ジェイソン・ステイサムに取材できなかったので、代わりに“ステイサムっぽくしゃべる人”を取材したら面白かった話
2023年10月14日 13:00
ジェイソン・ステイサム、「トランスポーター」「ワイルド・スピード」シリーズなどで知られる世界的人気俳優だ。ステイサムの主演最新作「オペレーション・フォーチュン」の10月13日公開を記念し、映画.comはインタビューを敢行。その人気の秘密を探った……。
……という企画を立てていたのだが、ひとつ、重大なアクシデントが発生した。いろいろあってステイサムが来日せず、インタビューが実現しなかったのだ。
いや、来られなかったか~! 困ったな~、ステイサムに話聞きたかったな~、と頭を抱えていたところ、本作配給キノフィルムズの宣伝部から一本のメールが入った。
「X上でステイサム風に悩み相談を受ける“ステイサムの悩み相談bot”という方がいます。アカウントを始めて、10周年を迎えたそうです。ついてはアカウントの“中の人”を取材し、ステイサムとして質問に答えてもらうのはどうでしょう?」
目を疑うようなメールだった。ステイサムの悩み相談botさんは我々も投稿を拝見している。だから「ステイサムの悩み相談botの中の人を取材」、これはわかる。ありだと思う。「10周年を迎えた」、おめでとうございます。
しかし「ステイサムとして質問に答えてもらう」これがわからない。どういうこと? ステイサムのふりをして答えてもらうの? なぜ? これは夢? そんなインタビューあるか?
メールを受けたときは深く混乱したが、それでも、どういうわけか我々は「ぜひやりましょう」と返答してしまっていた。あれよあれよと日取りが決まり、2023年9月某日、インタビュー当日がやってきた。
ということで。ジェイソン・ステイサムが来日しなかったので、代わりにステイサムっぽくしゃべって10周年を迎えた人を取材したら面白かった話、始まります。(取材・文・構成/映画.com編集部 尾崎秋彦、飛松優歩)
ステイサムなら、こう言うね!英国俳優ジェイソン・ステイサムが巷の悩み相談に挑むbotです。たまに手動で呟きます。
ステイサム(ステイサムの悩み相談botの中の人):断る。
そいつは光栄だな(と言って、襲ってきた暴漢の首を折る)。
ちょっと待て。1.6万人がブックマーク? 1.6億人の間違いじゃないのか? もう1回データベースを調べ直せ。
ステイサム(ステイサムの悩み相談bot):誰が主演なのか、俺の目を見て言ってみろ。
老若男女誰でも楽しめるステイサム映画だな、これは。だから家族や身の回りの人に、自信を持っておすすめできる。ちょっと早い俺からのお歳暮だと思ってくれて良い。
あとは、ついに俺も中間管理職みたいな役をやるようになったのかと思うと、感慨深いぜ。いままでアウトローな役どころが多かったからな。ちゃんと仲間を集めるようになったんだと。中間管理職の割には、意外と一番体を張ってるだろ。部下に「ボス、行ってください」と言われたら、「はい」と言うみたいな。日本の会社員たちは、だいぶ身につまされる感じだったんじゃないか?
物語を通じて「誰かしら死んだり、爆発したりしても、一切動じるな。想定外が起きてもポーカーフェイスで行け」というメッセージが伝わると思う。
全部……と言いたいところだが、特に空港のシーンはチェックしてほしい。息を吐くように、俺が敵を失神させるアクションがある。当たり前のように敵を失神させるレベルまで来たんだという感動があるだろう。もう人間だと相手にならないんだなと、如実にわかるシーンだ。あとは拳のカルトクイズだな。今年全国で流行るぞ。偉そうな奴がいる職場、学校、家庭とかで。
ステイサム(ステイサムの悩み相談bot):一言で言うなら、今回もガイ・リッチー監督のおしゃれ演出が最高だ。だがそこに俺が組み合わさると、結果、ステイサム映画になっちゃってるところが面白い。監督の個性と俺の個性がシノギを削っている作品だ。
俺(ステイサム)はいわば味の素みたいなもんだからな。
自信ある点? 決まってるだろ。全部だ。俺以外のキャストにも見せ場がちゃんとあるから、ひとり相撲になってない映画に仕上がっている。
“次の作品”がベストに決まってるだろ。常にベストを更新し続けるのが俺の生き方だ。「オペレーション・フォーチュン」も現時点でのベストだ。絶対に観てくれよな。
ステイサム改め、ステイサムの悩み相談bot:いや~、ありがとうございました!
まず、本人が来ないからですね。あと何よりイカれた依頼で面白そうだったから。乗らざるをえないだろうと。断るという選択肢はなかったです。
本当に真面目なところで言うと、ステイサムの映画って、観る人は観てるけど、観てない人もまだまだいるんじゃないのかと思うんです。そういう人たちのなかのひとりでも、ステイサム出演映画を観るきっかけになってくれれば、と考えて、引き受けました。自分なりのステイサムへの恩返し的な。
ステイサムの悩み相談bot:得られたことといったら、こういったインタビューの機会や、さまざまな人とのつながりですね。なんか胡散臭い情報商材売ってる人みたいでステイサムに鼻で笑われそうですが。
失ったものは自分のプライベート写真です。ステイサムの画像を携帯に保存しすぎて、容量が足りなくなったので、プライベートの自分の思い出を全部消していきました。
当時付き合っていた彼女の写真、おいしいごはんの写真など、全部いきました。(活動開始当初の2014年ごろ)当時まだiPhoneの容量もそこまで大きくなかったじゃないですか、だからあまりデータが保存できなかったので、苦肉の策で。
今はiPhoneの容量も増えましたけど、それでも自分のiPhoneのカメラロールの3分の1から2ぐらいはステイサムの画像。カメラロールの「人物」で出てくるのは、自分の顔じゃなくて、まず1発目がステイサムです。
可能性はだいぶありますね。ネットの検索サジェストとかも全部、ステイサムの記事ばかりが出てきます。
ステイサムの悩み相談bot:僕、「ブリッツ」という映画がめちゃめちゃ好きなんですよ。100回くらい観ていて、「もう自分、ステイサムなんじゃないか」と勘違いするぐらい観てるんですよ。そうすると、おのずとステイサムになっていくんです。だから、もうとにかく数をこなす。こすりまくるっていう。
自分でも毎回「これ無駄な時間だな」と思いながら観てます。自分のプライベートタイムや貴重な時間を削ってまで観てるのに、「何回これ観るんだろう、ほかにやることあるだろう」と思ってます。
たまに「今、ステイサムがおりてきてる」みたいな感覚になることがあります。まあ明らかに勘違いなんですが。
ステイサムの悩み相談bot:断然、僕は吹き替えですね。やっぱり(ステイサムの声優を主に務める)山路和弘さんの声がすごく好きで。めちゃめちゃ酒飲みまくった次の朝、自分の声がちょっと山路さんっぽい声になっていると、嬉しいんですよ。コンビニのレジで「200番ください」とタバコ買うときとか、「ちょっといまの俺、山路和弘っぽい声だ」って嬉しいみたいな。
(笑)。あとほかにも、日常でステイサムを意識するときがあります。例えば会社で能書き語るヤツっているじゃないですか、僕の会社にもいるんですよ。web会議の画面上でそいつが能書き語ってると、山路和弘さんの声のモノマネしながら「金儲けが好きなんだろ?」と事務所で言ったことがあります。僕のマイクはミュートだったので能書き垂れてる本人には聞こえてなかったと思いますが。
「MEG ザ・モンスター」でステイサムが実際に披露するセリフなんですけどね! 当然、周囲から「なんて?」と言われるので、「金儲けが好きなんだろって言ったんだよ」と畳み掛ける。そうするとどうなるか? ちょっと揉めます(笑)。後輩からも「ちょっと声、変ですよ」と言われたりして、「山路和弘の声、真似してんだよ。ステイサムの吹き替えやってる人だよ」みたいな。だからめちゃめちゃ損はしてますよね。なるべくプライベートもステイサム的でありたいと思うんですけど、現実は厳しいです。ステイサム・ムーブを100%でやったら、マジで会社クビになっちゃう。だからちょっと小出しにして、どれくらいいけるかなってチャレンジはしてます。
ステイサムの悩み相談bot:やっぱりリュック・ベッソン製作の「トランスポーター」ですかね。当時、僕はレンタルビデオ屋さんに行って借りました。ベッソン印って当時「グラン・ブルー」や「ニキータ」の“おしゃれ監督”っていうイメージだったんです。だから「トランスポーター」も、おしゃれなフレンチみたいな映画かと思っていました。で観てみたら、フレンチじゃなくて、牛丼みたいな映画が出てきた。フォークとナイフ持ってフレンチに備えていたら、めちゃくちゃ牛丼が出てきた。あ、これ箸で食わなきゃダメだと(笑)。
でも「俺好きだな、この牛丼みたいな映画」と思ったんですよ。ステイサムが牛丼路線に走り始めたのが「トランスポーター」で、いまの彼のイメージはこの映画から固まり始めたと思っています。だから個人的には思い入れというか、印象に残ってますね。
中間決算だと思います。ステイサムには無限の可能性ありますからね! これからの伸びしろあるよ、いまの俺はこの位置まで来てますよっていう感じかと。来期も頑張りますみたいな中間決算の報告書。
ステイサムの悩み相談bot:それが……自分でも未だによく分からないんです。向こうからしたら迷惑かもしれませんが、勝手に昔からいるツレみたいな感覚になってますね。下から仰ぐ存在じゃなく、ヤバい時に横にいてくれる存在とでも言いますか。なんとか死ぬまでにステイサムを追う理由を見つけたいです。僕の走馬灯では間違いなくステイサムが写ると思いますよ。理屈じゃないんです!
ステイサム(ステイサムの悩み相談bot):まずパンツ一丁で踊るシーンがあるプロモーションビデオに出ろ。
ステイサムの悩み相談bot:なぜかというと、ステイサムはデビュー当時、けっこうプロモーションビデオに出演しているんです。マジで阪神タイガースみたいなパンツ一丁で踊ったり、全身を銀色に塗って謎の動きをしたりして。だからステイサムだったら、当時の自分を思い返し「自分ができると思った仕事は全部引き受けろ」と言うと思います。そういう下積みがあって、いまの彼はあるからです。
ステイサムの悩み相談bot:展望は……ないですね! このアカウントのモットーは「数字とか、誰が反応するかとかは一切気にしない」です。
だってステイサムもそうだと思うんですよ。もちろんお客さんのことは意識していると思うんですけど、彼がいちいちSNSのフォロワー数やらを気にすると思いますか? 多分、気にしてないですよね。ファンに一切媚びないからこそ、僕は彼に痺れるんです。特に映画で演じる役は、自分が納得するものだけをやっていく方針のように見えるので、自分もそういうストイックなスタンスを意識しています。
そして「真面目にやらない」もモットーです。一時期、僕のパクりアカウントがいっぱい出現したんです。で、僕も、パクリアカウントに悩み相談をしにいったんです。「俺、パクられてるんだけど……」と。そしたら全然返ってこなかった(笑)。真面目にやらない、楽しんでやる。シンプルにそこだけ。それ以外は何も求めないという感じでやっていこうと思います。
「オペレーション・フォーチュン」は、お前たちにとって実家みたいな安心感のある映画だ。帰省するつもりで観ろ。
ありがとうございました!
執筆者紹介
尾崎秋彦 (おざき・あきひこ)
映画.com編集部。1989年生まれ、神奈川県出身。「映画の仕事と、書く仕事がしたい」と思い、両方できる映画.comへ2014年に入社。読者の疑問に答えるインタビューや、ネットで話題になった出来事を深掘りする記事などを書いています。
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