永瀬正敏原案・主演「いきもののきろく」3月7日公開 原発事故後の世界で生きる男と女の“喪失と再生の物語”
2024年12月13日 17:00
東日本大震災を色濃く反映した世界で生きる男と女を描く物語。本作は、2013年「戦争と一人の女」の舞台挨拶で監督の井上淳一とシネマスコーレを訪れた永瀬が、支配人の木全純治から短編映画の監督依頼を受ける。それは、名作「泥の河」の舞台であり、名古屋市内を流れる中川運河という今はもう使われていない運河を舞台とした企画だった。永瀬は「出演はするが、監督は井上さんで」と答え、永瀬主演×井上監督での製作がその場で決定した。
2日後、井上のもとに永瀬から届いたプロットは、誰もいない廃墟のような街でひとり筏を作り続ける男の話だった。そこにひとりの女が訪れる――井上は永瀬のプロットに、東日本大震災後のイメージをプラスし、脚本を執筆。原発事故後の誰もいなくなった世界に取り残されたような男と女の話を作り上げた。そして、度重なる原爆実験による放射能の恐怖に怯えた三船敏郎がひとり孤独に狂っていく黒澤明監督の「生きものの記録」と同じタイトルをつけた。

井上は「黒澤は狂っているのは三船か、何も感じないお前らか、と観客に問うている。これは三船のその後の話だ」と同タイトルをつけた理由を語り、また、今年「箱男」を観た井上は「これは、『箱男』を作れなかった時代の、永瀬さんの『箱男』ではないか」とも述べている。
女を演じるのは、「福田村事件」のミズモトカナコ。当時、まだ京都造形大学の学生だったミズモトは永瀬相手に一歩も引けを取らない堂々たる演技を見せている。撮影は「極悪女王」の鍋島淳裕、プロデュースは木全純治。そして主題歌は、昨年死去した「頭脳警察」のPANTA。寺山修司と高取英による詩にPANTAが曲をつけた「時代はサーカスの象にのって」がせつなく流れる。

本作は2013年末に撮影されたが、当時は47分の短編を単独で上映する環境になく、翌14年にシネマスコーレのみで公開された。しかし、近年、「ルックバック」や黒沢清の「Chime」などのヒットにより状況が変化。24年、井上の師である若松孝二13回忌イベント上映での絶讃を受け、ついに全国公開となる。2025年3月7日からテアトル新宿ほか全国順次公開。
「いきもののきろく」は、11年前、名古屋にある中川運河という今はもう使われていない運河を文化的に再開発しようという助成金で作られた、小さなご当地映画です。助成金、ご当地映画――当時からそうやって量産される映画が日本映画の質を落としているんだと批判してきました。だから、自分がそういう映画を作るのに躊躇いがありました。しかし、永瀬正敏さんから送られてきたプロットを見て、驚きました。それは、どんな条件であれ、自分たちのやりたいものを作るという意志に裏打ちされた強固な物語でした。どんな条件であれ、自分たちの信じる映画を作り続けることが、結局は今の映画状況に一石を投じることになる。この映画はそう願って、作られました。しかし、47分の短篇はなかなか公開するすべがありませんでした。今年、師である若松孝二監督の十三回イベントで上映することになった時は不安でした。映画としての賞味期限が切れているのではないかと。幸いにも、それは杞憂でした。若松さんが言っていたように、映画に時効はありませんでした。それでも、まさかテアトル新宿で公開できるとは思ってみませんでした。今はただ、あの頃、永瀬さんや僕が思っていた祈りや、今なお思い続けている願いが一人でも多くの肩に届くことを願うのみです。
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