【リバイバル上映中】核戦争の脅威を描く英国アニメ「風が吹くとき」森繁久彌、大島渚との日本語版収録秘話
2024年8月4日 11:00
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1986年に英国で製作され、翌87年に日本でも劇場公開されたアニメーション映画「風が吹くとき」の日本語吹き替え版が、8月2日から順次リバイバル上映されています。イギリスの片田舎で暮らす夫婦が世界戦争による核爆弾の被害にあう様子が、やわらかいタッチの絵で淡々と描かれる、核の脅威を強く訴える物語です。
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本作は、「スノーマン」で知られるレイモンド・ブリッグズによる原作「風が吹くとき」(あすなろ書房刊)を、第2次世界大戦中に日系人強制収容所に収容され、長崎に住む親戚を原爆で亡くした過去をもつ日系アメリカ人2世のジミー・T・ムラカミが監督。「戦場のメリー・クリスマス」で生まれたデビッド・ボウイとの友情から、日本語(吹き替え)版を大島渚監督が担当し、主人公の夫婦ジムとヒルダの声を森繁久彌と加藤治子が演じています。
同じく8月2日からアンコール上映中の「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督は同作を幼少期に見たことを海外誌で語り、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは今回のリバイバル上映にあたって、87年の日本公開時に「月刊アニメージュ」で大特集したことをコメントしています。
映画.comが運営するアニメ情報サイト「アニメハック」では、劇場アニメ「AKIRA」、OVA「銀河英雄伝説」などの音響監督を務めたマジックカプセル代表の明田川進氏による聞き書きコラムを連載中です。「風が吹くとき」日本語版の日本語録音を担当した明田川氏が、大島監督、森繁氏らとの収録の思い出を語った回をご紹介します。
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1987年に公開されたイギリスのアニメーション映画「風が吹くとき」の日本語版(吹き替え版)で、僕は日本語録音を担当しました。世界戦争による核爆弾の被害をうけた夫婦のドラマを描いた作品で、日本語版では大島渚さんが監督、夫のジム役を森繁久彌さん、妻のヒルダ役を加藤治子さんが演じています。当時、核に関する関心が高まっていたこともあって、大々的に公開されて、かなり話題になりました。
僕に話がきたきっかけは、よく仕事をしていたアオイスタジオの安藤邦男さんからの紹介で、安藤さんもミキサーとして関わっています。日本語版では、大島渚さんの妹で大島渚プロダクションの社長でもある大島瑛子さんがプロデューサーとして立っていて、彼女と安藤さんが仕事仲間だったため、アニメーションだからアフレコで相談できる人は誰かいないかということで僕に声がかかったようです。まずは大島瑛子さんにお会いして、その後、大島渚さんと直接お話することになりました。
大島渚さんと会った時点で森繁さんの出演は決まっていて、森繁さんの収録をどう段取るのかとあわせて、相手役であるヒルダ役を誰にお願いしようかという話になりました。加藤治子さんになったのは、森繁さんとラジオ番組で共演されていたからという話があったからだと記憶しています。加藤さんは収録前、「森繁さんのことは私がリードしますから大丈夫ですよ」みたいな話をされていましたが、実際の収録ではむしろ森繁さんがリードするかたちで積極的にやってくださいました。
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作品をご覧になった方はお分かりのとおり、この映画は夫のジムと妻のヒルダが全編しゃべっている作品です。電話の声で登場する息子のロン役は田中秀幸さん、世界戦争を告げるアナウンサー役はテレビ朝日アナウンサーの高井正憲さんが担当されていて、おふたりは別録りでした。森繁さんと加藤さんは一緒に録って、3日ぐらいかけたと思います。森繁さんはあんこが好物で、いつも大福か何かを僕らのぶんまで差し入れてくれました。最初は大島さんと森繁さんたちでじっくりと話してもらい、その後はほとんど森繁さんと加藤さんにお任せして、僕のほうではきっかけなどをきっちり見つつ、ときおり大島さんがブースの中に入ったり、僕のところにきたりして、要望を伝えるというかたちで進んでいきました。
森繁さんも加藤さんも声をつくるようなことはせず、ふだんおふたりが会話しているような感じでやってもらっています。ちょっとしたやりとりなどは、けっこうアドリブも多かったはずです。自然にやってもらうため、映像の口の動きにあわせることを気にしすぎないよう、「台本のセリフをきちっと言ってくれれば、細かいところはこちらで調整します」と事前にお伝えしていました。収録では森繁さんのペースを大事にして、それが良かったんじゃないかと思います。アニメのアフレコという感じは全然せず、苦労して録ったという感じもありませんでした。
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大島渚さんは仕事に厳しく、怒ると怖い方という印象をもっている方も多いと思いますが、この仕事をされているときはだいぶ優しい方になっていた印象です。森繁さんにとても丁寧に対応していて、森繁さんもすでに「白蛇伝」で声の仕事をしていたとはいえ、大島さんだから声優の仕事をやったという側面があったのでしょう。僕自身は、大島さんが松竹ヌーベルバーグの監督として活躍していた頃の作品群を楽しく見ていたので、ご一緒できてとてもうれしかったです。ご一緒する前、大島組がよくダビングをしていたスタジオには僕も一時期常駐していて、その地下のロビーで大島さんが殴りあいの大喧嘩をしているところを見てしまったこともあります(笑)。ものづくりのなかで自分の志向と違うことに関しては徹底的にやりあったみたいで、それこそ「愛のコリーダ」のような映画をつくる方ですからね。僕はあの作品を、当時サンリオで仕事をしていたアメリカで見たのをよく覚えています。
「風が吹くとき」はおかげさまで好評で、仕事が終わったあとに何度か大島さんに呼ばれて飲みにいくことがありました。大島さんなりのねぎらいの気持ちだったのだと思います。大島さんの事務所はテレビ朝日のすぐそばにあり、飲み会には大島瑛子さんや当時NTTに努めていた長男の方もいらっしゃっていました。その後も何かと気にかけてくださって、大島さんの還暦のお祝いを日比谷松本楼という老舗の洋食店でやったときにも呼んでいただきました。そのとき大島さんは、赤いちゃんちゃんこではなく、赤いブレザーを着ていました。
(C)Channel Four Television Corporation 2001
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