【世界の映画館めぐり】モロッコ・砂漠の街のハリウッド、アトラス・スタジオを訪問 近くには「グラディエーター」絶景ロケ地も
2024年11月26日 16:00
映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は番外編として、モロッコのサハラ砂漠の玄関口の町、ワルザザートの映画スタジオ、アトラス・スタジオ訪問をお送りします。
北アフリカのモロッコは、その雄大な自然やエキゾチックな街並みが世界の多くの人々を惹きつける観光国として知られており、昔から数々の映画の舞台となっています。前回の【世界の映画館めぐり】モロッコ・タンジェ編(https://eiga.com/news/20241017/16/)では、「シェルタリング・スカイ」などをご紹介しましたが、アトラス・スタジオはじめとした映画スタジオを擁するモロッコ中部の街ワルザザートでは、名作「アラビアのロレンス」をはじめ、他の国の設定で砂漠を舞台とした数多くの映画も撮影されています。
モロッコでは中世に建てられた、カスバと呼ばれる要塞型の集落建造物が有名です。乾いた赤茶色の大地と独特の様式が目を引く建物、その中に点在する緑のオアシスのコントラストが、砂漠にほど近い土地に息づく歴史のロマンを感じさせます。ワルザザート近郊に位置し、1987年に世界遺産に登録されたカスバであるアイト・ベン・ハドゥは、多くの映像作品に登場し、ただいま公開中の「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」の前作「グラディエーター」(2000)でもばっちり確認できます。
今回筆者が訪れたアトラス・スタジオは、公式HP(https://ouarzazatestudios.com/)によると、1983年にワルザザート市街地からおよそ3キロメートルの場所に建設された世界最大級の映画スタジオで、同スタジオで撮影された最初の作品は、マイケル・ダグラス、キャスリーン・ターナーらが出演した「ナイルの宝石」(1985)。その後、「007」シリーズ第15作「007 リビング・デイライツ」「ベン・ハー」「パッション」、そして近年のヒットシリーズ「プリズン・ブレイク」「ゲーム・オブ・スローンズ」など、200本以上の世界的に有名な映画やテレビシリーズが撮影されているそう。
とりわけ、1998年に同地で撮影された「グラディエーター」が大きな注目を集め、その後マーティン・スコセッシら著名な映画監督や世界的スターがワルザザートを訪れるようになります。また、スタジオがもたらした映画産業により、地域住民はエキストラ、セットデコレーター、通訳、スタントマンなどの新しい雇用機会を得るようになり、地域の繁栄に貢献していると書かれています。
今回の訪問のために筆者は、大都市マラケシュに前泊しました。アトラス・スタジオのあるワルザザートに行くには、標高4000メートル級のモロッコ最高峰を有するアトラス山脈という、大山脈を越えなければなりません。学生時代のバックパッカー旅で、2度越えているのですが、最初の2000年代前半は、若さと勢いでぼろぼろの乗り合いバスに乗車。急カーブもものともしない荒い運転と乗客がひしめき合う狭い車内で、猛烈な車酔いを経験した苦い思い出があります。その体験に懲り、2度目は語学が堪能な友人のおかげでマラケシュ市内の旅行代理店で観光タクシーを手配。こちらはバスより遥かに快適で、景観の良い場所で停めてもらって写真撮影するなど、良い思い出になりました。
さて、人生3度目のアトラス越え、しかも女ひとりでどうするか……と悩みましたが、20代の頃にはなかったスマホで検索すると、現在はバスがかなりきれいになって、ネット予約までできるようになっているとの情報を入手。スケジュールの都合でマラケシュの旅行代理店を巡る時間もなかったので、日本から持参した酔い止めを飲んでバス移動に挑みます。ハードな旅を覚悟していましたが、懸念していた空調設備も席の広さも問題なし、USB充電もできるという、日本の高速バスと遜色ないサービスで、乗務員の方も安全運転を心がけて下さり、車窓の景色を楽しみながら快適な移動ができました。
バスを降り、ワルザザート市内からタクシーでスタジオに向かいました。玄関口には巨大なエジプトのファラオやスフィンクス像が鎮座。入り口を進むと、ワーナー、ディズニーをはじめとした大手映画会社から、NETFLIXなど最近の配信プラットフォームまで、現在スタジオと取引のある世界の映像関連会社の社名の手描きプレートがずらり。その後ろに、広大な土地に建てられたさまざまなセットや大道具が見え、心が躍ります。
入場料は80モロッコディルハム(約1230円)。スタジオガイドが同行してのツアーが基本のようで、お客が数人揃うまでしばし待ちます。待合所を兼ねる受付では、ドリンクやグッズなどの売店がありました。
この日のガイドさんはモロッコ人の若い男性でした。ツアー参加者の国籍を確認すると、彼の母国語はアラビア語でしょうが、ツアー中はずっとフランス語と英語で説明してくださいました。日本人の私、香港から来たお客にはそれぞれ日本語、中国語でのあいさつも。モロッコは、いたるところでマルチリンガルな方々が活躍していて、本当に驚かされます。
実際にハリウッド映画で使われた数々のセットは圧巻の迫力で、テーマパークを訪れたような楽しさです。スタジオ内にはレンガ造りの建物、藁葺き屋根の風景などを復元したセットがあり、エジプトファラオの時代や古代ローマなど紀元前の歴史物語、聖書にまつわる映画の多くも、ここモロッコで撮影されているのです。
ハリウッド大作が多いようですが、筆者はイタリアの鬼才、パゾリーニの「アポロンの地獄」を思い出しましたし、フランスのコメディ映画「ミッション・クレオパトラ」で「この浴槽でモニカ・ベルッチが沐浴しましたので、入ってみたい方はどうぞ……」などジョークを交えたガイドさんの軽妙なトークも楽しいものでした。
なにより驚いたのは、マーティン・スコセッシ監督が、ダライ・ラマ14世の半生にスポットを当てた「クンドゥン」(1997)が撮られていたこと。政治問題もあり、現地での撮影は難しかったことから、ここモロッコが選ばれたそうです。そのほかのセットがどんな映画やドラマで使われたかを、すべてここでご紹介するのは難しいので、写真やスタジオの公式動画でご確認ください。
セット内に配置された道具類やその構造も興味深く、落石シーンや戦闘シーンで使われるような巨岩はもちろん本物ではなく、ウレタンのようなものをコーティングして作られたフェイクですし、様々な時代の映像に対応できるよう、ギリシア時代、ローマ時代の建築用様式を両方備えた室内があったり、背景はCGで足せるので、リアルな部分はある程度あればよいこと、建物はカメラの動線を考えて建設されていることなどを目にすると、映画は撮影や編集で虚構の世界を作り上げる魔法のようなものだなあと、改めて感じました。
正味1時間弱でしょうか、大満足のスタジオツアーでした。モロッコの見どころはたくさんありますが、映画ファンには是非訪れてほしいスポットです。日程に余裕がある方は、ここワルザザートから出発する1泊2日のサハラ砂漠ツアーに参加するのもおススメです。
こぼれ話になりますが、アトラス・スタジオおよびタクシー、街のコンビニのような小さな商店でクレジットカードはほとんど使えませんし、現地通貨が引き出せるATMも多くはありません。筆者はスタジオに向かうタクシー運転手に、見学中待っているので往復でどうか? と提案されたものの、(当然ですが待ち時間込みで)片道の3倍の料金だったため手持ちの現金が少なく、断ってしまったのです。
スタジオから出ると、日本の田舎町と同様で流しの空車タクシーはほとんど走っていない状況でした。数分歩いたところで公共のバス停を見つけ、そこにいた地元の少年に市街地へ行くかと確認して待ちましたが、30分待ってもバスは来なかったので、歩きだすことに。そしておよそ2分後、歩道を私の歩く横を少年を乗せたバスが過ぎ去っていきました……。
持参していた薄手のストールを顔に巻き付け、砂漠気候の日差しの中を約1時間無心で歩き、ようやく街の中心地へ。日影のありがたさ、やっとのことで見つけた商店で買った冷えた飲料の美味しさが心身に沁み、期せずしてプチ「アラビアのロレンス」体験までできました。そして帰りの高速バスで無事マラケシュに到着。時間を節約したい方や初めての方は、早朝マラケシュ発でアトラス・スタジオ見学のほか、アイト・ベン・ハドゥ見学や昼食もインクルーシブの日帰りツアーを利用するのも良いと思います。
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