松山ケンイチ×長澤まさみ「ロストケア」から考える、解けそうで解けない社会の問題とは?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2023年3月25日 07:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末3月24日(金)から松山ケンイチ×長澤まさみの「ロストケア」が公開されます。
松山ケンイチ×長澤まさみという初めての組み合わせとなるキャスティング。この段階で既に魅力的です。
ただ、内容自体は、私たちにとって重大な様々な問いかけをしてきます。
私たちは自然と「見たいもの」と「見たくないもの」という分け方をすることで、できるだけ「見たくないもの」から逃避する傾向があります。
本作では、その後者に当たる「現実問題」を分かりやすく見せることで、私たちに「考えること」を促します。
表面的には白黒が付けやすいように思える題材です。でも、実は「正解」が極めて見えにくいのも現実なのです。
ネタバレにならないように、本作に出てくるキーワードで「問題」を提示してみます。
本作では、「年金」「生活保護」「刑務所」という要素が出てきます。
例えば「(国民)年金の場合は、生活保護費よりも少ない場合がある。これは不公平ではないか。年金の保険料を払わない方が得だ」といった意見を見かけることがあります。
この論については、いろんな誤解があるのですが、ここでは解説するのではなく、次の問い掛けをしてみます。
「生活保護によって非常に限られたお金で苦しい生活をするくらいなら、自動的に毎日3食が食べられ雨風をしのげる住まいや医療も提供される刑務所に入っていた方が得だ」という考えはどうでしょうか?
実は、前者の論よりも後者の論の方が、「正解」が見えにくくもあるのです。
このように、普段は考えないような「社会問題」も、日本は「世界一の高齢大国」であるため、「介護」の問題は私たちが世代を問わず直面し得る「極めて重要な問題」なのです!
その「問題」においては、「連続殺人犯」vs「検事」という極めて分かりやすそうな構図であっても、正直なところ「どちらが本当に正しいのか?」と「正解」は非常に見えにくいのです。
例えば、戦争中ともなれば、「多数の敵を殺害する」という行為は、「悪行」どころか「英雄視」される可能性を秘めています。このように、環境によって「正解」が真逆となるのが「現実」でもあるのです。
以上の予備知識を踏まえた上で本作を見れば、様々な視点で考えられる「軸」のような映画となることでしょう。
さて、本作のメガホンをとったのは、2021年に「映画界における時の人」となった前田哲監督です。
2021年10月29日「そして、バトンは渡された」(ワーナー・ブラザース配給)、10月30日「老後の資金がありません!」(東映配給)と同時期に公開された2作品が、興行収入17.2億円、12.4億円と共に興行収入10億円を突破したのです!
これまで前田哲監督作品を見続けてきた私は、本作のような社会派作品だとどうなるかなと、少し不安もありましたが、「ブタがいた教室」(2008年)と同様に精度の高い堅実な作品に仕上がっていました。
強いて言えば、犯人を割り出す際の演出は、もっと演出に強弱をつける工夫をする余地があり、前田監督ならそれも出来たと思いますが、同じトーンになっていたため、勿体ない気がしています。
とは言え、ここで書いたことを踏まえておけば、「本質は何か」がブレずに済み、「日本人なら見るべき作品」とさえ言えることが理解できるでしょう。
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