1937)との関連を問われると、溝口以降、歌舞伎映画がほとんど作られてこなかったことに触れつつ、チェン・カイコーの「さらば、わが愛 覇王別姫」からの影響を語った。最後に興行的な成功については、歌舞伎映画が商業的に成立しにくいと見なされる既存の映画界にあって、本作は制作費をかけた挑戦的な長尺作品であり、その成功は大きな喜びであると語り、会場を沸かせた。

「果てしなきスカーレット」
「果てしなきスカーレット」
(C)2025 スタジオ地図

細田守監督の新作「果てしなきスカーレット」は、9月10日夜(現地時間)に北米プレミアが行われ、多くのファンが詰めかけて細田監督の来場を歓迎した。翌11日には、500席規模を誇る大スクリーンで二度目の上映が行われ、こちらにも数多くの観客が足を運んだ。特にこの上映は、会場の中でも音響環境に優れた劇場で行われたことから、映画そのものが一層の力を発揮する瞬間を肌で感じることができた。

本作は、殺された父の復讐に駆られる少女スカーレット(声:芦田愛菜)が死者の国を彷徨い、看護師の男・聖(声:岡田将生)と出会う中で生の意味を見出そうとする内容であるが、これまでの細田作品以上に、映像や音響をはじめとする多様な側面で野心的な演出を堪能できる作品となっており、映像の情報量を極限まで削ぎ落とすことで、画面は一層研ぎ澄まされ、俳優の演技と響き合う簡素さの中に独特の強度を宿している。

物語の展開が時に突拍子もない飛躍を見せる点も、むしろ説話的な豊かさを引き寄せる形で美学として転化されている。その極まりに、前作を超えるほどの創造力が感じられる。そして大スクリーンと精緻な音響環境で体験するとき、この美学はさらに強度を増し、観客の感覚に直接的に迫ってくるに違いない。

「遠い山なみの光」
「遠い山なみの光」
(C)2025 A Pale View of Hills Film Partners

石川慶監督「遠い山なみの光」はスペシャル・プレゼンテーション部門に選出され、筆者は9月4日(現地時間)に行われた、プレスと映像関係者向けのP&I上映を鑑賞した。夜間の開始にもかかわらず多くの人々が足を運んでおり、劇中での原爆投下による後遺症(原爆症)への言及や、女性への抑圧、戦争が人々にもたらす傷跡と暴力の残滓に、驚きを隠せない観客の姿が確認できた。さらに本作品では、通常の上映であれば必ずといってよいほど観客の間に笑いが生まれる瞬間が、一度も訪れなかった。また、エンドロールに入ると自然に起こるはずの拍手も、この上映では生じなかった。観客が単に拍手をしなかったのではなく、むしろ容易に拍手することをためらい、言葉や音に置き換えることのできない感情を抱え込む必要があったからだと解される。この静寂は、石川監督の誠実な演出に対する観客の応答として位置づけられよう。

「レンタル・ファミリー」
「レンタル・ファミリー」
(C)2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

レンタル・ファミリー」は、「37セカンズ」(2019)のHIKARI(光)監督が、アカデミー賞俳優ブレンダン・フレイザーを主演に迎え、6年ぶりに放つ新作だ。米サーチライト・ピクチャーズ製作、日本でロケが行われた本作はトロント国際映画祭で9月6日にワールド・プレミア上映され、13日までに実施された5回の上映がすべて満席となるなど、多くの観客の注目を集めた。最終上映となった13日も、21時30分からの開始にもかかわらず、500人収容規模の映画館が満員となった。

フレイザーが演じるのは、日本に移住して7年が経ちながらも、人気の伸び悩みに苦しむ俳優フィリップ。彼はある仕事をきっかけに、シンジ(平岳大)が経営する会社「レンタル・ファミリー」のエージェントとしてスカウトされる。新郎、父親、ジャーナリストといった役柄を演じ分けながら人々と交流し、「日本的」なものへと接続していく姿が描かれる。

西洋から見た理想化された日本像というクリシェに陥る危険性を引き受けつつも、あくまで対等な関係としてのコミュニケーションがもたらす空間を演出しようと努めている。その支えとなっているのが、フレイザー演じるフィリップと同様の立場を経験してきた平岳大の存在である。アメリカに単身渡り俳優活動を行ってきた彼の演技は、本作を地に足のついたものとして位置付けている。本作は、異文化の摩擦や誤解を軽やかに乗り越え、そこに新たな関係性を見出そうとする映画である。

フレイザーとレンタル・ファミリーが築く関係性は、単なる「西洋と日本」という二項対立を美学的に超え、観客に「私たちはいかに他者と関わり、共同体をつくりうるのか」という問いを投げかける。トロントの観客の熱気が示すように、「レンタル・ファミリー」は国境を越えて共有されうる物語であり、HIKARI監督の次なる飛躍を予感させる一作となっていた。

■追悼・実験

実験映画・アート映画の現在を紹介するWavelength(波長)部門の短編プログラムの中では、今年4月に逝去した西川智也監督の追悼上映が行われた。西川監督は、アメリカを拠点に活動した実験映画作家であり、研究者、さらには恵比寿映像祭やアナーバー映画祭のキュレーションにも携わったキュレーターとしても精力的に活動してきた人物である。映画作家として、数々の作品がトロント国際映画祭で紹介されてきた。

今回実施された「Ten Mornings Ten Evenings and One Horizon」の16ミリフィルム上映は、西川監督の広範囲に当たる映画作業に対する最大のオマージュであり、上映前にはその功績が振り返られ、会場全体に追悼の雰囲気が漂っていた。また同部門では、斉藤英理監督が、インスタレーション作品を見事に拡張した短編映画「わずかな見せかけ」も上映され、日本の実験映画活動が世界で高い評価を得ていることが示された。(小城大知

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