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映画の中の着物と着こなし 「国宝」吉沢亮、任侠映画のアウトローなセンス、「秋津温泉」の世俗感ない美しさ【湯山玲子コラム】

2025年8月8日 19:00

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画像1(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

「映画のファッションはとーっても饒舌」という湯山玲子さん。おしゃれか否かだけではなく、映画の衣装から登場人物のキャラクター設定や時代背景、そしてそのセンスの源泉を深掘りするコラムです。


興行収入100億円もほぼ確定、日本映画史の中で、未曾有の大ヒットを更新中の映画「国宝」。かつて、大量宣伝とメディアミックスの力業で映画館を一杯にした角川映画を覚えている身にとっては、アニメでもなく、題材も歌舞伎という古典芸能という地味テイスト作品がほとんど口コミで広がっていったこの成果は、まさにSNS時代に立ち上がってきている「スターが出ていなくても、リアルに面白い欲求志向」の現れだろう。

画像2(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

歌舞伎はこの映画によって、確実に大衆の心をつかんだが、映画内でほとんど日常着のように登場人物が着こなしている着物についてはどうなのか? いやいや、すでに着物はヤフオクなどでの手に入りやすさと、インバウンド時代に確立した「日本文化って凄い!」モードの風を受け、すでにブームになっている。さすがに会社員が通勤に着物を着ていくような、日常化こそ果たしていないが、町中で着物姿を見かける率は、男性も含め以前よりもずっと多い。

▼着物姿が美しい吉沢亮市川雷蔵の共通点

国宝」では、吉沢亮が1年半かけて、日本舞踊の「重力を感じる所作」を習得したことにより、着物姿もキマっていた。ちなみに、映画においての男性の着物姿の美しさトップクラスは、何と言っても市川雷蔵であり、彼の路地を歩き去る足さばきの美しさは、映画「ぼんち」などで堪能できるが、吉沢の動きからもその風情が立ち上っていた。ちなみに、雷蔵も吉沢も胸板は厚くなく、ザッツ日本人体型。ちょっと猫背な身体を、着物というものは見事に着映えさせてくれる。

「喧嘩鴛鴦」の市川雷蔵
「喧嘩鴛鴦」の市川雷蔵
(C)KADOKAWA

さて、男の着物姿と言えば、時代劇はさておいて、男らしさを暴力、反社方面から描く任侠映画にその美学のひとつがかいま見られる。舞台のほとんどは戦後の動乱期であり、物資の欠乏の中、洋服と着物が混在していた時代の着物の着こなしは、ストリート感があり、今のアウトローたちのセンスに近いモノがあるのだ。そんなわけで今回は、着物姿が印象的な名作映画を、かいつまんで紹介していこう。

▼オスとしての色気を醸し出す映画の任侠たちの着こなし

人生劇場 飛車角」は、尾崎士郎原作を映画化した任侠映画第1作であり、飛車角とは主人公の通称で演じるのは鶴田浩二。この大ヒットが、東映の後の10年の任侠映画路線を決定づけた。

映画の任侠たちは、肌の上に直接着物を着る素袷(あわせ)というスタイル。こちらは、江戸時代からやくざ物、粋筋、粋がった若衆が好んだ着こなしであり、襟元は常に開き気味で、そこに胸割りの刺青を見せつけることで、相手を威嚇するのに効果絶大。と、このチラリズムは、現代のヤカラ連中が、シャツのボタンを開けて、ゴールドチェーンを見せつけるのと同じセンスに通じ、喉仏から胸板への肌見せは、オスとしての色気を醸し出すということになる。

「人生劇場 飛車角」
「人生劇場 飛車角」
(C)東映

裾をからげると下には白のステテコを履いていて、そうなると着物自体が動きとともに翻るガウンやコートのような役割になり、それはまるでヤンキーの長ランや、ヒップホップギャングスターにおけるロングコートとジャージの組み合わせのようだ。ちなみに、映画では着物の裾の長さは短めだが(そうじゃなければ、戦闘不可能)、江戸時代での色男、つまり軟派アウトローは裾を引きずり、雪駄履きでずるつかせて歩いたそう。平安時代にも「袴垂」といって袴をヒップハンガーにしたスタイルが無頼者の間で流行ったらしく、そういったセンスは昔も今も一緒なのが面白いところ。

▼江戸の粋筋の伝統を継承した、岩下志麻の極妻センス

さて、その流れから女性の着物アウトロー篇を語るとすれば、その代表格が「極道の妻たち」だ。シリーズ化もされ、制作側の目論見通り女性客の動員に成功した本作は、家田荘子原作、愛する夫を組同士の抗争や内部の謀略で失った「極妻」が自らの手で仇を取るという復讐劇だ。

「極道の妻たち」
「極道の妻たち」
(C)東映

岩下志麻演じる主人公、極妻のクールビューティーな存在感のもと、その着物の着こなしは、晴れ着とされる、結婚式や式典に着ていく品格ある正統派着物ではなく、粋やセクシーというダークサイド面が思いっきり強調されているのが特徴だ。前述の任侠着こなしと同様、Vネックの空きは深く、そこにプチダイヤのネックレスを忍ばせ、後ろの襟元は思いっきり抜いてうなじを見せつけるという、セクシー度満点スタイルである。

冒頭「懲役やもめの会」を部下の極妻たちと開く主人公姐は、なんと白装束に赤銅色の帯姿。こういうハードな飲み会の席にあえて白を着るというのは、「たとえ、赤ワインをこぼされて着物がダメになっても問題なし!」という大物ならではの意思表示。本家の大姐さんも含めて、薄い青緑みの灰色つまり、深川鼠系のダークカラーが多いが、これはかつて江戸「深川」のいなせな若衆や、華美を嫌い、渋さを好んだ芸妓衆が愛用した色で、まさに極妻が継承すべき「粋筋」のセンスである。そのほか、縦縞も頻出するが、これもまた、男物をあえて着ることで気っ風をあらわした辰巳芸者が好んだ、粋筋のしつらえ。岩下志麻が60着から20着ほどを自身で選んだといい、役に没入するための装置としての着物選びに、江戸伝来の伝統がきちんと継承されているところが凄い。

▼セクシーな昭和の銀ママ着物ファッション
同じく着物が持つ、女らしさとセクシーさを最大限に生かしたプロの着こなしと言えば、銀座のクラブホステスが代表格だろう。その銀ママ着物ファッションが堪能できるのが、川口松太郎の世俗小説を映画化した「夜の蝶」だ。

舞妓上りのママが、京都スタイルを売りに銀座に殴りこみをかけ、東西の人気ママ同士が競い合うという設定は、叶精作の大ヒットマンガ「女帝」を彷彿させる女同士の好取組であり、主演ふたり、京マチ子山本富士子の着物姿は、帯のお太鼓の位置が高く、裾はさりげなく身体に沿わせて巻き込む言わばボディーコンシャス風。特に和製エリザベス・テイラーとも言われたグラマーな京マチ子は、あえて胸を着物用に扁平に潰さず、それでいてスッキリした着こなしを実現しているのに驚く。そう、洋服と違って、着物における巨乳は野暮ったく見えてしまう悩みどころなので、彼女の柄選びや着こなしは大変に参考になる。

着物の着こなしにも定評のあった京マチ子さん
着物の着こなしにも定評のあった京マチ子さん
(C)大映

アクセサリーは豪奢なイヤリングが登場するが、これは実は正式着物の着こなしルールとしては御法度で、某有名新派女優は、テレビでこの件にガッチリ反対意見を述べていた。セクシーといっても、極妻のように胸元の空きは深くはなく、着物は昭和モダニズムを感じさせる幾何学模様もあり、本当に今、私たちが着たい! と思わせるセンスがたっぷりと堪能できる作品なのだ。

市川崑細雪」で学ぶ着物のドレスコード

さて、この辺で正統派の着物も登場していただこう。関西モダニズムの風潮の中、旧家・蒔岡家の四姉妹をめぐる人間模様を描いた、典雅な谷崎潤一郎原作の映画化である「細雪」。何度も映画化されているが、やはり市川崑監督が、岸惠子佐久間良子吉永小百合古手川祐子というナイス配役に恵まれて完成させた1983年度版が、まさに「女の王国」と行った風情のまったりとした独特の美意識とリズムが色濃く唯一無比。着物愛好家の間では、4人で着飾って歌舞伎に出向くことを「細雪する」と称するらしいが、ドレスアップの着物、つまり晴れ着としての着物のまるでパリコレみたいな展覧が堪能できる作品なのだ。

市川崑監督の「細雪」
市川崑監督の「細雪」
(C)東宝

着物には、ドレスコードがついて回る。季節と柄の関係、仕立て方や布地による格付け、年齢、場所などのTPOなどなど。それらを自ら遵守し、そうでない者にダメ出しをする愛好家を、着物警察と揶揄する言葉があるが、この映画の四姉妹たちの、やれ、芝居だ、お見合いだ、お花見だという日常生活を見れば、ドレスコード的決め事の意味合いは、それがゆとりある生活の中の一種の遊びであり、ゲーム的な教養なのだ、という事が理解できる。

イベントの度に、姉妹たちは座敷に着物と帯をバーッと並べあれこれ言いながら、姉妹同士でコーディネイトしていく。その快楽&遊戯的な時間と空間こそが、女文化ならではの幸福の表徴。ドレス一枚で世界が完結してしまう欧米とは違い、色や柄の組み合わせで作品を創り上げるような着物の方が、際限が無いだけに奥深く、着る方にこそクリエイティヴが求められてしまう。着物にはマニアとも言える愛好家がたくさんいるが、それは着物の着こなしを、すでに人生を賭けた表現行為と見なしている感じがあるのです。

着物のヘアスタイルはショートやボブ以外は、結い上げたアップスタイル、少女や若い未婚女性ならば、お下げやサイドヘアをまとめたダウンスタイルが基本。そう、ロングのダウンスタイルは一般的には非常にポピュラーな髪型だが、着物にはふさわしくないとされている。しかし、とある映画の中に、非常にカッコ良く、またレアなロングヘアとのコーディネイトを見つけてしまった!

▼「秋津温泉」主人公の世俗感がない美しさ

映画「秋津温泉」は、岡田茉莉子映画出演100本記念として企画製作された、戦中戦後と岡山の山奥の温泉旅館の娘と、そこを訪れる男との17年間の悲恋の物語。ウェットな情感の塊のような林光の映画音楽も相まって、岡田が演じる主人公の娘の着物のコーディネイトが素晴らしすぎて、「田舎なのにいったい誰にそのおしゃれを見せつけるのか?!」というその世俗感が全くない美しさは、ダメ男を待ち続ける精霊のようにも思えて何やら、雪女や蛇女房などの民間伝承ともオーバーラッブしてしまう。

「秋津温泉」
「秋津温泉」
(C)1962松竹株式会社

彼女は隣家の温泉にもらい風呂をしていた後に、ダメ男と再会するのだが、そのときの出で立ちは、濃いえび茶色の単色着物に白の半幅帯、そして、白地に細いストライブが入った長羽織に黒草履というクールなしつらえ。そこに天然パーマっぽいロングヘアが組み合わさると、そこにはまるで、上村松園が謡曲「葵上」から着想を得たという名画「焰」のような情念が表出するのだ。

男の不義理に壊れていく主人公も、かつてはダメ男の命を救い、生きる勇気を与える元気いっぱいの若い娘だった。その時分の出で立ちは、いわゆる当時のファストファッション的普段着である紫の大柄銘仙とキリッとしたひっつめヘア。それが、男を待ち続けているうちに成熟とダークネスをまとう薄幸の女に変化していくのだが、その一方で着物の着こなしは必要以上に研ぎ澄まされていくという皮肉な様子は、着物文化の底知れ無さを感じさせてあまりある。「結婚相手はどんな人なの?」という主人公の問いに、「木綿のような女」と答える男。しかし、言うまでもなく主人公は、その着こなしの美意識が表すように「木綿のような女」としては生きられないタイプの女性だったのだ。

「秋津温泉」
「秋津温泉」
(C)1962松竹株式会社

ちなみに、半村良の短編「ながめせしまに」は、たぐいまれな美意識を備えた着巧者で、男を手玉にとって生きるが老いを拒否して服毒死する美貌の女性を巡る物語だが、その死に際して、懇意にしていた呉服屋の主人は「今よりもう少しお老けになれば、召していただくものはたくさんありましたのに……」という、そら恐ろしい言葉を吐く。

洋装一般の着道楽、ファッショニスタの方向とは違う、着物というニッポンの民族衣装。その底知れない魅力と着こなし、文化全般を学習体感できるのは、今や、映画こそが唯一のアーカイヴなのだ。日本ファーストと鼻を膨らませて言うムキは、「着物を着て歌舞伎や盆踊りに行く自分」なんぞで満足せずに、この生き方までをも巻き込むズブズブの着物沼に人生を賭けてハマる覚悟で挑んでほしいものです。

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