平野啓一郎&大島育宙「オッペンハイマー」を熱弁!「原爆に対して僕たちが抱く疑問と非常にうまく重なっている」
2024年4月22日 15:00
第96回アカデミー賞(2024)の作品賞を含む最多7部門で受賞を果たした「オッペンハイマー」(公開中)の公開記念トークイベントが4月19日、新宿バルト9で行われ、平野啓一郎氏(小説家)、大島育宙氏(XXCLUB)が登壇した。
本作は、第二次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者J・ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を実話に基づいて描いた作品。クリストファー・ノーランが監督、脚本を務め、主演キリアン・マーフィのほか、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.らが出演。第96回アカデミー賞では、作品賞のほか、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の7部門でオスカーを獲得した。
「現時点での最高傑作かもしれない。史実に基づきつつ、過去作の様々な主題が緻密に、重層的に構成されている」とXに投稿した芥川賞受賞作家・平野氏と、日本公開前に「オッペンハイマー」を観るためオーストラリアを訪れ、「核実験の場面の恐怖と迫力だけでなく量子や宇宙のイメージと心理の過剰なカットバックは人間に興味が増してきたノーランの新境地」と語り、既に4回も鑑賞済みの大島氏。上映終了後、興奮冷めやらぬ観客から2人は盛大な拍手で迎えられた。幅広い年代層の男女に「オッペンハイマー」の鑑賞回数を尋ねると、初鑑賞が最多ながら、2回目、3回目でも手があがり、中には4回、5回目という猛者も。
映画の感想を問われた平野氏は「オッペンハイマー」は「現時点でのノーランの集大成。出世作の『メメント』以降、『バットマン』などで取り組んできた主題が作品のなかでトレースされている」と断言。
続いて大島氏は、このように指摘した。
原作も読み込んでいる平野氏と大島氏。原題の「アメリカン・プロメテウス」に触れると、平野氏は「ノーランはプロメテウスになぞらえるようなオッペンハイマー観を皮肉的な目線で見ている」と話すと、大島氏は「人間の生活に欠かせない火をもたらしたプロメテウスだが、原爆の開発をそれになぞらえるのは迂闊。そこにノーランが乗っかっているかいないかという視点は重要だがあまり語られていない」と応じた。
ノーランの全作品を観返したという平野氏。「2000年代は敵を悪魔化して戦争を正当化するような言説があったが、『ダークナイト』トリロジーなどを観ていると、ノーランはアメコミのヒーローを使って『悪との戦い』というものを非常にまじめに考えていた監督。どれだけダメな社会に見えてもそれを全滅させてはいけない。バットマンという超法規的な存在が悪と戦うが、最終的には、バットマンがいることでジョーカーのような存在が出てくるから、市民社会が自立的に対処しなければいけないという終わり。そういった『必要悪としての正義』の描き方がある意味でオッペンハイマーにも反映されている。その意味ではノーランはオッペンハイマーに対して懐疑的なところがあるのではという印象を受けました」とノーラン監督が描き続けてきたテーマに言及した。
イベントの結びには「もう一度観るとしたら注目ポイントはどこか?」という問いに対して、平野氏は「過去作を見ると、あの主題が『オッペンハイマー』に反映されているなという部分も多いので、特に『ダークナイト』トリロジーを観てからだと気が付くことが多いと思います」と強調する。
大島氏は「1回目の鑑賞では『なぜこんなに複雑に?』と感じられる方もいるかもしれないが、何度も観ると、丁寧なわかりやすい作り方であるということに気が付く作品。何度も観ることで時系列をシャッフルすることの意味がわかります。劇場でいろいろな形式で観ると感想が変わってくる作品かなと思います」と締めくくった。
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