東京国際映画祭・安藤裕康チェアマンが語る手応えと課題
2022年11月10日 18:00

日比谷、有楽町、銀座地区に拠点を移して2年目となった第35回東京国際映画祭。過去2年は新型コロナウイルス感染拡大で有観客とオンラインを融合させての開催となったが、今年はほぼ有観客で実施することができた。上映会場を拡大し、それに伴う上映作品数も増加。屋外でのオープニングレッドカーペットや黒澤明賞の14年ぶりの復活などさまざまなイベントも行われた。今年の成果について、安藤裕康チェアマンにうかがった。
コロナ禍で先行きが見通せない中での準備が大変だったことは想像に難くない。特にオミクロン株による夏の第7波で感染者が一気に増え、一層不透明になった。
「春先には今年こそリアルでできるだろうと思っていたけれど、本当に大丈夫かとすごく心配しました。だからといって準備を進めないわけにはいかない。恐る恐る続けてきたことで、事務局全体に精神的なストレスはありました」
昨年の開催後、アンケートやヒアリングなどで多く寄せられた意見が「大きなスクリーンで見たい」だった。そこで今年は丸の内TOEIを会期中、丸の内ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷、有楽町よみうりホールを数日間ずつ使用し、結果的には10月24日~11月2日の開催で上映本数は169本で前年比134.1%、動員数にいたっては5万9541人で同202.4%(いずれも2日までの速報値)とのびた。
「これは一歩前進だと思います。上映の幅が広がったということもある。コロナが収束に向かっている状況で、いろいろなことが可能になっている部分もあって、特に外国との関係でいえばコンペティションへの応募も昨年は1533本だったのが、今年は107の国と地域から1695本になっているんです」
海外からのゲストも104人。外国人の入国に関する規制が大きく緩和されたのは10月だったが、それでも昨年の審査員も含めた8人に比べれば大きな実績だ。ただ、ガラ・セレクションにはハリウッド作品も上映されたが、世界的なスターがおらず華やかさに欠けた感は否めない。
「昨年は外国人を1人呼ぶだけでも、文科省や文化庁に書類を提出するなど許可を得るまでにものすごく時間と手間がかかった。それが今年は審査員、作品のゲスト、プレスも含めて104人も来てくださった。それ以外にも、ふらっと来てチケットを買っている外国人の方も増えていると聞いています。けれどもまだコロナ前の水準には戻っていないので、来年以降もっと増やしていきたいし、東京国際映画祭という名にふさわしいものにするための課題です。ただ、外国からお客さまを呼ぶとなると予算も必要ですし、ハリウッドから呼ぶとなると加えて配給会社が宣伝を兼ねてという形になるので、映画祭の独自性みたいなものがなくなってしまう部分もある。その兼ね合いですよね」
その“顔”の役割を担ったのが、黒澤明賞を受賞したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督である。受賞の記者会見でも、東京でグランプリを獲得した「アモーレス・ぺロス」(2000)は「羅生門」がベースになったと発言するなど多大な影響を受けていることを明かした。同賞を復活させた狙いはどこにあったのか。
「黒澤明監督は日本が世界に誇る最大の映画監督ですから、その名を冠した賞がないこと自体がおかしい。この賞によって国際化していくひとつのきっかけ、国際色が強まってグレードアップさせるという意味でのグローバルな視点を入れました」
イニャリトゥ監督の新作「バルド、偽りと記録と一握りの真実」もガラ・セレクションで上映された。だが、コンペ、アジアの未来、ワールド・フォーカスと各部門の境界線が見えにくい印象を受ける。そのあいまいさは認めつつも、別の形での特色が生まれたという。
「ワールドプレミアに固執するといい作品が集まらないので、コンペはそのステータスを外しジャパンプレミアであればOKとしたら、逆にワールドプレミアが増えたんです。コンペの15本中8本、アジアの未来は全10本、全体では34本になりました。個人的には幅が広がったという気がしています」
昨年「国際色の強化」を命題に掲げ、世界のさまざまな映画をいち早く紹介する一方で、日本から世界へ発信する使命に関してはどうだったのか。3年目を迎えた国際交流基金との共催の交流ラウンジを中心に、是枝裕和や行定勲ら作品を出品していない監督、俳優たちがトークショーに参加しライブ、アーカイブでの配信も行われた。オープニングレッドカーペットも、配信で約32万人が視聴した。
「レッドカーペットはテレビ各局が翌日に相当な長さで流してくれて、映画祭のプレゼンスを上げるためにはすごく効果があった。交流ラウンジはトークはもちろんですが、ふらっと来た人たちで話をしてもらうことに力点を置いたんです。29日にプログラマーズナイトというパーティを開いて、延べ180人が来て皆喜んでくれた。ある程度はできたと思うが、量的にはまだまだ足りない。来年以降、会場を大きくするなど国際交流の本拠地として発展させたいと思っています」
舞台挨拶やティーチインなども含めたイベント数は、昨年の3倍近い157に上った。その半面、特に新しい会場ではスタッフの間でレギュレーションの周知が徹底されておらず、メディアとの間で混乱が起きる場面もまま見られた。「自省の念を込めて言うと、増やしすぎたがためにオーガナイズがやや雑になった。事前にきちんとセットしてやれば、もっと効果が出たと思う」という言葉には実感がこもる。
さらに、「ホップ、ステップで曲がりなりにもここまできたという感じで、まだまだジャンプするためにやるべきことは多い」と発展途上を強調。確かに今年のテーマである「飛躍」に関しては、わずかだったと言える。コロナ感染者が再び上昇傾向で第8波も噂されるだけに、今後のかじ取りも困難が立ちはだかるだろうが、勝負の3年目が試金石となる。
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