【「ウエスト・サイド・ストーリー」評論】スピルバーグ初のミュージカルは、達人のメソッドで古典の精神を伝える
2022年2月5日 15:00

「レディ・プレイヤー1」(18)から約3年ぶりとなるスティーブン・スピルバーグの新作は、「オールウェイズ」(89)「宇宙戦争」(05)に連なるリメイク企画。しかもオリジンが偉大、かつウルトラメジャーときた。当人は1957年に発表された、ブロードウェイ舞台の再構築だと言うが、1961年の映画版を意識したレイアウトが随所に見られ、文化にタイトルを刻んだそのマスターピース「ウエスト・サイド物語」に慎ましくも畏敬の念を示している。
自分たちの生活圏をめぐってプエルトリコ系住民とヨーロッパ移民の子孫が反目し、シャークスとジェッツを名乗る2派のストリートギャングが争う渦中で、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」をベースにしたロマンスを歌う本作。この周知されたプロットとミュージカルナンバーを踏まえながら、ダンスパートにさらなる動的演出をほどこし、映画としての濃度を高めているのがスピルバーグ流だ。そもそも舞台史・映画史に燦たり輝く前作と比較される、そんなリスクを背負えるのも氏の格あればこそだろう。
だが何にも増して最たるスピルバーグらしさは、近作に顕著な社会への言及性にある。異なる民族的背景を持つ者の対立感情をより明白に示し、分断世界への語気を強め、もとよりあったテーマを今日のものへと昇華させている。それは1950年代のマンハッタンをリアルに再現し、シャークスのメンバーにプエルトリコ系の俳優をキャスティングした、設定に忠実なアプローチからもうかがえる。
また監督は旧コンテンツを現代に適合させるいっぽう、ヴィンテージなミュージカルスタイルの再生を果たし、高揚するような楽しさとジャンルへの愛を深々と感じさせてくれる。歌とドラマがシームレスに展開する、今のハイテンポな歌劇に慣れた目に、その悠然としたさまは風雅に映るだろう。かつては革新者としてハリウッドのエンターテインメントを牽引してきた監督が、正統なテーマに向かい古典の語り部となる。なにより半世紀近くに及ぶ監督キャリアにおいて、念願だった初のミュージカルだ。これほど理想的な到達点は他にないのかもしれない。
いったいなぜ今「ウエスト・サイド物語」なのか??? その疑問に「ウエスト・サイド・ストーリー」は、良質な形で納得のいく回答を与えてくれる。クラシックの精神を自前の達人的メソッドで伝えようとしたスピルバーグの取り組みは、間違いなく功を奏したといえるだろう。

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