松村北斗×上白石萌音「夜明けのすべて」は画期的な名作!「男女間に友情は成立するか」といった古典的な問いかけなどに「答え」を提示する【コラム/細野真宏の試写室日記】
2024年2月10日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
松村北斗と上白石萌音が共演した「夜明けのすべて」が、2月9日から公開されました。本作は、本屋大賞受賞作「そして、バトンは渡された」が映画化もされヒットした瀬尾まいこの同名小説を、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した作品です。
私が瀬尾まいこという作家を認知したのは、まさに「そして、バトンは渡された」の時でしたが、「夜明けのすべて」の題名には割と違和感を持っているのが本音です。
「夜明けのすべて」というタイトルは、どうにも言葉が広すぎてピンと来なく、かなりの確率で数か月後にはタイトルを忘れてしまうだろうと思っています。
そして、今回、過去作の小説のタイトルを調べてみたら、「そして、バトンは渡された」が例外的で、ほぼ今回と似たようなテイスト。もしかしたらタイトルの付け方で損をしているのかも……と感じました。
というのも、本作を見ると、かなり言葉の選び方や着想点が優れていたからです。
つまり、本作をタイトルの段階で避けてしまうのは非常に勿体なく、「必見の作品」とさえ言えると個人的には考えています。
W主演を務めたのは、2021年11月1日~2022年4月8日に放送された連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じていた松村北斗と上白石萌音。彼らの演技が見事すぎる程ハマっていて、作品に没入できる点も流石だなと感じます。
「PMS(月経前症候群)」のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)と、突然「パニック障害」を抱え、生きがいも気力も失っていた山添くん(松村北斗)。本作では、このような2人がどのような化学反応を生み出すのかが大きな見どころで、それぞれが障害を抱えながらも実社会の中で生きていく様を描いています。
例えば「発達障害」などは子供の世界では以前から認知されている状況でしたが、近年では「大人の発達障害」という言葉が出るようになってきています。
これは、単純に「医学の遅れ」の話に過ぎなくて、今の子供に限らず、“かつて子供であった大人”も全く同様だったわけです。
以前は、おかしな言動に対して、「この人は天然だから」といった言葉で簡単に済ませるだけで終わってしまったりしていたのです。
日本で何かしらの障害を持っている人は、国民の10人に1人はいる、という試算がありますが、現実にはもっと多いのかもしれません。
例えば、私はコミュニケーションにおいては問題はないと思っていますが、(本を書いたりしている人間が言うのもなんですが)活字が異常に苦手で、普通の本を一冊も読み通せたことがなかったりしています。
厳密に言うと、自分の本とマンガ本くらいしか最後まで読むことができません。
また、人の顔と名前を覚えるのが異常なくらいできなかったり、方向音痴も異常なレベルです。
つまり、一見するとまともに見えるような人においても、かなり発達障害の要素を多分に抱えているわけです。
本作においては、「PMS(月経前症候群)」や「パニック障害」のような、ある程度は認知されている障害が題材となっていますが、この2つの病状だけでも人によってかなり異なる症状があります。
一言で、「~症候群」や「~障害」というような言葉で表現しても、「うつ病」などと同様に、本当に千差万別なのです。
象徴的な「障害」の1つに「発達障害」がありますが、これも本当に多種多様で、私の知り合いにも、たとえるなら、月1でなく、毎日が「PMS(月経前症候群)」のような人もいます。
ただ、世間には、できるだけそれを隠して生きている人がほとんどなのも厄介な点です。
これは私の持論ですが、数学や経済などの一般的に難解とされている問題より、「人間関係こそがこの世で最も難しい問題だ」と考える所以はここにあります。
本作では、このような2人がどのような化学反応を生み出すのかが大きな見どころで、世間でよく話題になる「男女間に友情は成立するか」といった古典的な問いかけに対する根本的な「答え」を提示できたりもしています。
ちなみに私は、普段から男女を区別せず、分け隔てなく接しているので、「男女間に友情は成立するか」といった古典的な問いかけは、非常にバカバカしいと感じています。
もちろん本作の見どころはここだけでなく、宇宙の話なども相当に深いですし、様々な「覚えておきたい名言」が登場します。
例えば、医者が以下のような言葉を伝えます。
「簡単に手に入る情報は、声が大きい人のものばっかりだから、あまり鵜呑みにしないでほしいんだよね」
この重要性がどこまで理解されるのかは分かりませんが、これは物凄く重要なセリフです。
今回は文字数の関係で、普段は忙しくほぼ使っていない「X」にて、これの補足を書いておくことにしてみます。
前述の通り、本作は「ケイコ 目を澄ませて」で岸井ゆきのを日本アカデミー賞の「主演女優賞」に導いた三宅唱監督の作品です。
「ケイコ 目を澄ませて」を見た時は、今回の日本アカデミー賞で主演女優賞に輝くのは、まだ知名度は高くなくても「岸井ゆきのの一択だ」と強く感じましたが、それほどの作品でした。
ただ、ドキュメンタリー風な作品で音楽も使われていなかったりと、正直なところ、個人的には「何度も見たいと感じるような作品」ではありませんでした。
その一方で、「夜明けのすべて」は、ユーモアなども交えていて、音楽の使い方も上手く、しかも演出やセリフも精緻で、何度でも見たいと思える作品でした。
さて、最後に興行収入の話ですが、通常の映画では「興行収入10億円がヒットの目安」というのがあります。
ただ、これはあくまで1つの目安であって、制作費が高すぎる場合は、いくら興行収入10億円を突破しても大赤字になっているような作品もあるのが現実です。
しかも、2023年に劇場公開された作品は合計で1232本もあるのですが、興行収入が10億円を突破したのは、そのうち49本しかないという現実があるのです!
本作の場合は、製作費(制作費+P&A費)が3億円よりは少ないと想定され、興行収入だけで製作費を回収するのは興行収入7億円が目安になると思われます。
ただ、劇場公開後の2次利用もあるので、興行収入4億円は確実に突破したい堅実なビジネスモデルと想定されるので、まずは興行収入4億円を突破し、無事に7億円も突破できるように期待したいと思います!
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