【右肩上がりの大ヒット】「鬼太郎誕生」入村案内 ホラー・ミステリー映画ファンも楽しめる大人向けの水木しげるワールド
2023年12月8日 23:00
劇場アニメ「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」が、異例の興行で注目を集めています。12月8日時点で公開4週目に入った同作は、右肩上がりの興行収入を記録し続けているのです。
公開第2週の週末11月24~26日の3日間の興行収入は、初週(11月17~19日)対比で106%、第3週の12月1~3日は第2週比で112%。12月3日時点で興行収入8億円、累計動員数57万人を突破する大ヒットを記録。12月1日からは上映館を23館増やして、記録を伸ばし続けています。公開当初は都内の一部の映画館では週末を中心に満席が相次ぎ、パンフレットも早々に売り切れていましたが、パンフレットの再販も順次入荷しつつあるようです。
右肩上がりの興行は、なんといっても作品の面白さが口コミで広がっているのと、熱心なファンによるリピート鑑賞が増えていることが要因だと思われます。本作の主な舞台である哭倉村(なぐらむら)になぞらえて、SNSでは本作を鑑賞することを「入村する」と形容し、作中でバディを組んで活躍する鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)と水木のファンアートなども多く投稿されています。
評判を聞いて見にいこうか迷っている方に、ネタバレにならない範囲で「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の魅力と、同作をより楽しむために知っておきたい予備知識を“入村案内”します。
なお12月8日から、第2弾来場者特典としてキャラクターデザイン谷田部透湖氏による描き下ろしビジュアルカード(A6サイズ)が数量限定で配布中です。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、2018~20年に放送されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎(第6期)」をベースに、鬼太郎の父である目玉おやじの過去と鬼太郎の誕生にまつわるシリーズ原点の物語を描いた104分の長編作品です。
「ゲゲゲの鬼太郎(第6期)」は見ていないという方でもまったく問題ありません。幽霊族最後の生き残りで、黒と黄色の「霊毛ちゃんちゃんこ」や「リモコン下駄」を武器に、人間と妖怪の共存を目指して戦う鬼太郎。そんな彼を支える、父・目玉のおやじと猫の妖怪・ねこ娘、この3人を知っていれば十分です。
水木しげる氏の原作漫画はもちろん、これまで6度テレビアニメ化され、実写映画化もされている「ゲゲゲの鬼太郎」に一度は触れたことのある方は多いでしょう。「ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲー」からはじまる水木氏作詞によるアニメ版の主題歌が耳に残っている方も多いはずです。テレビアニメ第6期の雰囲気を感じていただくために、公式のオープニング映像(主題歌歌唱:氷川きよし)をご紹介します。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、企画段階から大人向けを意識して制作されました。子ども向けのテレビアニメ版とは明確に差別化し、レイティングはPG12(12歳未満の観覧には親または保護者の助言・指導が必要)。大人向けに振り切ったからこそ描けたであろうショッキングな描写やドロドロした人間ドラマ、一度見ただけではすべてが把握しきれないぐらいの情報量と見どころは多く、ふだんアニメを見ない方にもぜひ見ていただきたい1作です。
血液銀行に勤務する水木、「目玉のおやじ」になる前の若い頃の鬼太郎の父は、それぞれの目的のため哭倉村を訪れます。日本の政財界を牛耳る強力な権力をもつ龍賀家の本家がある哭倉村は、よそ者を嫌う排他的な村で、2人は招かれざる客として忌み嫌われるなか、龍賀家で連続殺人事件が発生。村は外部から孤立してしまいます。
閉鎖的な家族や集落を舞台に繰り広げられる惨劇は、横溝正史原作・市川崑監督の「犬神家の一族」、アリ・アスター監督の「ミッドサマー」、M・ナイト・シャマラン監督の「ヴィレッジ」などを連想させる、ホラー・ミステリーのテイストが色濃く、そうした作品が好きな方には特にお勧めできます。
凄惨な事件がおこっていくなか、同作のダブル主人公と言える、水木、鬼太郎の父の2人が、互いを信用できずに反目しあうところから共闘していくバディの物語としての魅力も大きく、女性ファンを増やしている要因のひとつのようです。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、Netflixで独占配信中の「悪魔くん」とあわせて、水木しげる生誕100周年の企画の一環として製作されました。また、鬼太郎が誕生するエピソード自体は、水木氏の漫画でも描かれていて、テレビアニメ「墓場の鬼太郎」1話で映像化もされています。このエピソードは、できれば映画を見る前にふれておくことをお勧めします。
本作で描かれているのは、水木氏が描いた鬼太郎誕生の物語につながるオリジナルストーリーですが、「ゲゲゲの鬼太郎」以外の水木氏の作品の要素も盛りこまれています。そのひとつが、「総員玉砕せよ!」に代表される戦争を題材にした漫画です。公開後に発表された最新の予告では、そうした要素があることがほのめかされています。
戦争で左腕を亡くした水木氏は、自らの戦争体験を色濃く反映させた戦争漫画を多く描き残しています。「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の舞台である昭和31年(1956年)は、終戦から約10年後の高度成長期で、まだまだ戦後の爪あとが色濃く残っていた頃です。作中のキャラクター・水木が務める血液銀行も、当時は今のような無償の献血ではなく、じっさいに血液銀行が存在して「売血」が行われていたという背景があります。
本作では、ホラーテイストの物語が進むつれ、戦争の恐ろしさや、戦争の記憶に苦悩する人たちのドラマが展開されていきます。それこそが、本作が本当の意味で「大人向け」である理由なのでしょう。PG12ではありますが、こうした映画を大人と一緒に子どもが見るのも良いのではないかと思います。
ここまで読まれて、作品のくわしい紹介がないと感じた方がいるかもしれません。ホラーやミステリーの要素が色濃い本作は、なるべく前知識をいれないで見たほうがより楽しめるはずだと、あえて物語の中身にはふれていません。作中の水木のように、何も知らないまま哭倉村に“入村”することを強くお勧めします。
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