空前の日本ブームに沸くフランス 黒沢清監督、濱口竜介監督来場の上映イベント、「碁盤斬り」も「俳優陣が魅力的」と高評価【パリ発コラム】
2025年4月29日 15:00

いまフランスは、空前の日本ブームと言える。アニメ、マンガ、音楽、ファッション、現代アート、のみならず食や雑貨、ライフスタイルに至るまで。若者も年配層も、「日本にいつか絶対行ってみたい」、あるいは「日本に行ってすごく良かった」「温泉が大好きになった」など、とにかく日本ファンが増殖している。とりわけパリは和食屋(それも格式張ったものではなく、居酒屋、ラーメン屋、お好み焼き、おにぎり、和菓子専門店など)がどんどん増え、人気もうなぎ登りで、街が日本食に覆われていくのではないかと思えるほどだ。
こうした状況はもちろん、日本映画にとっても好都合である。とくに日本に興味はあるが遠くて行けない、という人々は、映画を観て日本のことを少しでも学びたいと思うらしく、邦画も定期的に公開され、注目されている。

3月から4月にかけては、日本映画がらみのイベントが話題を集めた。まずは毎年この季節にパリで開催されるドキュメンタリー映画祭「シネマ・ド・レエル」に濱口竜介監督が招聘され、酒井耕監督との共作による東北三部作、「なみのおと」(2011)、「なみのこえ」(気仙沼編、新地町編/2013)、「うたうひと」(2013)が上映された。濱口監督はさらに、自身が選ぶお気に入りの一本として相米慎二の「魚影の群れ」(1983)を紹介。また名画座でトークもおこなった。残念ながらわたしは立ち会えなかったのだが、満員御礼の盛況だったと聞く。
じつは濱口監督は現在パリで、フランスとの共同制作による次回作を準備中。内容的にはまだ明かされていないが、「ドライブ・マイ・カー」でアカデミー賞国際長編映画賞を制覇した彼だけに、業界の注目度はヒートアップしている。

昨年、フランス政府から仏芸術文化勲章オフィシエを授章された黒沢清監督は、地方都市ランスで4月1日から5日間にわたって催された、犯罪、スリラー映画専門の映画祭「ランス・ポラー」でオマージュを授与された。新作「Cloud クラウド」の劇場公開が控えることを記念したプレミア上映、さらに旧作6本も特集上映された。またパリでもマスタークラスを開催するとともに、ラジオ局フランス・クルチュールのインタビューに答え、「真に怖いものとは人間そのものではないか」という自論について解説。日本の知的ホラー映画を代表する巨匠として受け入れられていることを感じさせた。5月28日には短編「CHIME」も劇場リリースされることが決まっている。
一方、3月26日に公開された白石和彌監督の「碁盤斬り」も、公開1週目で6万人の動員を超えトップ10入りするなど、好調な出だしを見せた。3週間で動員は約12万人に及び、現在もロングラン中。ちなみに白石監督の作品がフランスで劇場公開されるのはこれが初めて。現代日本映画の時代劇もの(つまり黒澤明のような往年の巨匠による時代劇ではないもの)は、興行的には厳しいと言われてきただけに、快挙である。
配給会社のアートハウス・フィルムズが宣伝費を奮発して、あちこちにポスターを貼り出したということもあるかもしれないが、もちろんそれだけが勝因ではないだろう。先出の日本ブームに追い風を受けたところもあるかもしれないし、「SHOGUN」のワールドワイドな成功で、再び日本の時代劇に注目が集まっていたとも言える。批評家や一般観客の評価も良く、それが口コミで広まったところもあるにちがいない。

フランスの映画サイトAllocinéによれば、プレスの評価は5点満点中3.5、一般観客は3.8。「白石和彌監督は、抑制されコントロールされた素晴らしいトラベリングを用いながら、胸を鷲掴みにするような緊張感を生み出している」(映画雑誌ラ・セティエム・オブセッション)、「この時代を完璧に再現しながら、造形的に魅惑的、かつシネマスコープによる洗練された映像は、日本への素晴らしい旅に誘ってくれる。必見」(週刊誌ル・ポワン)、「俳優陣が魅力的。前半は碁のシーンが多くややスローに感じられるが、後半はみごとな演出による激しい殺陣により一挙に加速する」(日刊紙パリジャン)といった評価が見られた。
たしかに碁そのものは西洋の人々にとってポピュラーではないゆえ、プレイの妙は伝わりにくい、ということは理解できる。とはいえ、主演の草彅剛をはじめとするキャスト陣の魅力と緩急取り混ぜた緻密な演出で、クラシックな中に激しさを秘めた作品の面白さが伝わったようだ。(佐藤久理子)
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