【「親愛なる同志たちへ」評論】歴史ドラマでありながらリアルな恐怖を感じさせる、タイムリーな作品
2022年4月3日 14:00

1962年、当時のウクライナ・ソビエト社会主義共和国マリウポリから東方200キロにあるソビエト連邦ノボチェルカッスク。食糧価格の高騰が住民を苦しめ、政府の正当性を疑う声も公然と出ている。リューダは市政委員会で生産部門を担当する共産党員であり、食糧配給で密かに優遇を受ける特権的な立場だ。彼女は、台所でレーニン主義者の記章をつけながら酒を飲む元革命家の父と、地元の経済を支える電気機関車工場で起きている労働者たちによるストライキの熱に浮かされている独立心旺盛な娘と一緒に暮らしている。その大規模なストライキは国家レベルでの危機とみなされ、状況を統制するためモスクワの上層部が集結、緊急会議で軍隊とKGBを殺意を持って現場に送り込むことを決定。会議に参加していたリューダは厳しい取締りに賛成しつつも、同時にその決定は家族を危険にさらすことになる。
オープニング・クレジットにロシア文化省のスタンプが押されているので、この映画をボイコットするのが今の一般的な意見かもしれない。この映画は、過去の権威主義的で暴力的な政府を描き、現在の政権と明らかに類似しているという点で確かに反政府的だが、物語のほぼ絶望的な結果は、批評と同時に恐怖の教訓として、その賛否を観客に問いかけているのだ。アンドレイ・コンチャロフスキー監督はガーディアン紙のインタビューで、「物理的な暴力ではなく、心理的な暴力についての」「あいまいで両義的な」映画だと述べているが、最も重大な犯罪はニヒリズムである。本作を見る人は、たとえロシアの映画にお金を払うことになったとしても、ロシアの歴史やこの国の身近な国内事情について学ぶことになるのだから、それはとても有意義な事だと思う。
基本的に白黒でゆっくりとした口調の映画だが、大虐殺のシークエンスは騒乱の中で突如発生し、それまでとは対照的に残酷で激しいアクションシーンになっている。「戦艦ポチョムキン」のオデッサの階段での蜂起シーンほど複雑ではないが、特に現在のこの地域の危機と重ね合わせてみると、同じように悲惨だ。私がこの映画を最初に観たのはウクライナ侵攻の直前で、映画の中で描かれている現代を模倣したような言論統制や集団監視に対して懸念を感じた。侵攻の後、2度目に観たとき、この映画は新しい現実の恐ろしさを表現するように変化していると感じた。ロシアが第93回アカデミー賞国際長編映画賞に出品したこの作品は、歴史ドラマでありながらリアルな恐怖を感じさせるものになってしまった。歴史の激動期に、タイムリーに公開される作品だ。
(C)Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020
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