「現代中国映画祭2024」はどんな映画祭? どんな作品が観られる? 映画祭ディレクターが解説
2024年11月21日 19:00
世界中の映画祭を席巻し、本国内でもヒットを続ける中国映画の最前線を味わえる「現代中国映画祭2024」が、シネ・リーブル池袋にて11月22日~12月12日、テアトル梅田にて12月13日~12月26日に開催されます。本記事では、映画祭のディレクターでもあり、映画.comのコラム「どうなってるの?中国映画市場」も連載中の映画ジャーナリスト・徐昊辰氏が、同映画祭の特徴やラインナップを紹介していきます。
映画.comのコラムでは、ここ数年間ずっと中国映画市場、話題の中国映画などを中心に紹介しています。2010年代に入ってから、中国映画市場は急速に発展し、北米と肩を並べるほどの産業規模となっています。1本の作品が1000億円超の興行収入を叩き出し続けるだけでなく、興収500億円級の作品は、毎年数多く誕生しているような状況です。
たとえば、今年の年間興収トップ作品(暫定)は、日本映画「百円の恋」のリメイク作品「YOLO 百元の恋」です。この作品は、約700億円の興収を記録し、多くの中国人の観客をわかせました。このような産業的な成長と拡大の恩恵により、実はここ10数年、中国では才能あふれる若手監督も輩出されるようになっています。コラムで紹介したビー・ガン監督、グー・シャオガン監督など、彼らの作品はすでに日本でも上映され、大きな話題を呼びました。でも実は、彼ら以外にも世界各国の映画祭で若手監督の作品が数多く入選されていて、毎年面白くて個性豊かな作品が生み出されています。
一方、日本では2010年代に入ってから、中国映画への注目度は少し下がったように思えます。劇場公開に結びつく中国映画の数はそんなに減ってはいなくても、話題になった作品はごくわずか。ここ10数年間で中国映画界に何が起こったのか――これがあまり紹介されていない状況が、少しもったいないなぁと思っていました。
私は普段映画ジャーナリストとして活動しながら、上海国際映画祭のプログラマーとして、毎年日本映画のセレクションも担当しています。毎年50本以上の日本映画が、上海国際映画祭で上映されて、ほとんどの上映回は満席。若い映画ファンを中心とした、日本映画に対する関心度の高さを感じています。それに対して、日本において、中国映画の“いま”の認知度は――やっぱり存在感は少し薄かったと感じています。そこで「現代中国映画祭」を開催しようと思い至ったんです。
では、どのような映画祭にするべきか――最初から明確に“作家映画”を紹介しつつ、日本でまだ紹介されていないメジャー系の話題作を上映したいと思いました。中国の観客が、どのような作品で盛り上がっているのかを、日本の皆さんにも見てほしいです。
まずは“作家映画”に関して。昨年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭と一緒に、近年の中国映画界における“最重要作品”「椒麻堂会」のジャパンプレミアを企画しました。3時間の長尺映画+平日午前の上映にも関わらず、多くの観客が来場し、トークイベントも盛り上がりました。映画というジャンルを超え、現代アート、ドキュメンタリー映像などの領域で幅広く活躍しているチュウ・ジョンジョンは、間違いなく現在の中国映画界で最も注目されている監督のひとりです。彼の作品は、以前中山大樹氏が主催した中国インディペンデント映画祭でも上映されましたが、今回は特集という形をとり、彼のフィルモグラフィの中で最も重要な3作品「マダム」「痴」「椒麻堂会」を「現代中国映画祭2024」の目玉作品として上映します。
日本ではまだあまり紹介されていない、世界各国の映画祭で評価された中国若手監督の作品も“Chinese New Wave”という部門で3本厳選しました。その中でも、第71回サン・セバスティアン国際映画祭に出品され、多くの中国映画評論家に“2023年ベスト中国映画”に選ばれたリャン・ミン監督の「鉄西区に生きる」は、最も注目すべきでしょう。停滞した中国東北地方に、悲しくて、虚しくて、それでも生きていきたい人々の美しさを完璧に捉えた本作は、日本初公開となります。
また、スー・チー主演、新鋭チン・シジョンが監督を務めた最新作「彼女」は、男尊女卑の厳しい社会環境の中で、一人の女性が戦っていく姿を描きます。こちらもお見逃しなく。さらに、第25回釜山国際映画祭で高評価を得て、今年9月のなら国際映画祭でも観客賞を受賞したツァイ・ジエ監督の「失った時間」も必見です。
メジャー系の話題作を中心とした“Chinese Now Hits”部門について。トニー・レオン&ワン・イーボー共演、奇才チェン・アル監督の新作「無名」は、「現代中国映画祭2024」の前夜祭作品として上映。そして、今年9月に中国国内で公開され、すぐ社会現象になり、レビューサイトDoubanでは驚異的高評価をキープしている「家出の決意」を、本映画祭のオープニング作品として上映します。この作品は、過去作がカンヌ国際映画祭監督週間にも出品されたことがある才女イン・リーチュエン監督がメガホンを取り、ベルリン国際映画祭・銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞したヨン・メイが主演しています。“中国映画史上最高の女性映画が誕生”など、絶賛の嵐が今でも続いているんです。
また、中国エンタメ作品の理想形と言われる「いいひと」も日本初公開。近年中国で最も注目されている映画人ダーポンは、本作の監督・脚本・主演を務めました。激動の中国社会に生きている普通の人々を焦点にしたこの作品は、社会問題をテーマにしつつ、個性豊かなキャラクターを登場させ、誰でも共感できる感動物語として作られました。昨年中国では約140億円の大ヒットも記録しました。
最後に、中国で三宅唱監督や西川美和監督の特集上映など、映画イベントを企画・運営する「playback」が厳選した近年話題の傑作中国映画6本を“「playback」Selection”として上映します。
グー・シャオガン監督「春江水暖 しゅんこうすいだん」、コン・ダーシャン監督の「宇宙探索編集部」、チウ・ション監督の「郊外の鳥たち」をはじめ、第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品「アートカレッジ 1994」、第25回上海国際映画祭コンペティション部門「金爵奨」最優秀アジア新人脚本賞受賞「船に乗って逝く」、第22回東京フィルメックスコンペティション部門出品「永安鎮の物語集」が披露されます。マクロ的な視点で、いまの中国映画界がどうなっているかも楽しめる部門と言えるでしょう。
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