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「シン・ウルトラマン」斎藤工×長澤まさみ×西島秀俊が繋ぐ、現代の“子ども心”に向けた創造のバトン

2022年5月12日 12:00

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仲睦まじい様子で取材に応じた(左から)西島秀俊、斎藤工、長澤まさみ
仲睦まじい様子で取材に応じた(左から)西島秀俊、斎藤工、長澤まさみ

日本が誇る特撮ライブラリーにあって、燦然と輝きを放つキャラクター「ウルトラマン」が、庵野秀明の企画・脚本、樋口真嗣監督のメガホンにより「シン・ウルトラマン」として映画化されることが発表されたのは、2019年8月1日。新型コロナウイルスの感染拡大の影響から公開延期を余儀なくされたが、約3年を経て待望の公開となる。映画.comでは、完成した本編を鑑賞した直後の斎藤工長澤まさみ西島秀俊に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)

ベールに包まれてきた「シン・ウルトラマン」が、ついにファンの前に姿を現そうとしている。1966(昭和41)年の放送開始から56年、日本のみならず世界100を超える国と地域で放送され、絶大な人気を呼び愛されてきたウルトラマンは、令和の世に何を語りかけようとしているのだろうか――。

画像2(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

物語は、次々と巨大不明生物「禍威獣(カイジュウ)」が現れ、その存在が日常となるなか、通常兵器は全く役に立たず対応にも限界を迎えた日本政府が、禍威獣対策のスペシャリストを集め、禍威獣特設対策室、通称・禍特対(カトクタイ)を設立し、班長の田村君男(西島)をはじめ作戦立案担当官・神永新二(斎藤)、非粒子物理学者・滝明久(有岡大貴)、汎用生物学者・船縁由美(早見あかり)が着任。そして禍威獣の危機が迫るなか、大気圏外から突如現れた銀色の巨人。禍特対には、巨人対策のために分析官・浅見弘子(長澤)が新たに配属され、神永とバディを組む事に……。浅見が作成した報告書に書かれていたのは、「ウルトラマン(仮称)、正体不明」。

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■いまだに役割がよく分かっていなくて…(斎藤)

シン・ゴジラ」で特撮の新たな可能性を実証してみせた庵野氏、樋口監督が手がける「シン・ウルトラマン」に、キャスト陣は自分がどのような役割を求めて呼ばれたと感じていたのか聞いてみた。

斎藤「僕はいまだに役割がよく分かっていなくて、それが呼ばれた役割なのかもしれない……と感じながら参加していたのが、正直なところです。ただ自分の事はさて置き、おふたりの名前を聞いた時は、本当にありがたいなと思いました。西島さんが出ているから、長澤さんが出ているから……という、僕にとっておふたりは映画を観に行く象徴みたいなものなので、いち観客の目線で見た時に、おふたりが参加してくださってありがたいなと思いました」

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長澤「樋口監督とお仕事をするのは、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』以来14年ぶりでした。脚本をいただいた時点で、絶対に参加したいなと思っていたのですが、その頃に監督が舞台を観に来てくださって、『待っているからね!』とおっしゃったんです。そういう風に言っていただいた事が余計に嬉しくて……。一緒にお仕事をしていなかった期間に私が積み上げたものを見てもらえますし、自分にとっても良いチャレンジだと思いました。樋口組はCGパートを含めて監督がたくさんいらっしゃいますが、皆さん、本当に少年の心を持った楽しいお兄様方。とにかく作品づくりを楽しんでいらっしゃったので、こちらも安心して取り組めました」

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西島「自分は特になにか期待されて呼ばれたわけではないと思います(笑)。でもメンバーを見ていると、撮影現場で目の当たりにする初めての体験を戸惑うのではなく、楽しめる人が集まっていたのかなとは感じました。禍特対も毎回、『なんだこれ?』という事が起きて、現場で対処するじゃないですか。ちょっと語弊はありますが、メンバーそれぞれが自分の能力を使うことで、未知の体験にいかに対処するかを楽しんでいるような……。禍特対のキャスト5人とも、そういう部分が強いような気がしました。役割というよりは、そういうメンバーが集まって経験のない『あそこにこういうものがあります』みたいな説明を皆で共有しながら、演技することを楽しんでいたんです」

5月2日に行われた完成報告会見でも明かされているが、今作では俳優がiPhoneで撮影をしながら演じるというスタイルも積極的に採用されている。現場で同時に稼働したカメラは、実に17台。樋口監督が「回せるだけ回す。材料は多ければ多いほど良い……。しかし、お芝居に集中するべき時に邪魔をしていたのですね。配慮が足りなかったか」と冗談めかしてこぼすと、3人が同時に「そんな事はないです。良い経験になりました」とフォローするなど、良い製作現場であったことをにじませている。

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■「スタッフの皆さんの議論の仕方が大人げなくて(笑)」(長澤)

バレエ「くるみ割り人形」の原作のもとになった「くるみ割り人形とねずみの王様」を手がけた、ドイツの作家で法律家のE.T.A.ホフマンが残した言葉に「才能を疑い出すのが、まさしく才能のあかし」というものがある。プロフェッショナルであればあるほど、他人には見えない壁にぶつかり、その度に自分の才能を疑うのではないだろうか。今作の発想の源に触れるなかで、驚きを禁じ得なかったことに思いを巡らせてもらった。

斎藤「テクニカルな部分でいったら、僕らが知り得ないところまで膨大にあったと思います。ポスプロ(撮影終了後の全作業を指すポストプロダクション)の期間も含め、従来の映画作りの枠を超越したクリエイティブファーストの意識が凄く健全に感じました。何よりも、作り手の誰もが、自分の見たいものを作りたい気持ちが強かったのではないでしょうか。それを担えるだけのクリエイターって凄く限られていると思いますし、このプロジェクトに関わる人々すべてがそれを引率したと感じています。

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推測でしかありませんが、このチームで感覚共有をしてきたパートナーシップと申しましょうか、尾上克郎さん(准監督)、驫木一騎さん(副監督)、摩砂雪さん(監督補)をはじめとするチーム編成があったからこそ、このスケールのものを作品に落とし込み、成功に導けたのではないかと感じるのです。自分たちが熱狂した“あれ”という、言語化出来ないものに徹頭徹尾向かうという姿勢が現場に満ち溢れていて……。他にそういう現場がないわけではないと思うんです。大前提として好奇心があり、リスペクトすべきものに対し、自分たちが積み重ねてきた技術、思いを最大限に注力する姿は、本当に少年のように映る瞬間がたくさんありました」

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長澤「同様のことになってしまうのですが、スタッフの皆さんが現場でああでもない、こうでもないと熱く議論を交わしていたのですが、その議論の仕方が大人げなくて(笑)。見ているこちらが『こんな風に映画作りをしているんだ!』と驚くくらい、自分たちの子ども心を大切にしながら作品への愛情を注いでいたように思います。厳しい言葉で何かを伝えるというよりも、自分たちがかつて体感したものを求めて、それを映像化するということに宿命を感じているように思いました」

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西島「カメラが17台も回っていたわけですが、それでも『足りないカットがある!』と再撮影をするんです。いま、『こういう画が必要なんだ!』という思いで、実際にそれをやれてしまう環境が凄い事ですよね。これだけ一流の方々が集まって、それでも『まだ足りないんだ!』という良いものを作るための執念、求めるところに到達するまでの徹底的な努力に驚かされました」

■志高い現場に参加出来た事は、映画を作る一員としてとても幸せなこと(西島)

3人のコメントからも滲み出てきているが、円谷英二が生み出した特撮文化に最大限の敬意を払いながら、現代を生きるクリエイターたちが余すところなく能力を結集させて「ウルトラマン」をアップデートさせようとしている。半世紀以上も続いたから凄いのではなく、「ウルトラマン」が生まれた背景、それを支えた人々、熱狂した人々も含めた“心”が結びついた事こそが、かけがえのない事といえるのではないだろうか。3人は、この「バトン」をどう受け止めたのだろうか。

斎藤「『シン・ウルトラマン』以外にも『ウルトラマン』シリーズは今も続いていますから、この作品だけが大いなるバトンを……という訳ではないという思いがあります。きょう(5月2日)もBSプレミアムで、ウルトラマンに脚本家として参加した金城哲夫さんと上原正三さんを描いたドキュメンタリードラマ『ふたりのウルトラマン』が放送されるのですが、青木崇高さんと満島真之介さんが出演していて、楽しみにしているんです。

画像10(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

やはり歴史を振り返ると、ウルトラマンをデザインした成田亨さん、円谷英二さん、実相寺昭雄さんといった、カメラに映っていない主役がいっぱいいるシリーズですよね。今回の現場も、レンズがとらえている僕らだけではなく、現場にいる監督陣をはじめ全スタッフが、『今なら出来るかも!』ということを先人たちに目いっぱいリスペクトを込め、アップデートする時間だった気がするんです。

個人でバトンを……というのではなく、かつて子ども時代に興奮を覚え、その後いろいろな創造のきっかけになったウルトラマンを、プロジェクト全体を通して次の世代にどう託すのかという事だと思うんです。今を生きる少年、少女の子ども心に向けた、想像のバトンが紡がれていく。そういう船に一緒に乗せてもらったという気がしています」

長澤「先日、出演させていただいたある番組が、ウルトラマンの歴代ヒロインを探る……みたいな構成で作ってくださったんですね。初代ヒロイン(フジアキコ隊員役の桜井浩子さん)のお話の中に、ウルトラマンを作り始めた当初は世間に受け入れられるか分からない、ヒットするかも分からない中で凄く大変なアクションをしたり、火の粉を浴びたり大変な撮影だったとおっしゃられているのを見て、ウルトラマンを生み出した方々も手探りの中で作っておられたんだなと改めて感じるとともに、ウルトラマンもずっと手探りの中で成長していったのかなと思ったんです。

画像11(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

歴史って、新たな事柄が更新されていくからこそ歴史になるわけですよね。であれば、私たちが当たり前のように受け取ったバトンを次の世代へ繋ぐまでは、いま持っている力を出し尽くし、いろいろな事に興味を持って挑むことなのかもしれませんね」

西島「『ウルトラマン』といえば、ムラマツキャップを演じていらした小林昭二さんの存在が偉大で、ずっと見ていました。バトンというと正直おこがましい思いもありますが、子どもの頃はただただ格好よいし面白いと思って見ていましたけど、怪獣にも感情移入していたんですよね。絶対的な正義と悪ではないもの同士が戦っているということを、幼心に感じていたと思うんです。

画像12(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

皆さんが志高く始めて、子どもたちに伝えるということをずっと続けて来られた。それはいまも土曜日の朝の番組に繋がっていますし、そういう思いは『シン・ウルトラマン』の作り手の皆さんの中にも強くありますから、そういう志を胸に抱き取り組んできたことは作品から感じることが出来ます。そこにひとりのスタッフとして参加することが出来たのは、映画を作る一員としてとても幸せなことだと感じています」

■それぞれが明かす銀幕の魅力

撮影時の話を聞いていると、コロナ禍前の19年であったため当然ながらマスクなしの日常が、そこにはあった。この数年でいろいろな制約が増えたからこそ、誰もが現場のかけがえのなさを感じているのではないだろうか。取材の最後に、改めて銀幕の魅力を聞いてみた。

斎藤「幼少期からの原体験として、説明を超越した圧倒的な何かに劇場で対峙し、その言語化できない何かが自分の中に積み上げられていることかなと思っています。コロナ禍で、映画は映画館で観るものという事がまかり通らなくなってきていますが……。

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きょう、試写を禍特対のメンバーと並んで観る事が出来たんですね。ひとりで、スクリーンで観たとしても同じ気持ちになったと思いますが、現場を共にした仲間と鑑賞体験を共有するということが、やはり映画の最大の喜びだなと、観終わった後の時間に実感しました。質問の答えになっていないかもしれませんが、『シン・ウルトラマン』を観て、思いを強くしてしまいました。自宅で配信作品を見るというのは、映画館で映画を観るという経験を思い出すための行為なのではないかと」

長澤「デビューしたのが映画(『クロスファイア』)だったというのは大きいのかもしれません。ただ、仕事をしていくうえで日常の一部みたいな感覚もあったので、特別に意識したことはなかったんですね。私にとっては演じることが大事なので、観客の方々にただただ面白い作品、良い作品だなと思ってもらえるように、楽しんでもらえるような作品に関わりたいという思いだけなんです。映画もドラマも舞台も、どれも大切なもの。

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ただ、きょう『シン・ウルトラマン』を観て、本当にビックリしましたよ。出演している私たちですら世界観に驚かされましたし、衝撃的な作品になっていました。こんな作品、今まで観た事がない! という思いが強くて、たくさんの方々に観ていただきたいなという思いにかられました。私は1回じゃ理解出来なかった部分もあったので、何回も観に行かなくちゃ……と考えていました(笑)。今すぐにでも観直したいくらいです」

西島「健康で、落ち着いて生活出来ることが何よりも大事な事だと誰もが痛感したと思います。そのうえで、何かに感動した時にそれを共有したいという思いにかられたんです。それは音楽かもしれないし、食事かもしれない。自分が感動したり感銘を受けた事は、誰かと共有したくなるものなんでしょうね。少なくとも、僕はそういう意識を認識しました。

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映画だったらひとりで観てもいいけれど、やっぱり誰かと共有したいという思いは、皆さん持っていると思うんですよね。映画館であれば、知らない人たちが圧倒されている空気を体感し、一体化する瞬間ってあるじゃないですか。あれは独特なものだと思うんですよね。

きょうの試写も、始まる前、暗くなる時からワクワクしちゃって……。『ああ、始まる!』って、思わず目をつむっちゃいましたから(笑)。健康な生活の先にあるものとして、ああいう感覚をひとりでも多くの方に体感してもらいたいですし、映画はそういう感覚をもたらしてくれるものだと僕は思っています」

封切られたら、3人とも間を置かずに劇場へ向かいそうだが、それだけの手応えを掴んでいるからこそ筆者にその興奮を伝えてくれたのだろう。こちらを見据えながら話す姿は、まさしく“子ども心”を取り戻したかのような真っ直ぐな眼差しであった。

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