小説家の映画

劇場公開日:

小説家の映画

解説

韓国の名匠ホン・サンスが2人の女性アーティストの友愛と連帯を描き、2022年・第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞したドラマ。

著名な小説家だがスランプに陥り長らく執筆から遠ざかっているジュニは、音信不通になっていた後輩を訪ねるため、ソウルから離れた閑静な町・河南市へやってくる。そこで偶然知りあった元人気女優ギルスに興味を抱いたジュニは、彼女を主演に短編映画を制作したいと提案。かつて成功を収めながらも人知れず葛藤を抱えてきた2人は、思いがけないコラボレーションをすることになる。

ホン監督の公私にわたるパートナーであるキム・ミニが女優ギルス、「あなたの顔の前に」のイ・ヘヨンが小説家ジュニを演じ、共演にもソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、キ・ジュボンらホン監督作の常連俳優が顔をそろえた。

2022年製作/92分/G/韓国
原題または英題:The Novelist's Film
配給:ミモザフィルムズ
劇場公開日:2023年6月30日

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第72回 ベルリン国際映画祭(2022年)

受賞

審査員グランプリ(銀熊賞) ホン・サンス

出品

コンペティション部門 出品作品 ホン・サンス
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映画レビュー

4.0withコロナのホン・サンス

2023年7月2日
iPhoneアプリから投稿

 ちょっと近寄りがたい。でも、毎回なぜか吸い寄せられてしまう、ホン・サンス作品。今回も、はっと気づけば幕切れ。きつねにつままれたようで、思わず顔がほころんだまま、劇場を出た。
 相も変わらずのモノクローム、控えめなクローズアップから始まる、登場人物たちの取り止めない会話。まさしく、ホン・サンス印だ。電車やカフェでたまたま居合わせた、見知らぬ人たちの親密な会話を漏れ聞いているような気持ちになる。言葉の端々や互いの反応で、彼らの関係性や過去が何となく察せられる。とはいえ、謎解きにのめり込んでしまっては、目の前の世界が味わえない。ほどほどに頭をめぐらせながら、彼らのやり取りを眺め、聞いているうち、彼らが繰り出す言葉以上に、「あるもの」から目が離せなかくなった。
 ここ数年で、誰もが日々の生活に欠かせなくなくなったもの、マスク。映画の中の彼らは、常にマスクをした姿で出会う。親しければマスクを外したり、ずらしたりして、顔全体を見せる。会話の中でも、マスクに手をやったり、少し位置を変えたりし、最後はしっかりマスクで口を覆って別れていく。
 目は口ほどに物を言う、というけれど、意外にそうでもない、とこの数年で痛感した。だからこそ、以前より少し大げさに笑うし、自他の目に意識が向く。一方で、マスクをずらしたり、位置を直すことで、相手への感情(近づきたいとか、距離を置きたいとか)をさりげなく滲ませることにも長けてきた。本作の登場人物たちもまた然り…と思うと、彼らの指先とマスクから、目が離せなくなった。相手に礼儀正しくと思ってのマスクなのか、単なる無配慮ゆえのあごマスクなのか…などなど、想像がふわふわと広がった。
 小説家が撮った作品を観る試写室(または小さな映画館)は、間引きのためのビニールテープが容赦なく座席に貼り付けられている。そんな頃が、身近にも確かにあった。そんな殺伐とした中で、映画は上映され、主演女優は思いのほか感情を乱す。区切りを作られても、終わりが来ないコロナとの生活のように、創作との生活もまた続いていく。
 こうやって書きながら思い返すうち、いつになく幸せな気持ちにさせてくれる作品だった、と改めて気づけた。またいつか、ふっと観返し、彼らに会いたい。

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cma

3.5不思議なほど心地よいエンドレスな会話の中で、ほっと深呼吸

2023年6月30日
PCから投稿

『小説家の映画』はやっぱりいつものホン・サンス映画だった。ここでは取り立てて大きな事件など何も起きていないように思える。だが、「お久しぶりです」「ああ、お元気でしたか?」から始まる何の変哲もない会話のキャッチボールで、各々の性格や人生の現在地が全く説明的でなく、極めてナチュラルに紡がれていく点には驚かされる。このソウルからちょっと離れた場所で出会う二人の女性、小説家と女優は、共に本業からちょっと距離を置いているらしい。ただ、感性のままに言葉を返す女優に比べて、小説家は偶然を予め計画しているようにも思える。だから何だというわけではないが、とにかく彼らの会話に引き込まれると最後。こちらはいろんな言葉や表情に想像力を刺激され、彼らのあれこれが知りたくて仕方がなくなってしまう。そんな余白が多めなのもホン・サンス映画らしい。大都市から離れてゆっくりしている人たちの空気感が何だかとても居心地よいのだ。

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牛津厚信

3.5Another Snack from Hong

2023年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

Common elements found in Soo's films are here: women searching for the next step, egocentric male filmmakers, closure at the cinema—Novelist's Film also parallels the director's use of cinematic language to generate mystery and thought. It's much less abstract and yet harder to piece than usual. As an example, it encourages the new artist to simply string together conscious ideas to make a whole.

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Dan Knighton

4.5ホン・サンスの映画哲学

2024年7月17日
Androidアプリから投稿

観るものの心のどこかにチクリと刺さる会話、長回しの緊張感、固定カメラからのズームアップという遊びのようなリズム。

ドキュメンタリーではないが、ウソがないってセリフがあったけど、まさにそんな感じ。

だけど、ホン・サンスの心にはそれ以外の何かが見えているはず。それはいったい何だろうと考えながら観ていた。

なんとなく寒々としたモノクロの世界で、劇中劇の鮮やかなカラーにハッとした。キム・ミニの夫の存在と二人の関係が面影として現出していたのだ。

面影とは、目の前にはいない誰かことではない。そのことやその人のことを、思えば見えてくるというか、思いをもつことがきっかけになって浮かぶもの。

葛藤を持つ大人たちの事情を「面影」として撮ること。それがホン・サンスの映画哲学なのかもしれない。

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Raspberry