第72回ベルリン国際映画祭、金熊賞はスペインのカルラ・シモン監督「Alcarras」 カンヌ、ベネチアに続き女性監督に栄冠
2022年2月17日 17:00
第72回ベルリン国際映画祭の授賞式が、現地時間の2月16日に開催され、金熊賞をスペインの女性監督、カルラ・シモンの長編2作目にあたる「Alcarras」が受賞した。昨年のカンヌ、ベネチアに続きベルリンでも女性監督に栄冠がわたり、3大映画祭を続けて女性が制覇することになった。
本作はカタルニア地方のアルカラスという土地を舞台に、桃農園を経営する一家が、土地の権利書を所有していなかったために農地を追われることが決まり、最後の夏を過ごす様子を描いたもの。前作「悲しみに、こんにちは」でも子どもを主人公にしたシモン監督は、小さい子どもたちの表情を巧みに捉えながら、大家族のそれぞれの思いをカメラに収める。強烈なインパクトのある作風ではないが、緩やかな表面の下の微妙な感情を掬い取りながら、大家族の肖像をまとめた手さばきに、安定した技量を感じさせる。
審査員グランプリを受賞したのは、ベルリン常連のホン・サンス監督作「The Novelist’s Film」。一昨年の「逃げた女」で銀熊監督賞、昨年は「イントロダクション」で銀熊脚本賞に輝き、3年連続の受賞となった。人気作家が旧友を訪ねることから、数珠繋ぎのように出会いを重ねる。皮肉の効いたいつものホン・サンス節は相変わらずだが、あまりにこなれ過ぎていて、受賞はもう少しチャレンジングな若手作家に与えても良かったのではないかと思われた。
監督賞は、こちらもベテランのクレール・ドゥニが受賞。昔の恋人を街で見かけたことがきっかけで、新しい恋人がいながら元彼への熱い思いを断ち切れないどっちつかずの女をジュリエット・ビノシュ主演で描く。この監督にしては珍しい、シンプルな激情を扱った作品だ。
審査員賞はメキシコ、アルゼンチン合作のナタリア・ロペス・ガラルドの「Robe of Gems」へ。田舎に越してきたばかりのシングルマザーが、女性の失踪事件をきっかけに、土地の暗い秘密に直面する。静かな緊張感とヴァイオレンスが融合し、印象深い。
昨年から男女の性別をなくし、主演賞と助演賞のカテゴリーになった俳優賞は、アンドレアス・ドレーゼン監督のドイツ映画「Rabiye Kurnaz Vs. George W. Bush」のメルテン・カプタンが主演賞を受賞。濡れ衣によりグアンタナモ収容所に収監された息子を助けようとする母親の実話を元にした作品で、脚本賞もダブル受賞した。シリアスな素材にもかかわらずコメディの要素もあり、政治家もものともしないカプタンの持ち味が強烈だ。正式上映では実の母とその弁護士も参加し、会場は大拍手に沸いた。
一方助演賞は、ウォン・カーウァイのような映像スタイルのカミラ・アンディニ監督作「Nana」に出演したラウラ・バスキに授与された。さらに、クレイ粘土を用い人類の歴史を鮮烈に風刺したリッティ・パンとサリト・マングの「Everything Will Be OK」が、銀熊芸術貢献賞受賞。素人を起用し、アルプスの山を舞台にきりきりとした人間ドラマを紡いだミカエル・コッシュの「A Piece of Sky」が特別メンションを授与された。
他にも、イサキ・ラクエスタがパリのコンサート会場のテロを描いた「Un Ano,una noche」、「アマンダと僕」のミカエル・アースによる「Les Passagers de la nuit」、中国の気鋭リー・ルイジンの「Return To Dust」などは評価が高かったが、無冠に終わった。
今年はメイン会場やプレス試写では24時間ごとの新型コロナ抗原検査を設け、会場の定員を半分にするなどコロナ対策が強化された。その一方、前半ですでに2桁の陽性者が出たという。リスクゼロということはあり得ないにしても、来年にはこの波がなんとかおさまっていることを願いたい。(佐藤久理子)
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