【「帰らない日曜日」評論】イギリス映画の系譜を受け継ぐ、エレガントな官能が匂い立つラブストーリー
2022年5月29日 18:00

本作を見ていくうちに、1980年代後半から90年代前半に製作され、筆者が学生時代に続けて見て感銘を受けたイギリス映画を久しぶりに思い出した。ジェームズ・アイボリー監督の「眺めのいい部屋」「モーリス」「ハワーズ・エンド」「日の名残り」といったミニシアター系で公開された名作、秀作と似た光と匂い、時間の流れを持った、なんともイギリス映画らしい作品で、懐かしく感じた。
それもそのはずで、「帰らない日曜日」はイギリスの権威ある文学賞であるブッカー賞受賞の作家グレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」を、世界各国の映画祭で注目されたエバ・ユッソン監督で映画化したラブストーリーなのだが、ブッカー賞も受賞しているノーベル賞作家のカズオ・イシグロ氏が原作小説を絶賛しているのだ。そのカズオ・イシグロ氏といえば、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンが共演したアイボリー監督の「日の名残り」の原作者なのである。イギリスの名門貴族に人生を捧げてきた老執事が自らの過去を回想する姿を描きベストセラーとなった。
第1次世界大戦後のイギリスが舞台の「帰らない日曜日」は、名家の子息と孤独なメイドの秘密の恋を描いている。「日の名残り」との共通点はまず、主人公の秘かな恋(思い)、そして回想形式をとっているところ。まるで絵画のようなイギリスの風景の中で展開する「帰らない日曜日」は、当時の時代を反映してか、スローモーションのようにゆっくりとしている。昨今のエンタテインメント大作の早い展開(演出と編集のリズム)に慣れている方は最初もどかしく感じるかもしれないが、陽の光と風を意識した画づくりにより、そのリズムが次第に心地よくなってくることだろう。そして、衣装や美術、登場人物たちの所作などから当時の貴族たちの美意識や、主人公のエレガントな官能が匂い立ってくる。
孤独なメイド、ジェーンを演じたオデッサ・ヤングは、邸宅内を裸で歩き回るシーンにも果敢に挑み、自由を求め、秘密の恋に陶酔するジェーンの心を大胆に表現。ジェーンに恋慕する名家の子息ポールには、大ヒットテレビシリーズ「ザ・クラウン」でチャールズ皇太子を演じて高い評価を得たジョシュ・オコナーが扮し、憂いある瞳が印象を残す。さらに、「英国王のスピーチ」のコリン・ファースと、「女王陛下のお気に入り」のオリビア・コールマンという、アカデミー賞受賞俳優が共演しているのも見どころのひとつで、作品をより格調高いものに引き上げている。そして、身分違いの秘密の恋とは別に、本作の根底には、戦争によって愛する家族や兄弟、子どもを失った悲しみと喪失感も流れているのが重要なテーマとなっている。
ジェーンは孤独な人生の中で、悲しい思い出とともに、愛に満たされた1日を生涯をかけて手繰り寄せるが、映画はその1日をまるで一瞬の光の中で描いているかのようだ。思い返せば、「眺めのいい部屋」「モーリス」「ハワーズ・エンド」も身分の違いや秘めた想い、禁断の愛を美しい風景とともに描いていた。「帰らない日曜日」はそんなイギリス映画の系譜を受け継いでいる。ちょっと立ち止まって、思い出のあの日に、あの懐かしい光の中に戻りたくなるような作品だ。
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