日本映画はいかにして海外に目を向けるのか 石川慶監督×川村元気監督、海外経験を語り合う
2022年10月30日 18:30
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第35回東京国際映画祭のスペシャルトークセッション「日本映画、その海外での可能性」が10月30日、都内で行われ、ベネチア国際映画祭に出品された「ある男」の石川慶監督と、サンセバスチャン国際映画祭で最優秀監督賞を獲得した「百花」の川村元気監督が語り合った。
この日のテーマは、「日本映画は日本人にしか愛されないのか?」。普段から連絡をとりあう仲だという2人だが、そのきっかけとなったのが、山田洋次監督が映画監督たちを集めて行っているサロン的な集まりの場だったという。石川監督は「監督たちの横のつながりがないからということで行われている会で、そこで川村さんとお会いして、映画の作り方とかいろんな話を聞いた。自分も日本映画界では特異かもしれないですが、川村さんも特異だなとその時に思いました。こういう人がいると、日本映画界も活性化していくんじゃないかなと思いました」と振り返る。
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「百花」の海外セールスには、フランスの映画会社ワイルドバンチが参加。脚本の製作段階では、同社の共同創立者であるビンセント・マラバル氏に意見をあおいだという。
「現代映画として、ヒューマンドラマとして面白いのかということを(海外の人の目で)聞いてみたかった。ただ、よく製作者委員会方式だと(意見が飛び交って脚本が)ズタズタにされると言われるけど、そんなもんじゃないくらい脚本段階でもボロクソ。むしろ日本映画界って監督に優しいなと思いますよ。とにかく捨てていけと言って、切らせるんですよね。確かに監督って、カットしていく中で映画を作るということがある。そこから違うものを発明するというのはありますね。それを期待してるところもあります」
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石川監督も「ポーランドで映画を勉強してきた時は、基本的に1秒でも切れと毎回言われていた」という。
「(ポーランドでクシシュトフ・)キェシロフスキの編集をやっていた方が講師にいて。覚えているのが、自分では切りたくない箇所があったので、1分残したんですよ。短編なので、14分を15分にして上映した。すると、あなたにとっては1分かもしれないけど、これを200人に見せたら200分だと。その人たちの人生をもらうくらいその1分が大事なのね、と嫌味を言われましたけど、それくらいシビアに切れと言われる。そんな中で、日本では内容が良くなるから切った方がいいというようなプレビューはやらないですよね」
その話に「すごい話だな」と感心した様子を見せた川村監督は、「その編集の方もそうですし、ビンセントもとにかく切れと言ってくるんで。それは根本的に違うなと。『百花』もワンシーンワンカットで撮っているから(カットの途中は)切れない。だから連続する5シーンをゴソッと落としたところもあったんです。そのために俳優2人が出てこないことになって。お詫びのお手紙を書いたんですが、でも切ったことによって想像力が働くなと思って。映画ってこういうことなのかなと思ったりもしました」と明かす。
その言葉について「監督としてはつらい部分もありますが、きっと重要なことでしょうね。自分は企画の段階からそういうことをやったことがないので、むしろやってみたい」と石川監督が語ると、「でもムカつくよ」と苦笑いの川村監督。「小説でも変わらないですからね。優秀な編集者ほど、ここはいらないと言ってくる。もちろん最初は腹が立つんですけど、家に帰って原稿を見てみると確かにいらないなと思う。どのタイミングでその目が入るかということで、結局やっていることは変わらないですよね」。石川監督も「映画ってやはりプロデューサーといかに価値観を共有できるかということが大事ですよね。最後まで二人三脚でいるのがプロデューサーなので、優しすぎてもダメだし、この人の言うことを聞けるのか、という部分も大事だと思います」と続けた。
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邦画はどうしても国内の興行が第一で、なかなか海外に目を向けた作品にはなり難い。海外の映画祭に出品するのも、国内の興行向けにアピールするために出品するというケースが少なくない。その中で必要なのは「テーマのセッティング」だという。
宮崎駿、細田守、新海誠といった世界を相手にするアニメ界のクリエーターたちは、テーマをどう掲げるのか。彼らは企画の立ちあげから、公開されるまでの2~3年後にも色あせないテーマとは何かということをしっかりと考えていると指摘するのは、川村監督。
「例えば新海さんの『すずめの戸締まり』でも日本人として何を作ったらいいか。震災から10年経って、この事実を知らない人がいていいのか、それをエンタメで出来ないかと。延々とテーマのセッティングを考えていました。日本映画にはそのプロセスが足りないんじゃないか」
この日は、若いクリエーターにとって「複眼の視点」が大事だと強調してきた川村監督と石川監督。
川村監督「石川さんとお互いの企画の話をしていて、ヒントをもらうことも多いし、そこに是枝裕和さんが来るときもあったりして。そうやって企画だったり、ここにいいスタッフがいるよという話をしたり。是枝さんから韓国で撮影した時の話を聞いたり。精神的な複眼を持ってやっていく。それは年代も越えるし、部署も越える。小さなコミュニティにはならないように。僕は最近は建築家の方と積極的に話すようにしていますが、そうやっていろんなところからヒントをもらう。それが映画の多様性につながるのかなと思います」
石川監督「本当にその通りだなと。われわれの世代がゆるく連帯してもいいんじゃないかと共感するところがあります。海外の映画界が盛り上がる時ってひとりだけじゃなく、何人かが結託して出てくるところがありますからね。新しく映画界に入ってくる人もぜひ怖がらずにこのゆるい連帯に入ってくれば、日本映画界の大きな流れになる。映画祭というのはそのためにあるものだと思いますからね」
第35回東京国際映画祭は、11月2日まで開催。
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