【コラム/細野真宏の試写室日記】「ドリームプラン」が示す“面白い映画”の条件とは?
2022年2月23日 07:00

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
まず、誤解を恐れずに言うと、今週の2月23日(水・祝)から公開される「ドリームプラン」は、「マンガのような映画」と言えるでしょう。
それは、大まかなストーリーからも分かると思います。
主人公は、“テニス未経験”だったリチャード(ウィル・スミス)。テレビで「優勝したテニス選手が4万ドルの賞金を受け取る姿」を見たことで、彼は自分の子供をテニスの世界チャンピオンにしよう、と考えます。
そして本などで知識を得ながら、子供が生まれる前に「世界王者にする78ページの計画書」(ドリームプラン)を独学で作ります。
その計画書に基づき、自分の娘2人にテニスの特訓をします。

ただ、黒人ということもあり、練習さえままならない劣悪な環境に追いやられています。
さらに、テニスで成功するには、コーチ代などでお金がかかるものですが、途方もなく無謀なことを計画している主人公なので当然(?)お金もコネもありません。
そのため、有名なコーチたちに連絡し「子供に才能があるから、無料で教えてほしい」とお願いしたりもします。
もちろん、そんな親バカな感じの非常識な要請は、門前払いを食らうわけですが…。

2人の娘も父親を信じ続け、ひたすら練習に励みます。
ところが、意外にも父親リチャードは「常識人」のような面もあるのです。娘たちにテニスばかりを教えるのではなくキチンと勉強をやらせたりと、自分を犠牲にして子供のことを全力で考えているのです。
さらには、世の中の常識的な手法とは違う「独自の考え」を頑なに守るなど、とにかく端々から「信念の強さ」だけは感じられます。
このように、物凄く変わった父親を主人公とした「スポ根もの」の作品ですが、最終的には、その娘は2人とも世界チャンピオンにまで上り詰めてしまうのです…!
「栄冠を勝ち取るまでに何があったのか?」ということを誰もが知りたいと思いますが、まさに本作がその答えを教えてくれるわけです。
もちろん映像も迫力があり、特に娘たちのテニスシーンは圧巻でした!
こんな絵に描いたようなサクセスストーリーが、未だ現実の世界にあったのかと驚きましたが、「実話」なので素直に納得できます。


しかも、作品の出来も良いので、本年度の第94回アカデミー賞で「作品賞」「脚本賞」を筆頭に、父親を演じたウィル・スミスが「主演男優賞」、母親を演じたアーンジャニュー・エリスが「助演女優賞」、エンディングテーマ「Be Alive」を歌ったビヨンセが「歌曲賞」、さらには「編集賞」と主要6部門にノミネートされているのです。
中でもウィル・スミスの「主演男優賞」は、本命視されてもいます。(私は、ウィル・スミスが演じたリチャード・ウィリアムズのことを知らないのでどれだけ言動が似ているのか判断できないのと、未だ見ていないノミネート作もあるため断定はできませんが、本命視されるのは十分に理解できます)
もしウィル・スミスがアカデミー賞で「主演男優賞」を受賞すれば、伝説のプロボクサーのモハメド・アリ役を演じた2002年公開作「ALI アリ」、2007年公開作「幸せのちから」でのノミネートに続き、“3度目の正直”での「初受賞」となります。

この、「アカデミー賞で主演賞が確実視され、スポーツもので実話である作品」という流れで思い起こすのは、2010年公開作「しあわせの隠れ場所」です。
第82回アカデミー賞(2010年)では「作品賞」「主演女優賞」にノミネートされ、サンドラ・ブロックが「主演女優賞」で本命視されていて、 見事「主演女優賞」に輝きました。

この第82回アカデミー賞は本当にレベルが高い年で、「アカデミー賞関連で、スポーツもので実話である作品」という点では、「インビクタス 負けざる者たち」もありました。
こちらはクリント・イーストウッド監督作で、モーガン・フリーマンが「主演男優賞」に、マット・デイモンが「助演男優賞」にノミネートされていました。
この2作品とも名作で、かなり深みのある「実話」でした。

ちなみに、「ドリームプラン」はRotten Tomatoesでは、批評家の評価は90%、一般層の評価は98%(2022年2月22日時点)となっていて、「プロと一般のどちらの評価も高い」という非常に珍しい事態となっているのです。
このように、ちょっと信じられない、実話でなければ「荒唐無稽」と切り捨てられるであろう物語にこそ意外性と説得力があります。そして、その大きなギャップに面白さが潜んでいるのだと思います。
さて、最後に肝心の興行収入についてですが、実はコロナ以前から、どうも「アカデミー賞関連作品でも“全体として”は思っているほど伸びていない現実」もあります。

例えば、まさかのレディー・ガガがアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされないというハプニングもありましたが、2000年に発売されたノンフィクション小説をベースに実話で構成され、1970年から30年間という期間が描かれた巨匠リドリー・スコット監督による「GUCCI(グッチ)」創業者一族のサスペンス映画「ハウス・オブ・グッチ」が2022年1月14日から一足早く日本で大規模公開されていました。
コロナ禍の影響がどれだけあったのかは計りかねますが、評判は良かったのに日本での興行収入は5億円に届かず4億8000万円を超えるくらいで終わってしまいそうです。
どうやら現状では、この系統の作品は「興行収入5億円の壁」があるようなので、非常に良質で面白い“常識破りの作品”である「ドリームプラン」には是非ともこの「常識」(壁)を打ち破ってほしいと期待します!
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