【「わたしは最悪。」評論】映画愛に満ちた遊び心溢れる独創的な映像表現と“最悪なわたし”に世界が共感
2022年6月26日 16:00
自分には他人より才能があるのに、いったい何をしたいのか、人生で何を待っているのかわからず、生き方が定まらない。30歳を迎えた今は恋人もいて満たされ、幸せなはずなのに、果たしてこれが望んでいた自分なのか。ある日の小さな違和感が、主人公ユリヤを揺り動かしていく。
「わたしは最悪。」は、“理想の人生”と“厳しい現実”の間で揺れながら、自分の気持ちに正直に生きていくことを選択していく女性の失敗と成長を描いた、ロマンティック・コメディタッチの恋愛ドラマである。「母の残像」「テルマ」などで注目されるデンマークのヨアキム・トリアーが脚本、監督を手掛け、“最悪なわたし”に世界中が共感。第94回アカデミー賞で国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされるなど、世界の映画賞を席巻した。ユリヤを演じたレナーテ・レインスベは、まるでユリヤが自分の中のいくつかの人格と対話するかのように、子供のような無邪気さと愚かさ、さらに大人のずるさと賢さが混在する年代の感情の揺れ動きを、繊細かつ大胆な演技で表現。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で女優賞を受賞している。
またトリアー監督は、遊び心溢れる独創的な映像と音楽でユリヤの心情を映し出す。彼女が芸術の都オスロを眺めながらひとり帰途につくシーンや、それまでの自分から解放されたかのような表情で街の中を駆けてゆくシーンが印象的だ。日常の中で時おり抱くある違和感。自分は何者なのか、なぜここにいるのか―。部屋の電気のスイッチを「パチン」と押した瞬間、抑えていた感情が彼女の中で弾ける。外へ飛び出すと、自分以外の世界が止まって見える。そんな街の中をゆっくりと駆けだしていくユリヤの表情が笑顔に変わっていく姿に世界が共感したのだろう。
ちなみにこれまでにも映画の中で、自分以外の世界が止まって見える表現、シーンは数多く描かれてきた。あなたのお気に入りのシーンはどの作品だろうか。筆者がいつも思い出すのは、ギリシャの名匠、テオ・アンゲロプロス監督の名作の一本「霧の中の風景」(1988)のワンシーンだ。まだ見知らぬ父を求めて、12才の少女と5才の弟が夜行列車に飛び乗る。疲れた姉弟は途中で補導され、警察署に連れて行かれるが、隙をみて外へ逃げ出すと、雪が舞い降り始め、ふたり以外の世界は停止し、その中を駆けだしていくという、なんとも美しいシーンがある。トリアー監督もこうした極めて映画的な表現、シーンも用いて、ユリヤの心情を描き出していることから、深い映画愛を感じる。
それまでの殻を破って新たな一歩を踏み出した時、そこにはどんな世界が広がっているのだろう。「愛してるけど、愛してもいない」、絶対に後悔はするとわかっていてもする彼女の選択や決断に、深く関わる二人の男性は翻弄されることになるが、SNS時代も、人生は選択と、時おり運命によっているのだということを再認識させられ、自分探しは結局最後まで続くのかもしれないと思わされる。1960年~70年代に活躍したハリー・ニルソンの楽曲「I Said Goodbye to Me」も心地よく胸に響く秀作だ。
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