マ・ドンソク×青木崇高、国境を越えた“兄弟”の絆【「犯罪都市 NO WAY OUT」インタビュー】
2024年2月23日 11:00
俳優のマ・ドンソクが、主演する人気シリーズ第3弾「犯罪都市 NO WAY OUT」を引っ提げ、このほど初来日を果たした。今作に最強ヴィランのひとりとして参加した青木崇高と再会を果たし、映画.comの取材に応じた。(取材・文/大塚史貴)
「宜しくお願いします!」と柔和な面持ちを浮かべながら、日本語で挨拶をして着席したマ・ドンソクは、「新感染 ファイナル・エクスプレス」で大ブレイクし、「エターナルズ」ではマーベルヒーローの一員となった韓国を代表する俳優だ。彼の代表作のひとつともいえる今作は、韓国では公開から約1カ月で前作「犯罪都市 THE ROUNDUP」に続き観客動員1000万人、興行収入100億円を突破。3作の累計動員が3000万人を突破したのは、韓国映画シリーズ初の快挙だという。
映画の舞台は、ベトナムでの凶悪犯一斉検挙から7年後。マフィアも恐れる“怪物刑事”マ・ソクト(マ・ドンソク)は、ソウル広域捜査隊に異動し、ある転落死事件を捜査していた。捜査を進めるうち、事件の背後に新種の合成麻薬と日本のヤクザが関わっているという情報を掴む。一方、麻薬を盗んだ構成員を処理するため、極悪非道な“ヤクザの解決屋”リキ(青木)が、一条親分(國村隼)の指示のもと密かにソウルへ送りこまれていた。さらに消えた麻薬の奪取を目論む“汚職刑事”チュ・ソンチョル(イ・ジュニョク)も加わり、事件は三つ巴の激戦に突入。2人の最強の敵を前に、マ・ソクト最大のピンチが訪れる。
今作の見どころとして、切れ味の良いアクションのほかに、随所にちりばめられた人間味あふれるユーモアが挙げられる。それが成功しているということは、撮影現場は良い緊張感のもと厚い信頼関係が構築されていたはずだ。マ・ドンソクは主演だけでなくプロデューサーとしての視点で作品を見つめている。
マ・ドンソク「私は韓国で、名誉警察に任命されていることもあって、実際の刑事やプロファイラーの方々とお会いし、事件の調査に加わったり話をうかがうことが出来る立場にあります。その中の幾つかの事件を組み合わせながら物語を作っていくのですが、サスペンスやスリルはもちろんですが毎回トーンを変えることに気を配っています。
1作目は暗くて強いイメージ、2作目はストーリーを拡張して見せることに腐心しました。そして3作目はこれまで以上に誰が見ても楽しめる娯楽性の部分を強調してみました。既に撮影を終えている4作目はベルリン国際映画祭に招待されていますが、これは重厚感のある作品に仕上げています。
私とイ・サンヨン監督、脚本家チームで80回ほど打ち合わせを重ね、台本を書き直しているんですね。韓国で取材を受ける際によく口にするのですが、この作品は私が骨身を削り、自分の全てを捧げている作品といえます。エンタメ作品ではありますが、作り続けるには深い考えと多くの悩みを伴うもので、シリーズものであれば尚更大変。いつだって前作を超えるものを、そして常に観てくださる方々に楽しんでいただけるものを、という気持ちで作っています」
この熱い思いに呼応するように、青木も撮影の日々を振り返る。
青木「韓国映画に参加するのは初めてだったのですが、信頼関係を構築できたことが本当に嬉しかったんです。言語も文化も違うけれど、映画を作る同士として、チームとして、最終的にファミリーとして迎え入れてくれました。撮影後も、舞台挨拶など映画を作った皆でお客さんに届け、喜んでもらうという一連の行為を共にできたことは自分の中でもかけがえのない時間でした。そしてこうやってまた、日本で再会できたことが何よりも嬉しいんです」
青木の言葉に手を合わせて謝意を示したマ・ドンソクは、青木と國村のキャスティングについても惜しげもなく経緯を披露してくれた。
マ・ドンソク「青木さんに関しては、彼が出演した『るろうに剣心』をはじめとする様々な映画やドラマを観て、関心を持っていました。アクションもさることながら、演技も素晴らしい。『犯罪都市』はリアリティが大事な作品なので、少しでもニセモノだと思われてしまってはいけないと常々考えていました。
本物の演技が出来て、アクションもできる人を……と探し始めた時に、以前から注目していた青木さんの作品を観直し、多様な表情を持つ俳優だと改めて思ったので、ぜひご一緒したいとお願いしました。青木さんは日本から、『るろうに剣心』のアクションチームの方々とアクションの動画を撮って送ってくださいました。今作では日本刀を使ったアクションがありますが、武士の使う日本刀ではなく、ファイターが使うようなアクションデザインにしようと考えていたので、大変参考になりました。
私には、『良い人たちが集まれば、必ず良いコンテンツができる』という確固たる哲学を持っているのですが、お会いしてみて人柄も素晴らしかったので、絶対に良いコミュニケーションが取れるだろうと思いました。撮影でも、リキとして最初に登場するシーンを撮ったとき、『何もしなくても大丈夫』とすぐに感じましたし、『これを撮れただけでこの作品は出来上がったも同然』だと思いました。それくらい素晴らしかったんです。一緒に撮れて嬉しかったですし、今では兄弟みたいな間柄になっています。これからもまた一緒に作品を撮りたいですし、良い作品があれば提案もしたい。ムネのことを本当に大事に思っているので、グローバルエージェントに紹介したりもしました。私にとって、本当に大切な弟のような存在なんです。
國村さんは、あれほど力を抜いてもカリスマ性を発揮できるということで、お芝居を見たときには私たちのあいだでは歓声があがるほどでした」
マ・ドンソクの確固たる哲学を体現
マ・ドンソクのファンだったという青木は、「カムサハムニダ」と韓国語で感謝を伝え、感無量の面持ち。だが、オファーを受けた段階で気持ちの切り替えは出来ていたようだ。
青木「オファーをいただいてからは、ファンという意識じゃダメだ。同じ作品を作るメンバーとして、気合を入れ直しました。お兄さんのオフィスにうかがわせていただき、今作のことや今後の展望、様々なプロジェクトについてお話いただきました。世界の第一線で俳優として活躍しながら、プロデューサー業もやられていることに感動もしましたし、現場に入ってみたら、お兄さんを中心にチームが出来上がっている。『良い人たちが集まれば、必ず良いコンテンツができる』という哲学を体現されていると思いました。
自分のことで言えば、あまり自分の状況を俯瞰して見ることはなかったかもしれません。韓国は現場で動きが変わることも多かったので、とにかく集中力を高めて現場に向かわないと…と思って。異なる文化のなかでやるということは、臨機応変に対応できるようにしておこうと集中していたんです。自分も、もちろんそれを楽しみにしていた部分もあるんですけどね。破竹の勢いで世界に受け入れられている韓国映画のエンタメど真ん中の作品でヴィランのひとりを演じられたことは、僕のキャリアの中でも特殊なものになるでしょうし、とても幸せな日々でした。
振り返ってみると、意外と不安がなかったんです。マさんも困ったことがあれば何でも言ってくれって気遣ってくれましたし、現場の通訳さんも監督の細かいニュアンスまで丁寧に説明してくれた。日本と同じというわけにはいかないけれど、製作サイドで相当気を回してくれたのだと思います」
日本人であれば、刀を使った役と聞けば時代劇の殺陣を容易に思い浮かべるはずだが、青木は韓国で異なる文化に触れることで、日本の殺陣の神髄に気づかされることがあったという。
青木「刀の振り方が全然違うんですよ。日本でいうところの殺陣をやってみせたら、そうじゃないと。良い悪いの話じゃなくて、そこの違いが面白かったんです。今回、僕は文化の違いを楽しもうと思って韓国映画の撮影に参加しているわけですから。今回のアクションは、相手をぶった切ることがメインでした。とにかく痛そうな、見ていて目を覆いたくなるようなアクションって考えると、確かにそうだよなと。
日本の殺陣は武士道から来ていたり、精神性を重んじる。そのうえで、闘いの中でいかに無駄をなくすのか。我々日本人は、アクションプラスαの美意識に繋がるものを見てきたんだな…ということを、外からの視点で気づかされました。
今回はあくまでも武器として、相手を殺すためのツールとして使うということだったので、脚本に刀を引きずって現れるというシーンがありました。そこに関しては、日本人にとって刀は自分の分身のようなものであり、丁寧に扱う描写があってもいいんじゃないかと監督に提案したら、面白がってくださって、使い終わった刀を紙で拭くという日本人でなければ思いつかないアイデアを採用してもらいました」
そして最後に、今や“兄”と慕うマ・ドンソクと時間を共にすることで得た学びについて聞いてみた。
青木「懐が深いですよね。色々な角度でものを見る方なんですが、観客の目線をとにかく大事にしているんです。演じられながら、このポイントではアドリブを挟もうとか、緊張感が高まったところでユーモアを入れたりとか、バランス感覚が絶妙で観客が何を求めているのかを瞬時にキャッチできる。そのうえ、人として素晴らしい方でしたから、思い切り向き合っていける感じでした。とにかく良いチームでしたね。マさん率いるチームは、大船に乗った気分になりますよ」
日本映画界で70本以上の出演経験のある青木が韓国の現場で体得したものを持ち帰り、日本の現場でどう生かしていくのかにも期待が寄せられる。と同時に、ボーダーレスな俳優として次はどこの国の現場で映画撮影に邁進するのか、そして“お兄さん”と呼ぶマ・ドンソクとどのような作品で再会を果たすのか、興味は尽きない。
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