ゆうばり国際ファンタスティック映画祭へ行ってきた!約4年ぶりに本格的なリアル開催が復活
2023年7月3日 22:57
これまで北海道の冬の風物詩として世界中の映画ファンに愛されてきた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」(以下「ゆうばり映画祭」)が、ここ数年のオンライン開催などをはさみ、6月29日から7月2日にかけて、約4年ぶりに本格的なリアル開催へとこぎ着けた。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭といえば、かつてはデニス・ホッパー、勝新太郎、アンナ・カリーナ、クエンティン・タランティーノといったビッグネームがゲストで来場していた華やかな時代もあった。だが夕張市の財政破綻、予算縮小、会場縮小、いくつかのスポンサーの撤退、メイン会場だった市民会館の取り壊し、JR石勝線夕張支線の廃止、近隣ホテルの一時閉鎖、そしてコロナ禍……。次々と降りかかる困難に深刻なダメージを負い、映画祭の規模も年々縮小し続けている。そんな“ないないづくし”の状況の中、それでも今年も「楽しい映画祭」を期待し、未知なる映画との出合い、未知なる人たちとの出会いを求め、ついつい足が向いてしまう、という人たちが多いのはなぜなのか。
今年のオープニングセレモニーには、ニューウェーブアワード男優部門に輝いた俳優の鈴鹿央士が参加。夕張に到着した来場者には、誰であっても「おかえり!」と呼びかけるのが「ゆうばり映画祭」のスタイルだが、この歓迎ぶりには鈴鹿も驚かされたという。「僕がイメージしている映画祭や今まで経験した映画祭とは少し違いました。まず会場に着いて皆さんから『おかえりなさい』と言われた時は、『僕は岡山出身なのに、おかえりなさいと言ってくださるのか』と驚いたんですけど、とても温かい気持ちになりました」。そして会場を車で後にする際も、多くの地元の人たちに見送られ、車の窓から笑顔で手を振り続ける鈴鹿の姿があった。
そして、ゆうばり常連の笠井信輔アナウンサーの開会宣言とともに華やかに開幕すると、オープニング作品の「BAD CITY」を上映。登壇した小沢も「『SCORE』や、そのあとの監督第1作も、それから今回の還暦でとった作品も、節目節目でつくった映画はみんなゆうばりで上映してもらった。本当にゆうばりさまさまなんだから。みんなの力でもう一度盛り上がってほしいよね」とエールを送った。
その後は会場を屋外ステージに移動し、ゆうばり映画祭テーマソング「Go! Go! めろん!!!」を歌う山口めろんのミニライブを実施。絶対音感を持ちながらも音痴、という彼女が繰り出す“新感覚”の音楽を全身に浴び、「Go! Go! めろん!!!」の大合唱となった会場内の参加者は自然と笑顔になっていった。
そして2日目。屋外ステージでは「レ・ミゼラブル」「サタディーナイトフィーバー」など数々の大作ミュージカルに出演する神崎順がプロデュースする世界初のボーイズレビューユニット10caratsによるレビューショーが行われた。男性版宝塚のような華やかなステージが繰り広げられ、客席には推し活用のうちわを持参し応援する人たちの姿も多く、アンコールの声が鳴り響いた。
そして夕方には、ジャパンアクションクラブ(JAC)創立期のメンバーで、スーパー戦隊シリーズをはじめとした数々の特撮作品などでも活躍してきた俳優・春田純一の初監督作「カラスの羽を繕う女」を上映。名優・津川雅彦さんが「春田が撮るなら出る」と出演を快諾した作品で、18年に逝去した津川さんの遺作になるという。
そして夕方には、ジャパンアクションクラブ(JAC)創立期のメンバーで、スーパー戦隊シリーズをはじめとした数々の特撮作品などでも活躍してきた俳優・春田純一の初監督作「カラスの羽を繕う女」を上映。名優・津川雅彦さんが「春田が撮るなら出る」と出演を快諾した作品で、18年に逝去した津川さんの遺作になるという。
物語は、かつては伝説のスタントマンでありながらも墜ちるところまで墜ちた男と、彼にもう一度無謀なスタントに挑ませようと、男に全身全霊でぶつかる敏腕プロデューサーの女とが織りなすラブストーリー。実際に本作プロデューサーを務める大下順子と、春田が全編エチュードで織りなしたラブストーリーは、まさに“男と女のバトル”と形容したくなるような激しい“アクション”であり、階段落ち、車での体当たりなど、体を張ったぶつかりあいが強烈な印象を残す。「自分のワガママだけで撮った作品なんですけど、僕が知っているスゴい監督たちにはとうていかなわないので。自分なりの手法で、挑戦的につくった作品です」と春田監督は振り返る。
そして夜には「怨泊」が上映され、香港から主演のジョシー・ホーが緊急来日。「超擬態人間」の藤井秀剛監督が繰り広げる独特な画面づくり、そして主人公が宿泊する民泊の女主人役の白川和子の怪演など、壮絶な世界観が繰り広げられる。この日はあいにくの雨模様だったが、ステージに登壇したジョシーは「今夜は雨も降っていますし、夜ということで。こういった映画を観るのにピッタリですね」と切り出すと、「日本の役者と芝居をして、たくさんのインスピレーションをもらうことができました。日本の役者のお芝居が本当に好きで、役に入り込む人ばかり。幽霊を演じた役者さんも、本当に役に入り込んでいて。その芝居を観て感服しました」と語った。
3日目には「散歩屋ケンちゃん」に出演する石田純一といしだ壱成の親子が来場。上映前にはロビーに登場し、チラシ配りも実施。サインや写真撮影にも気さくに応じるなど、ゆうばりの観客とのつかの間の交流を楽しんだ。
そして期間中は、今年のコンペティション部門審査員を務めた村川透監督の松田優作主演作「蘇える金狼」、イ・ミョンセ監督の「NOWHERE 情け容赦なし 4Kリマスター」の過去作も上映。99年の韓国映画「NOWHERE」は世界的に高く評価された傑作。数々の映像テクニックを駆使した映像美はもちろんのこと、アン・ソンギ、パク・チュンフン、チャン・ドンゴン、チェ・ジウら韓国を代表するトップ俳優陣の熱演も見応えがある。ちなみにこちらの4Kリマスター版、どうやら日本公開は決まっていないようだ。
さて、ゆうばり映画祭に来たら一度は食べておきたいのが「カレーそば」だ。トロトロに煮込まれた豚バラ肉とタマネギが入る和風だしのきいたカレーがなみなみと注がれたカレーそばは、多くの映画人が愛した“ゆうばりのソウルフード”。
そして夏開催の「ゆうばり映画祭」の目玉となったのが、全国的に有名な「夕張メロン」だ。冬開催時にはメロンは食べられなかったため、夏のゆうばり映画祭の新たな楽しみのひとつとして定着しそうだ。
さて最終日にはクロージングセレモニーを実施。主な結果は以下の通り。
・グランプリ「宙」:蔵元政之監督
・審査員特別賞「Hundreds of Beavers」:マイク・チェスリック 監督
・グランプリ「DOCOOK」:羽部空海監督
・優秀芸術賞「HIDARI」:川村 真司 監督
・STAND FOR ARTISTS賞(コンペティションの中から優れた演者をフィーチャーする新しい賞) イ・チェヒョン(主演)「時間の温度」
・シネガーアワード「Fridge」村上リ子監督
コンペ部門でグランプリを獲得したのは蔵元政之監督の「宙」。国産線香花火の四期(蕾・牡丹・松葉・散り菊)、日本の四季、そして男女の人生を重ね合わせて描く長編作品。企画・製作11年。全国34カ所で5年3カ月かけて撮影した作品だ。
「自分は話が長いと言われるんで」と前置きする蔵元監督だが、この日もスピーチが長くなり、ドッと沸いた会場内。だが、グランプリを獲得したことが「信じられない」と語ると、紆余曲折あったという製作11年という月日を振り返る。
06年に商業映画監督としてデビューするも、2作目の企画がとん挫し、映画づくりを諦めかけていたという。そこからプライドを捨て、どれだけ予算がかかってもいいから自主制作で絶対に自分が納得する作品をつくろうと決意。だが薬を飲まないと声が出せなくなるという病気を患い、さらに心配ばかりかけてきた父親の闘病に寄り添い、看取った直後に今作のドキュメンタリーパートを撮影したと明かす。その後も別の病に苦しめられるなか、ほかの仕事を抱えながらも3年がかりで編集作業を行ったことを、切々と語った。
審査員の村川透監督も「映画は聞くモノではなく見るモノですから!」と語ると、蔵元監督の思いに共鳴した思いをスピーチ。そして「絶対に映画は滅びませんからね!」と力強く呼びかけた。
ここで紹介したのは映画祭のほんの一部。取材できなかったプログラム、会場でも、多くの出会いやドラマがあったはずだ。確かに過去の映画祭に比べて、失われたものは非常に多いが、だがそれと同時に多くの楽しいことにも出会うことができた。「まだまだこんなもんじゃないぞ、ゆうばり映画祭は」と思えるうちは、きっとまた多くの人が映画祭に足を運ぶことになるのだろう。
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