「TITANE チタン」ジュリア・デュクルノー監督がこだわる無名俳優の重要性 三池崇史、中田秀夫ら日本の監督と話してみたいことは?
2022年4月2日 10:00
第74回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを獲得したジュリア・デュクルノー監督の「TITANE チタン」が公開された。審査委員長を務めたスパイク・リーは「これまでに見たことがなかった映画」と評し、ポール・トーマス・アンダーソン、エドガー・ライトら世界の名匠が賛辞を贈り、デュクルノー監督自身も「モンスター」と呼ぶ、驚くべき怪作だ。
交通事故に遭い、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれた少女が成長し、車に対して異常なほどの執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになってしまったその後を描く物語。
長編第1作で、カニバリズムに目覚めた少女の成長を描く「RAW 少女のめざめ」(2016)でも話題を集めたように、今作も目を覆いたくなるようなバイオレンス描写が多いことから、万人に薦めることはできない作品ではあるが、鉱物を溶かすようなエネルギーに満ち溢れ、鑑賞後の観客に、途方もない衝撃と感情を呼び起こす。このほど、オンラインインタビューに応じたデュクルノー監督に話を聞いた。
私は幼いころから物語を書くのが好きで、詩も書くようになり、大きくなったら書くことを仕事にしたいと思っていましたが、それがどういう形でどのようなキャリアになるかはわかりませんでした。両親がかなりのシネフィルだったので、小さい時からクラシック映画を見る、小説も古典を読むということを教育のように、良い形で触れさせてくれました。その時に私は映画が好きになり、高校で文学専攻のクラスにいたことで映画の脚本家という仕事を知り、この道に進むしかないと思ったのです。
クローネンバーグ監督、三池崇史監督、中田秀夫監督には共通項があります。それは身体の扱い方です。映画の中で身体がいつも重要で、象徴性を持っているのです。もしお会いできる機会があればそういった話をしたいですね。
私は無名の俳優を発掘するのが好きです。今回のアガトも、前作の「RAW」のガランス・マリリエールも。彼女たちのような新しい才能を発掘することは私にとっての喜びです。フレッシュなエネルギーをもたらしてくれるのです。しかし、多くの条件がそろった人物を見つけなければならなかったわけですからキャスティングは大変でした。
無名ということがなにより大事でした。既にほかの役をやっていて、観客が昔の役を想像するような俳優ではいけないのです。オーディションでは、ジェンダーに関係なく若い男性も対象にしていました。アレクシアのルックスをアンドロジナス的、流動的なキャラクターとして造形したかったので、アガトを見つけて、すぐにアレクシア役は彼女だと確信しました。
もちろん身体的な魅力もありました。彼女の全身を撮影したいと思いましたし、後は彼女の顔。様々なアングル、光によって変わるのです。それは映画監督にとって、とても心地の良いことです。そういったビジュアル的な複雑さを持った顔なのです。
彼女は俳優としての大きなキャリアはありませんから、演技に期待をしていたわけではなく、彼女の持っている潜在能力とバイタリティを買いました。1年間かけて彼女の身体と演技に磨きをかけ、様々なシーンを演じてもらいました。アレクシアの役柄にはほとんどセリフがありません。だからこそ身体と顔の表情で感情を表現することに時間をかけてもらいました。
「RAW」に出演したガランス・マリリエールは、「TITANE」でもジュスティーヌを演じています。私は作品の中に血縁関係を作ることが好きなのです。同じ人物でありながら違う側面を持っている、「スパイダーマン」のマルチバースのような存在です。
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