クリス・サンダース監督「野生の島のロズ」で貫いた“原作映画化”の工夫 「となりのトトロ」どこが好きなのかも聞いてみた
2025年2月9日 13:00

第97回アカデミー賞の長編アニメ映画賞、作曲賞(クリス・バワーズ)、音響賞の3部門にノミネートされている「野生の島のロズ」(2月7日全国公開)。ドリームワークス・アニメーションの最新作となる本作で描かれるのは、野生の島で起動した最新型アシスト・ロボットのロズにひょんなことから愛情が生まれ、動物たちと共生し、島の危機を乗り越えていく――という感動のストーリーだ。
監督・脚本を担当したのは、「リロ&スティッチ」や「ヒックとドラゴン」などを手掛けたクリス・サンダース。映画.comは、日本公開を記念して来日したサンダース監督にインタビューを敢行。本作の製作秘話や、宮﨑駿作品との“つながり”、「となりのトトロ」への“愛”を語ってもらった。(取材・文/映画.com編集部 岡田寛司)


お話をしているなかで、ピーターさんがこんなことを言ったんです。「本を執筆してる時は、ある種のガイドとなっている言葉がある」と。それは「親切な気持ちは、サバイバルスキルになり得る」というもの。なんて素敵な言葉なんだろうと思って、それをメモ書きしておいたんです。制作中は、その言葉を“北極星”(=目標、モットーの意味合い)にしていましたね。

今回は原作における精神、核の部分を保持したいと考えていました。そのために削らなければいけない部分というのがたくさんありましたね。

原作を初めて読んだ時から、その点は興味深い点だと思っていました。もともとの“原因”は、ロズが巣にぶつかってしまったことです。映画化に際しては、そこをぼやかすのではなく、むしろはっきりと書くことが重要でした。キラリは、そもそも同種族の中では体も小さく、生き長らえることが難しいタイプです。自然界の中での生存率はもともと低かったでしょう。
渡り鳥のリーダー・クビナガには、こう諭されます。「そういうこと(ロズが巣にぶつかったこと)があったからこそ、君は今生きていられる」と。そして、キラリ自身もロズと同様のことを繰り返してしまいます。彼が原因となって“犠牲”が生じてしまう。ある種の繰り返しが、この映画には存在しているんです。

子育て中は状況に応じて“自分”を変えていかなければなりませんし、困難が伴うこともありますよね。でも、人生を振り返った時に「(子どもだけではなく)自分自身も成長している」と実感できる瞬間が多いような気がしています。

(原作本を指し示しながら)ここにロボットのイラストが入っているんですよね。口があったり――この腕はちょっと“宮﨑さん”を思い出させるような。ヒューマノイド形で大きな頭がありますが、股間部分の形成するパーツはない。さまざまなディティールが足りない状態だったので、その部分を埋めなければなりませんでした。
ですから、自分も含め、まずはアーティストそれぞれが“自分なりのロズ”をデザインしてみようということになりました。そのなかでもHyun Huh(ヒョン・ホ)さんのデザインは、現在の形にかなり近いものでした。球体をうまく取り入れたデザインです。宮﨑監督の影響があったかどうかは聞いていないんですが、「影響があった」と言ったとしても、まったく驚くことはないでしょうね。それに時間が経過するにつれて、ボロボロになっていく感じが、すごく“宮﨑さん”っぽいですよね。
一番のこだわりは「口をとった」ことです。成功してるロボットの多くには、そんな特徴があると思っていました。たとえばR2-D2です。そしてC-3POには口はありますが、それ自体を使うことはありませんよね。「禁断の惑星」のロビー・ザ・ロボットもそうですし、それに「天空の城ラピュタ」のロボット兵も。例外として「アイアン・ジャイアント」がありますが、あれは“顎があるだけ”とも言えます。なので、今回は“口”をとり、アニメーターの方々にマイム(=身ぶり手ぶり)で表現できるようにしてもらうことにしました。

“宮﨑さん”の話が出たので――これを見てください。

(悩みに悩みに抜いた後)――2人の少女の視点を通じて、田舎に引っ越し、新しい家で暮らし始めて、ちょっと奇妙なことがいっぱい起きていく。奇妙な事象であったり、それが起きる順番も魅力的なんですが、何と言っても雨の中の“バス停のシーン”ですよね。ここが本当に素晴らしい。
あのシーンには、他の映画では見たことがないようなユニークなものを、時間をたっぷりととって描いています。トトロの登場の仕方も印象的で、サツキがメイを背負っているから、 最初は全身が見えないんですよね。指先だけが見えて、少しずつ全貌がわかっていきます。
この見せ方が、本当に効果的だったと思いますし、映画的構造としてこれを選んでいらっしゃるからこそ、そこには魔法が宿ったという風にも思うんです。キャラクター自体も素晴らしい描き方をされていますが、それだけではなく、カットの作り方やペースだったりにも素晴らしさを感じています。

ヴォントラは原作にはいない映画オリジナルキャラなので、名前を挙げていただいて非常に嬉しいです。
原作には、ロズを迎えに来る役目を負った怖くて大きなロボットがたくさんいるんですが、ヴォントラを出したきっかけは、会社を代表するようなロボットが必要かなと考えたことです。デザイン面に関しては、どこかロズを想起させるようなところを意識していますし、物語終盤に登場するキャラクターでもあるので、最初から細かく説明をしなくても“どんなキャラクターなのか”という点がすぐにわかるような仕掛けを施しています。

ロズは「なんだかハッピーそうだね?」と話しかけるですが、ヴォントラは「いや、これはプログラミングだから」と言いますよね。これは自分のターゲットの緊張をとくために、そう仕組まれている――そんなことを言うので、彼女がどんな目的を持ったロボットなのかがすぐにわかりますし、英語版で声を当ててくれたステファニー・スーも“ヴィラン”を楽しんで演じてくれていました。
アメリカでは、1幕、2幕、3幕仕立てで脚本を作ることが多いんですが、これまでの経験上、3幕に突入した段階では、観客も展開にちゃんとついてきてくれます。なので1幕目、2幕目に比べると、より大きな飛躍をしたとして問題がないという点は、ひとつの発見でもありました。
(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
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