「カメラを止めるな!」仏リメイク版、ウクライナからのクレームでタイトル変更【パリ発コラム】
2022年4月30日 18:00

5月17日に開幕を迎えるカンヌ国際映画祭は、映画業界のなかでも率先してウクライナのサポートを表明していたが、思わぬところで波紋を呼ぶことになった。オープニング作品として発表されたミシェル・アザナビシウス監督によるフランス映画、「Z(Comme Z)」の題名に関して、ウクライナの映画協会がクレームを入れたからだ。理由はZという文字が、ロシア支持を彷彿させるためだという。
本作は上田慎一郎監督作「カメラを止めるな!」をリメイクしたゾンビ・コメディなので、もちろん制作側にそんな意図は微塵もないのだが、協会側は「制作者の意図に関係なく、ロシアのローカル・メディアではすでに(この題名を)プロパガンダとして利用している」とのことで、題名の変更をすることでアンチ・ロシアの意図を表明してほしいと、映画祭とアザナビシウス監督に求めた。
もともとインターナショナル向けの英題は「Final Cut」であり、急遽リモート開催になったために出品を取りやめた1月のサンダンス映画祭でも、この題名になっていた。だがアザナビシウス監督は、「フランス国内の題名を変えたのは、これはゾンビ・コメディであり、フランスではB級映画のことをセリーZ(Zシリーズ)と呼ぶことからインスパイアされたもの。ウクライナの人々に苦痛を与えることになってしまったのはとても悲しい」と説明。またカンヌと同日にフランスで劇場公開されるため、宣伝的に今から題名を変えるのは無理、と当初語っていたにもかかわらず、結局「Coupez!」(カット)という題名に変更することにしたと発表した。
もっとも、ウクライナ映画協会は、今回コンペティションに入選したロシア人監督キリル・セレブレンニコフの新作「Tchaikovski’s Wife」にもクレームをつけている。ロシア政府から不当な理由で軟禁を被っていた彼は本来、反政府側の象徴のようなアーティストであったが、最近軟禁を撤回されて国外への移動が可能になり、パリに滞在している。こうした混乱した状況のもと、ロシアン・マネーで製作された本作をカンヌに招聘するのは不適切ではないか、というのがウクライナ側の訴えのようだ。現状、こちらの訴えについては、映画祭事務局は沈黙を通している。

さらに、この原稿を書いている矢先に発表になった審査員メンバーのセレクションに関しても、これから一悶着起きそうだ。噂では映画祭のオファーを辞退したというペネロペ・クルスに変わり、審査員長に収まったのがヴァンサン・ランドン。それは問題ないとして、レベッカ・ホール、ノオミ・ラパス、ラジ・リらメンバーに混じって、アスガー・ファルハディも名を連ねているからである。
ファルハディは新作「英雄の証明」が盗作だとして、彼が教えていた元女生徒から訴えられ、現在イランで裁判が行われている最中。彼は訴えについて否定しているものの、彼女が作ったドキュメンタリーは、現在ソーシャルネットワークを通じて公開されている。これを観ると、刑務所から出てきた男が金を拾ったものの、持ち主に返すという骨格はそのまま。もちろんファルハディの作品はフィクションであるし、詳細は異なるが、少なくとも係争中の監督を審査員に招くというのは、デリカシーに欠ける気がする。あるいはこれも映画祭側の意思表示と考えるべきなのか。
また、映画祭側が予告していた各部門の追加作品が発表になった。それによると、コンペティションにはアルベール・セラ(「ルイ14世の死」)とレオノール・セライユ(「若い女」)の新作、フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン(「ビューティフル・ボーイ」)とシャルロット・ヴァンデルミールシュの共作の3本が追加に。またそれ以外のオフィシャル・セクションでは、ルイ・ガレル監督作、エマニュエル・ムレ新作など、計15本が追加された。
果たして、今年のカンヌはどんな様相を呈するだろうか。(佐藤久理子)
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