【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「名付けようのない踊り」
2022年2月1日 19:00

世界的なダンサーで、俳優としても活躍している田中泯さんを、「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」の犬童一心監督が描いた作品。あまり興味のない人でも、ぜひ予告篇だけでも見てほしい。本来的な肉体の美しさとはこういうものか、と思わず目を瞠らされるだろう。
田中泯さんは、ステージではなく街角や自然の中などで即興的に踊る「場踊り」の活動を続けている。わたしは以前、山梨の富士吉田まで場踊りを見に行ったことがある。「このあたりで踊る」という日時と場所は告知されているので、そこに行ってみると観客らしき人たち数十人が三々五々集まっていた。
しばらくして「始まりました」と遠くで声が聞こえ、その方向へと向かってみると、寂れた飲み屋街の一角、廃墟となったキャバレーのたもとの草むらに、田中泯さんが横たわっていた。身体を小刻みに揺らしながら、やがて立ち上がり、廃墟にもたれるようにして手を壁に這わせ、踊り始める。なんというか、ただそこに田中泯というダンサーの肉体が存在しているだけで、ただそれだけで心を揺さぶられる不思議な体験だった。

田中泯さんは終戦の年に生まれて現在76歳。171センチの肉体にはまったく贅肉などついておらず、しかしトレーニングによって鍛え抜かれているというよりは、まるでインドのサドゥー(行者)のようである。
この謎は、作品の中で本人の言葉によって明かされる。田中泯さんは1980年代から山梨県の山村に移り住み、農業を中心に暮らす日々を送っている。農作業をしながら彼は言うのだ。
「ダンサーはダンスを目的に体を作ってしまう。その身体で踊るのは僕は違うと思う」

その肉体で日本でも世界でも、ひたすら踊る。その姿をカメラは追い続ける。モンベルのキャップにコンバースのシューズ、それに着古した着物というシンプルな出で立ちがものすごくカッコいい。加えて傑作「頭山」で知られるアニメ作家山村浩二氏が、フィルムに鉄筆で絵を直接刻む「シネカリ」という手法で子供時代の田中泯さんを描き、これが作品にリリカルな詩情を加えている。
言い尽くされたことばかもしれないが、まさに「圧倒的な存在感」。その圧倒的な存在感をただ観にいく。それ以上何も求めなくていい、そんな素晴らしい映画である。

(C)2021「名付けようのない踊り」製作委員会
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