【インタビュー】草なぎ剛、高倉健さんに思い馳せ「碁盤斬り」で新境地
2024年5月16日 20:00
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俳優の草なぎ剛が、俊英・白石和彌監督が初めて手掛ける時代劇映画「碁盤斬り」に主演している。武士の誇りをかけた復讐を描く今作で、静かに佇む囲碁の達人・柳田格之進に息吹を注ぐなかで、観客はこれまでに観たことのない草なぎを目にすることになる。白石組でどう生きたのか、草なぎに話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
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今作は、「柳田格之進」という古典落語の演目をベースに、加藤正人がオリジナル脚本を執筆。別名として「柳田の堪忍袋」とも「基盤割」ともいわれる人情噺だ。
浪人・柳田格之進は、身に覚えのない罪をきせられたうえ妻も喪(うしな)い、故郷の彦根藩も追われたため娘のお絹(清原果耶)とともに貧乏長屋で暮らしているが、嗜んでいる囲碁にもその実直な人柄が表れ、噓偽りない勝負を心がけている。ある日、旧知の藩士から冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意。お絹は仇討ち決行のため自らが犠牲になる道を選ぶ……。
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武士の道理を貫き通そうとする格之進の生真面目な生き様を体現してみせた草なぎを見ているうち、かつて交流のあった故高倉健さんが今作を観たら喜ぶのでは……、という思いに駆られた。草なぎはかつて映画.comの取材に対し、健さんの出演作で好きなのは「冬の華」(1978)であると明かしている。健さん扮する加納秀次の静かに悲しみを抱えた男の姿は、格之進にも通ずるものがあった。草なぎは今作撮影時、健さんに思いを巡らせることはあったのだろうか。
「実は毎日、健さんのことを考えて撮影していました。京都・太秦の撮影所だったこともあって、健さんも若い頃にバンバン撮影されていたんだろうな……と思ったりしましたし。待ち時間も結構あったので、自然と健さんが僕の中に降りてきてくれていた気がします。寡黙な役だったので、健さんの佇まいから拾えるものがないかなとか、本当に常に健さんのことを考えて過ごしていましたね」
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朗らかに話す草なぎだが、本編中ではこれまで聞いたことのない草なぎの“声”に驚きを禁じ得なかった箇所が幾つかあった。筆者は「発声法を変えたのだろうか?」と勘繰ったほどだが……。
「確かに、最初に観たときに自分の声じゃないような気がしましたね。自分では意識して声を変えているつもりはないのですが、京都の撮影所がそうさせてくれたんですかね。今やれって言われても出来ないと思うし、不思議ですよね」
草なぎが今作の主演オファーを受けたのには、一にも二にも白石監督の存在がある。「僕は白石監督と仕事ができるのであれば、どんな作品でも良かったんです。久しぶりの時代劇だったし、白石監督も初めて時代劇を撮られるということだったので、そこに魅力を感じました」。だが、自らの役どころについて特に白石監督と意見を交わすこともなかったという。
「役に関しては、本当に何も話していないんです。衣装合わせの段階で、部屋の隅の方に簡易的な和室や襖みたいなものが作り込まれていて、本番の照明で写真を撮るんです。そんなの、初めての経験でした。そういう世界観を作って、僕のトーンを見てくれる。その時に役が入ってきたんです。その段階から演出が始まっているんですよね。役については話をしていないけれど、そういうところから監督はヒントをくれていたんです」
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また、草なぎにとって大きな原動力となったのは共演陣の存在に他ならない。半蔵松葉の大女将・お庚を演じた小泉今日子とは、フジテレビの連続ドラマ「まだ恋は始まらない」以来、実に29年ぶりの共演となった。
「僕が21歳だったんじゃないかな。音楽番組やバラエティでの共演はありましたが、お芝居をするのはほぼ30年ぶり。そういう時の流れもあって緊張しましたけど、今回の共演シーンは感動的でしたね。キョンキョンは現場で褒めてくれるし、若い頃からお世話になっているので、特別な気持ちがあるんです。お姉ちゃんというか、憧れの存在。若い頃の自分を思い出させてくれたり、色々な気持ちにさせてくれるんですよね。
今回は久しぶりに共演できて、キョンキョンに対して今までにない『好きだな』って気持ちが芽生えましたし、改めて緊張する初々しい自分を見つめることができました。ターニングポイントというか、自分の人生が新たに始まるような特別な思いになりました」
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さらに、格之進と因縁のある武士・柴田兵庫に扮した斎藤工は、文字通り「因縁の仲」だと明かす。
「ところどころで共演させてもらっているので、すごく意識しちゃうんです。若いのに大人っぽくて、悔しいなって感じることもあります。なんでいつもそんなにクールなんだよ……って(笑)。それが今回は敵役ってことで、絶対に負けたくないって気持ちになったりしてね。
僕の芝居の人生におけるポイントで、工くんと共演するシーンが多かったんです。『37歳で医者になった僕 ~研修医純情物語~』や『スペシャリスト』というドラマでも一緒だったんです。今作はほとんど順撮りだったので、『今日も会えないのか』『今日も会えないのか』と思いながら泥だらけになったりして(笑)。だから、(劇中で)会えた日には、『この野郎!』と思えて、すごく集中できたんです。それは、工くんだからこそじゃないかな」
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本編を観るにつけ、「正義感」というものが千差万別であることに意識を向けざるを得なくなる。最後に、聞いてみた。「草なぎさんにとっての正義感とは?」と。
「自分に嘘をつかないことじゃないですか。何に対しても、白黒はっきりつけることって難しいですよね。一概には言えないけれど、それでも最終的には自分の心に素直でいるということが、僕にとっての正義なのかなって思います」
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執筆者紹介
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大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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