「コクリコ坂から」宮崎駿監督と宮崎吾朗監督のねじれた共同作業 時代の変化に堪えられる映画づくり
2023年7月14日 21:00
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7月14日午後9時から、日本テレビ系「金曜ロードショー」にて「コクリコ坂から」が放送されています。
同作は、宮崎駿監督の長男である宮崎吾朗監督が「ゲド戦記」(2006)に続いて手がけた長編第2作で、2011年に劇場公開されました。宮崎吾朗監督はその後、テレビアニメ「山賊の娘ローニャ」(2014)、テレビスペシャル「アーヤと魔女」(20年放送/21年「劇場版 アーヤと魔女」公開)の監督を務め、昨年11月に開園した「ジブリパーク」の企画監修も手がけています。
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「コクリコ坂から」は、本日から最新作「君たちはどう生きるか」が公開中の宮崎駿監督が企画・脚本のほか、ポスタービジュアルも担当。制作中も、主に鈴木敏夫プロデューサーを介して、イメージボードを描いたり具体的な助言をしたりするなど、親子共作と言える部分が多くあります。
これまでに刊行された関連書籍、公開時にNHKで放送されたドキュメンタリー「ふたり/コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~」(DVDが発売中)を参照しながら、本作のトリビア、あらすじ、主な声優一覧をご紹介します。
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本作の原作は、1980年に「なかよし」で連載された少女漫画。「風の谷のナウシカ」の公開後、宮崎駿監督らによって映画化が検討されていた作品でした。当時、信州の山小屋で夏休みをすごしていた宮崎駿監督は、姪っ子が置いていった少女漫画雑誌を読んだことをきっかけに「耳をすませば」と「コクリコ坂から」に目を留め、「耳をすませば」はのちにジブリで映画化されましたが、「コクリコ坂から」は時代にあわないという理由で企画が断念されていました。
そんな「コクリコ坂から」が長い時を経て映画化されることになったのは、企画者である宮崎駿監督が、「21世紀に入って以来、世の中はますますおかしくなってきている。(中略)日本という国が狂い始めるきっかけは、高度経済成長と1964年の東京オリンピックにあったんじゃないか。物語の時代をそこに設定すれば、現代に問う意味がでてくる」と考えたからだと、鈴木プロデューサーは著書「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」で振り返っています。
そのため原作漫画では連載当時の1980年が舞台だったのを、映画では東京オリンピック前年の1963年に変更されました。作中の時代や舞台を特定しないことがほとんどのジブリ作品には珍しく、時代だけでなく場所も横浜に特定して企画が進められ、公開時にはジブリ作品としては初めて、舞台となった横浜市とタイアップしてPR活動が行われました。
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宮崎駿監督は企画を立て、丹羽圭子氏と共同で脚本をつくったあとは、制作現場に介入しないようにしていたそうです。それでも作品の行方が気になって、宮崎吾朗監督に気をつかいながら一風変わったかたちでアドバイスをしたり具体的に絵を描いたりするなどして作品に介入する様子が、ドキュメンタリー「ふたり」に映されています。
宮崎吾朗監督が絵コンテを描きはじめた当初、主人公の松崎海は父を亡くしたという過去に引きずられて暗くなりすぎてしまっていたそうです。そこから溌溂(はつらつ)とした女性として描くことになったきっかけのひとつが、宮崎駿監督の描いたイメージボードでした。彩色されて映画の宣伝ビジュアルとしても使われた、登校中の海を遠目に描いたイメージボードでは、海が前のめりの姿勢で橋の上を歩き、彼女の積極性が生き生きと伝わってくるものでした。
宮崎駿監督のこだわりで、本作冒頭で海が起きてすぐ布団をたたんでしまうシーンも追加されました。宮崎吾朗監督は、横で妹が寝ているから布団はあげないほうが自然だと反対していましたが、そこで宮崎駿監督は鈴木プロデューサーに“プロデューサー命令”として宮崎吾朗監督に布団をしまうシーンを入れるよう頼みます。鈴木プロデューサーの説得で、最終的に宮崎吾朗監督は布団のあげおろしのシーンを追加することを承諾し、その報告を鈴木プロデューサーからうけた宮崎駿監督は「すばらしいご指導で感謝いたします」と笑いながらお礼を言う様子が「ふたり」に収められています。
このやりとりは、言葉だけで説明すると、上から圧力をかけているように感じてしまうかもしれませんが、映像では茶目っ気のある、まるでコントのようなやりとりにも見え、一連のやりとりに同席していたキャラクターデザインの近藤勝也氏は笑っています。サービス精神旺盛な宮崎駿監督が、ドキュメンタリーの撮影陣に“撮れ高”を増やすため、あえてカメラの前で面白く話していたのかもしれません。
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2011年7月16日の公開を目前にひかえ、制作の追いこみに入っていた3月11日、東日本大震災が発生します。震災当日は自宅に帰れないスタッフもいて、その後、原発事故の影響による計画停電も実施されるようになり、PCを使った作業は夜に行うことになりました。宮崎吾朗監督からの提案で、混乱をさけるためスタジオジブリは3日間休業することを決めました。
休業を知った宮崎駿監督は、こういうときこそ映画をつくるべきだと強く反対し、ドキュメンタリー「ふたり」では、「生産点(※編注:制作現場)を放棄しちゃいけないですよ」と声を荒げて皆にうったえる姿が映されています。スタジオをとりまとめる鈴木プロデューサーは、宮崎駿監督の発言に共感しながらも、「高畑、宮崎の時代はそれでよかったかもしれない。でも、いまの時代にそれをやろうとしたら、いろんな支障が起こる。とくに、昔と今では家族のありかた、子どもを育てる環境があまりにも違う」と悩みながら、出社できる人はするという中間的なやり方で現場を動かすことにしたと「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」でつづっています。
ドキュメンタリーのなかで宮崎駿監督は、「こういう事態(※編注:東日本大震災や原発事故)が起こった後の日本に堪えられる映画を作れるかどうかだから」とも語っていました。「コクリコ坂から」の公開から約8年半後、日本のみならず世界がコロナ禍におそわれ、現在にいたっています。「コクリコ坂から」での宮崎駿監督の発言は、自身の新作「君たちはどう生きるか」にも強く意識されているはずです。
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