マリリン・モンロー、生と死に関する“新事実” エマ・クーパー監督が知られざる姿を告白
2022年5月3日 12:00
1950年代、アメリカのセックス・シンボルとして人気を博し、「七年目の浮気」「お熱いのがお好き」「紳士は金髪がお好き」などに出演した女優マリリン・モンロー。そんな彼女のキャリアと謎めいた死の真相に迫ったのが、Netflixで配信中のドキュメンタリー「知られざるマリリン・モンロー 残されたテープ」だ。同作のメガホンをとったエマ・クーパー監督が、単独インタビューで制作への思いを明かしてくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
本作では、モンローがどのようにしてスターダムへと上り詰めたのかという点をとらえつつ、伝記本「女神 マリリン・モンロ― “永遠のスター”の隠された私生活」の著者アンソニー・サマーズが行ったインタビューを使用。モンローと親交の深かった人物、ビジネス面で関わっていた者、そして彼女の死を捜査したジャーナリストや警察といった関係者たちに話を聞いている。
クーパー監督は、どのようにしてサマーズと出会い、本作を手掛けることになったのだろうか。
「アンソニーは非常に有名なジャーナリストで、(さまざまな題材を取り上げた)数冊の本を執筆しています。実は私自身、彼が別の本を執筆している時、一緒に仕事をしていたことがありました。その際、彼がマリリンに関する著書を読むよう、熱心にすすめてきたんです。『その本はいつ出版されるの?』と聞くと、1980年代初頭に出版したことを教えてくれたのですが・・・…その時点ではあまり読む気にならなかったんです。『40年前に出版された本から、何か新たなことを見つけられるのか?』と思ったから。でも、時間をかけて読み進めてみると、これまで知らなかった真実を発見しました。そこからアンソニーの住むアイルランドを訪れ、彼とともに時間を過ごしました。その過程で、彼が書いたマリリンに関する書物を読み、彼自身がリサーチしたドキュメントを見せてもらいました。アンソニーは、全ての内容を小さなペーパー用紙に書き記していて、その量は膨大。マリリンの関係者に取材したテープも聞かせてくれました。それらの内容から“私の知らなかったマリリン”の映画を作る方法に気づいたんです」
モンローは1926年に生まれ、28年には既に両親が離婚している。その後、10組の里親、2年間の孤児院暮らしを経験している。ここで生じる疑問が、なぜ実母と暮らさなかったのかというものだ。
「母親は、マリリンの子ども時代に、精神療養所に出入りしていました。マリリンが生まれて2週間が経った頃、家を出て行き、また戻ってきては面倒を見るという時期もありました。でも、それもできなくなっていきました。実は、マリリンと新たな人生を構築するため、母親は家を手に入れ、白いピアノを置いたこともあったんです。ですが、結局は精神療養所に入院してしまいました」
モンローの人格形成に話を転じる。里親との生活、孤児院で味わった“見捨てられることへの恐怖”“生き残るための能力”が深く関わっているのではないだろうか?
「私自身もそう思っています。彼女は自分のことを『Waif(浮浪者、家なき子)』と表現していました。だんだんと『Waif』から謎めいた人物になっていったと思っています。子どもの頃から多くの問題に対処しなければいけなかったという事実は、彼女に多くの強さを与えました。それと同時に脆弱性も与えたはず。歳を重ねていくうちに、それは大きな苦痛になっていきました。特にそれは、男性とのロマンチックな関係の中で生じるものでした。当時のハリウッドは現在よりも男性の影響力が強い場所でしたし、彼女の性格が成功をするための要因にもなりました。両親の不在がもたらす安定の欠如は、信じられないほどの内面の強さを生み出しました。その一方で、ロマンチックな関係では、誤ったタイプの人物の餌食になっていたのかもしれません」
モンローは、そんな男性優位の映画界で、20世紀フォックスの会長ジョセフ・M・シェンクと出会う。だが、モンローは大物の言いなりになるような人物ではなかった。本作では、女優になるため、そして自分の利益のために、当時のハリウッドのシステムを変えたという経緯が描かれている。人々のイメージとして根付いていた「Dumb Blonde(おバカな金髪)」とは、かけ離れている点が興味深い。
「ハリウッドの世界を自ら導いていくという点については、マリリンが本当にスターになりたかったことがうかがえます。その点に関しては、既に成功をおさめていますね。幼少期に孤立した経験があったからこそ、スタジオがどのように機能し、彼らがどうやって人々を所有&消費するかを(客観的な視点で)見ることができたんだと思います。彼女はハリウッドのシステムから自身を切り離し、ある種の観察者として再生したと思っているんです。だからこそ、男性たちの『彼女を利用した』という考えと同様に、彼女自身も『男性を利用した』と感じている。マリリンは、自分の制作プロダクション『マリリン・モンロー・プロダクションズ』を設立しています。あの当時、そのような決断をし、ひとりでこなすことができた女優が、他にいたでしょうか? スターになってからは“男性(権力を持ったハリウッドの上層部)”からの恩義を受ける必要はありませんでした」。
劇中では「荒馬と女」のジョン・ヒューストン監督が「脚本を覚えるのがとても早い」と語っていたり、「紳士は金髪がお好き」のタッグを組んだ女優のジェーン・ラッセルが「撮影後、演技指導者のもとへ通い、レッスンを受けるほど熱心な人物」と評している。
「そのことについては、私自身も知りませんでした。映画でも語られているように、一日中働いた後にもかかわらず、演技指導のコーチのもとに行っていたんです。ところが、世間では『遅れてセットに現れる』『台詞もろくに覚えない』と、少し天然のように扱われていましたよね。これはとても不公平。完全に間違っています。彼女は勤勉で、一生懸命働き、ビリー・ワイルダー、ジョン・ヒューストンといった巨匠たちも『彼女は素晴らしい女優だ』と思っていたんです。演技の技術を磨きたいと感じていたようで、時間をつくっては、ニューヨークに戻り、演技指導を受けていた時期もあったそうなんです。本が好きな読書家でもありました」。
本作では“残されたテープ”の存在が、ロバート・ケネディとの関係にリンクしていく。この“新事実”を知って、クーパー監督は何を考えたのだろう。
「まず、アンソニーがかなり多くの証拠を得ていたことに驚かされました。マリリンの死、彼女の最期の数時間については、これまで多くの書物が出版されてきましたが……この“残されたテープ”は、それら全てが間違いであると証明しているんです。マリリンが、自分のもとからロバート・ケネディを遠ざけようとしていた理由と証拠は、本当に信じがたいものでした。(殺人などの)不正行為の証拠はありません。しかし『亡くなったスター(=ロバート・ケネディ)が、彼女のもとから逃げる必要があった』。そして、そこには隠蔽工作があったと知ることになります。マリリンが亡くなった本当の理由は、わかりません。しかし、彼女の死は事実です。今作で描かれるいくつかの真実は、陰謀論に縛られたものではなく、その中間(グレイゾーン)のどこかにあるものなのかもしれません」
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