【「エリザベート 1878」評論】イメージから自らの魂を解き放ち味わう無の孤独も悪くない
2023年8月27日 11:00

身長172cm、体重45~50kg、ウェスト50cm。スーパーモデル並みのスタイルとヨーロッパ宮廷随一と謳われた美貌の持ち主として知られるオーストリア皇后エリザベート。いまもミュージカルやNetflixのドラマで高い人気を誇る彼女が、40歳で老いを意識したときの心境の変化を、新鋭マリー・クロイツァー監督が大胆に推理した。
レジェンドの人生の一断面を切り取った作劇はクリステン・スチュワートがダイアナ妃を演じた「スペンサー ダイアナの決意」、音楽や小道具に現代のテイストを入れ込んだ演出はソフィア・コッポラ監督の「マリー・アントワネット」を彷彿させる。この2作同様、史実に忠実でないことを念頭に置きつつ、作家の個性を楽しみたい作品だ。
原題の「Corsage」はコルセットのこと。50cmのウェストをさらに数cm締め付けるコルセットは、エリザベートの美意識の象徴であると同時に、父親譲りの自由人だった彼女を束縛する宮廷と、美貌の皇妃というイメージの枷を意味している。加えて劇中では、皇妃エリザベートのアイデンティティを物語るアイテムとして、ダイエットの主食であるオレンジのスライスと、膝まで届く長い髪も強く印象付けられる。コルセット、オレンジ、長い髪。この3点セットとの決別が、ドラマの骨子だ。3点セットの力を借りて理想の皇妃を装う人生に行き詰まりを感じたエリザベートは、苦悩の果てに、宮廷と世間のイメージから自らの魂を解き放つ選択をする。そんな能動的なエリザベート像を、クロイツァー監督は、ビッキー・クリープスというミューズを得て創りあげた。
ただし、劇中のエリザベートは終始孤独だ。もともと宮廷の中で孤立していた彼女は、解放への道を歩む過程でますます孤独になる。妹、夫、そして姉弟のように仲が良いルートヴィヒ2世とのつながりを失っていく彼女は、皇妃らしくない行動を咎める子どもたちからの敬意も失う。ダイアナ妃やマリー・アントワネットが、母親の称号を最後まで保ち続けたのとは対照的だ。とはいえ、孤独=不幸とは限らない。1877年のエリザベートが雑踏の中で浮きまくるような孤独感にさいなまれていたとすれば、1878年のエリザベートが味わうのは無の孤独だ。それも悪くないと、この映画は思わせてくれる。
(C) 2022 FILM AG - SAMSA FILM - KOMPLIZEN FILM - KAZAK PRODUCTIONS - ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN - ZDF/ARTE - ARTE FRANCE CINEMA
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